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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第二章・刀刃帝と獄炎帝
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お姉様とお母様

「よし、それじゃあ行くか」

「うん」

「ええ」

「おっけーですの」


 シミズに来てから4日目、いろいろあった町だったが遂にお別れの時が来た。

 ……まあ単純に、勇者と同じ町にいるってのが危険だから早めに立ち去ろうってなったわけだが。


「代金は渡してあるし、このまま行くか。チチシロ、頼む」

「うん――【隠匿コンシールメント】」


 もちろん、この町を出るまでに遭遇しないとも限らないので、一応ハイドしてから出発する。

 ……まあ、ハイドしても勇者のムダハイスペックのうちの[慧眼]なるPスキルで看破されるらしいが、やらないよりマシだろう。


「じゃあ、みんな。行こう」


 魔法が解けない程度の声量でチチシロは合図する。



◇◆◇



「なんか、なんもなかったな」


 心配していた割にはなにも起こらず、最悪の場合である勇者待ち伏せもなかった。


「街を出てから……もなさそうだね」


 郊外に出ても、海沿い以外はずっと山、山、そして山。

 しかも山々は切り立った崖状になっており、潜伏するのはほぼ不可能だ。


「クヒッ、わたくしの強さにひれ伏したのではないでしょうか?」

「……あいつがか?」


 2回も殺された(・・・・)とは言え、俺にはどうもそうは思えない。


「まあ、警戒はしておこう。それに、実は昨日、彼に[特定人物探知ターゲット・サーチ]を使ってあるから、半径100m以内に来たらわかるよ」

「いつの間に、準備で時間なんか――」

「あー。昨日、ヨウが怒られてる時に……」


 ……そうか。なにもいうまい。


「まあいいでしょ。さ、急いでギチトに向かうわよ」


 俺たちは『凍結帝』の支配するホクトー地域とホッカイドーを開放すべく、モリアオを目指して北上していた。これが当面の目標である。


「で、人類の最前線であるギチトが当面の目的地、と」


 ギチトと言えば、魔王のいない時代、マグンやキラバイと仲が悪いことで有名――だったらしい。まあ、全部チチシロからの情報だが。曰く、魔王誕生以前はこれら三都市は戦争状態であり、現在はマグンが落とされ、キラバイとギチトも冷戦のような状態だという。


「――なんて考えてる間にも、なんだかなあ……」


 そうぼやきつつ、目の前の光景をため息混じりに見つめる。


「【デス】」

「【ファイア】」

「左から三体、後12秒!」

「………………。」

「助かるわ! よし――

魂の根絶ソウル・ディストラクション】!」


 そう、これである。つまり、俺だけ足手纏いなのだ。


「なんか……使えるスキル、欲しいなあ」


 俺は誰にいうでもなくそう呟く。

 何故か凄い勢いで迫り来る魔族を、これまた凄い勢いで薙ぎ倒していく俺ら一行――ではなく、オルガとミウ、&チチシロ。

 山ではないとは言え、高低差は結構ある。そのため死角からの奇襲もあったが、事前に全てチチシロが教えてくれるため、これと言って問題にはなっていない。



◇◆◇



 そんな中も俺たちは順調に歩みを進め、ミシマに辿り着く。


「今日はここまでだね、この先はハコネ山脈があるし、出発は明日にしよう」


 チチシロの提案で俺たちは適当な宿屋で一泊することにした。


「それにしても、チチシロさんのスキル、とっても便利ですわね」

「そ、そう? ありがとう!」


 チチシロは終始、[冒険者の靴]というスキルを使ってくれていた。これは使用された人の移動スピードをあげ、疲労度を低減するