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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第二章・刀刃帝と獄炎帝
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姉妹と交戦

 お姉様――って事は!


「あ、あの子……四帝ってことじゃないか!」


 隠匿の魔法が解けないよう、ヒソヒソとチチシロに伝える。


「……本当に、ヨウと出会ってからは色んな人と会えて退屈しないね」


 自嘲気味にチチシロも笑っている。


「私を知ってるという事は、やはりあなたはあのオルガなのね」

「その特異な力……あの頃は随分と苦労させられましたし、見間違えようも、勘違いのしようも、ましてや忘れようがないですわ」

「あの頃……ああ、懐かしいですね。城にいた時はよく遊んだものでした。あなた、凄く見た目が変わりましたね?」

「今はその事はいいでしょう。……それより、お姉様がわたくしにいったいなんの御用でしょうか? わたくし、用事があるので先を急ぎたいのですが」

「つれないわね、私の計画を散々にしてくれた話が聞きたいだけよ」


 そう言いつつも、オルガの姉、ウルーナは殺意を緩める気配はない。


「なんなのよ……この娘は」

「ミウさん、お気をつけください。姉様の力は『刃』、伸縮する尾刀にご注意を」


 ミウがウルーナを娘と呼ぶのも無理はない。ウルーナの見た目は20代いっているかどうかぐらいであり、ポニーテールを携えている。しかし、そのポニーテールが揺れることはない。なぜかは不明だが、ウルーナは常にだるそうにしている印象を受けた。

 服装はやたら豪華に着飾っていたオルガとは異なり、軽くて如何にも動きやすそうな軽装備。とはいえ、細部細部に装飾が施されており、オルガのそれと同等であるという事を感じさせる。オルガは見た目だけ見れば完全な人間だが、ウルーナは臀部から尻尾が生えている。その先端は片刃の刃物状になっており、おそらくこれが尾刀なのだろう。

 そんな、だるそうではあるが、余裕たっぷりといった様子のウルーナは欠伸を一つ、


「ふぁあ……さて、それじゃあお手並み拝見といきますか」


 サクッと、ウルーナは臀部から伸びる尻尾を地面に突き刺すと、それをたゆませて腰掛けた。


「ず、随分と舐めてくれるじゃない……」


 ミウの眉間に青筋が走る。


「【消えない炎(エターナルフレイム)】」


 一方で、挑発に動じないオルガはウルーナめがけて黒い炎を繰り出す。

 この技、一度着火すると魔力が尽きない限り、永久に燃え続けるという恐ろしい技だ。

 しかし、その効力の代償としてスピードが遅い。だが、余裕こいてる今のあいつになら!


「『無尾』」

「え……」


 俺の期待とともに、消えないはずの炎は尻尾のただ一太刀でその輝きを失わせる。


「オルガ、私の力を忘れたわけではないでしょう?」


 速尾、斬尾という声とともに、ゆらりと、さらに二本もの尻尾がスカートから這い出てくる。


「……同時に出せるようになったんですのね」

「ふふ、そうよ。さ、あなたもウロボロスを出しなさい。待っててあげるわよ?」


 よく見ると、尻尾はそれぞれ先端の形状が異なっている。

 炎を消した尾には刀身を薄い膜のようなものが張っており、新しく出てきた尾には真っ黒のものと、風が取り巻いているものの二つがある。


「……その必要はありません。今は、仲間がいますから」


 て、まずい! そうだった! オルガは今、ウロボロスを出せないんだった!

 それはつまり、本気のオルガと同じ、もしくはそれ以上の力を誇るウルーナと、力を制限した状態で戦わなくてはならないってことだ。


「意地を張っているの? それとも――」

「【固まる大気(ソリッド・エアー)】」


 追求を防ぐためもあるのか、ミウも戦闘に混ざる。


「私の事を忘れてるんじゃない?」

「こっ……無駄なことを」


 空気固定による、身体と呼吸の拘束をウルーナは尾の一振りで解消する。

 しかし、その一瞬でオルガはウルーナに肉薄し、近接戦へと持ち込む。


「【突き抜ける炎(ペネトレイトフレイム)】!」

「っと、いきなりですか」


 飛び出る炎付きの掌底をスウェーで回避しつつ、尻尾を体に巻きつけるように薙ぎ払ってオルガに無理やり距離をとらせる。


「殺しはしませんが……あなたなら、生きてさえいれば問題ないでしょう」

「あら、甘く見られたものですわね」


 およそ姉妹のものとは思えない殺伐とした会話を皮切りに、ウルーナは尻尾に腰掛けるのをやめる。


「ふぅ……面倒ごとは嫌いなの、すぐに終わらせますわ」


 ウルーナは唐突に四つん這いになる。


「……ん?」


 考えていて、それがおかしい事だと気付く。

 目をこすってもう一度見てみるが、やはりウルーナは四つん這いになっている。


「なんだあの構えは……」

「ミウさん、お気をつけください。アレが、お姉様本来の戦闘スタイルですの」


 まるで狼の様な姿勢なったウルーナは、頭上に自らの尾を伸ばす。

 尻尾はそれぞれが意志を持っているかのように宙で揺蕩たゆたう。


「ふっ!」


 ウルーナが気合いを込めると同時に、神速の尾がオルガへと迫る。

 しかし、オルガは一直線に迫ってくるそれを走りながらスレスレのところで避ける。

 オルガの頬に一筋の赤い線が走っていることから相当ギリギリだった事がわかる。


「[心臓掌握]!」

「あぐっ……!?」


 ハイドしていたのか、さっきから存在感を消していたミウが、ウルーナの心臓を数秒の間、無理やり止める。

 流石の四帝でも体内への直接攻撃にはひるむようだ。


「ミウさん素敵ですわ!」


 その一瞬でオルガはさらに前進、ウルーナを再び射程圏内に捉える。


「【猛炎纏もうかてん】」


 右手に灼熱の炎を纏い、ウルーナの顔面に手刀をいれる――


「くっ」


 ――と思いきや、オルガはあと一歩のところだったのに後退――の刹那、真一文字に尾の刃がオルガのいた空を切り裂いた。

 て、おいおい、今の避けなかったら死んでたぞ!?

 見ればオルガの服は腹部のところが切られており、へそが隙間から覗いている。どうやら薄皮一枚のところで切られはしなかったようだ。だが、緊急での回避行動だったためかオルガはたたらを踏んでしまいピンチに陥る。


「はぐっ!?」


 しかし、それを追撃しようとしていたウルーナは苦しそうに顔を歪める。


「はぁはぁ……ちょっと、オルガ! 大丈夫?」


 再びハイドしていたミウが、ウルーナに何かしらの阻害魔法をかけたのだろう。

 しかし、ミウの魔法はどれもコストが高い。周りに死が溢れていた昨日までとは違い、今日は回復も見込めない。既にミウの呼吸も荒く、このままではジリ貧だ。


「くっ、あなた……少し鬱陶しいですね。流石はオ――」

「余所見はいけませんわ!」

「っつ……オルガ!」


 オルガは果敢にもウルーナに迫るが、戦力差は俺から見ても明らかだ。今はまだ、ミウのサポートがあってギリギリ持ちこたえているが、それもいつまで持つか。


「チチシロ、まだ暗記は終わらないのか?」

「……うん、今出て行っても瞬殺だよ……あと、もう少し……」


 チチシロのサポートもまだ時間がかかる、では俺は? ……役立たずなだけだ。

 あまりの悔しさに、奥歯を噛み締めるのを抑えられない。だが、本当に何もできないのだ。


「くうっ」

「あらあら、どうしましたオルガ? 息が切れ――っぐ! っつ! また!」

「はあ、はあー、っく! まだまだ……!」

「ミウさん……本当に助かりますわ!」


 こうしている間にもオルガとミウはだんだんと追い込まれていく。

 ここまで戦力差が明らかであれば普通なら撤退一択だろう。しかし、ウルーナはその力で瞬間移動のような芸当ができる。どうにか逃げたとしても、追い付かれてしまう可能性が高い。


「……あー、もう! まどろっこしいですの! 計画変更ですわ! 『転尾』!」


 真っ黒い尾が消え、代わりに刀身が不鮮明な瞬間移動の尾が出てくる。

 まさか、逃げかえってくれるのか!?

 俺は一瞬期待に胸が躍ったが、その考えは一瞬で打ち砕かれる。


「よし……覚えた!」


 チチシロがハイドを解除し、立ち上がった時だった。


「あれは――ミウさんチチシロさん! ヨウさん! 逃げ――」

「まずは一人っ!」


 瞬間移動の尾で自らを斬りつけ消えたウルーナは逃げたのではなく、オルガの背後に移動し、オルガをその尾で切り裂いて何処かへと瞬間移動させてしまった。


「オルガっ! あ、しまっ――」


 あまりのことに動揺したのか、ハイドしていたミウが叫ぶ。叫ぶという事は存在をアピールするという事だ。それを逃がすほど四帝は甘くなかったらしい。


「二人……はぁ」

「あ……まず――」


 二人が瞬間的に消されてしまったのを呆然と見ていたチチシロにウルーナの視線が突き刺さる。直後、ウルーナが目の前に現れ、チチシロは俺の視界から姿を消した。


「さ、三人……」


 チチシロが消えたことで、俺を守っていた隠匿の魔法の効果が消える。

 無防備な俺と、ウルーナの視線が交差する。俺に逃げる意思がもはやないことを読み取ったのか、ウルーナはだるそうにこちらへと歩いてくる。


「だ、だるいので逃げないでくださいね……はぁーはぁー」


 これだけの芸当、やはり相当な代償がかかるのか、ウルーナの息は上がり切っている様子だ。

 しかし、逃げられる気配は微塵もしない。俺は蛇に睨まれた蛙の如く、その場に硬直し、ただただウルーナを見つめていた。


「はぁー……本当は皆さんに回復してもらってからのつもりでしたが……まあいいでしょう。それでは、御機嫌よう」

「あっーー」


 その言葉を最後に、俺は尻尾で切り裂かれ、目の前が真っ暗になった。

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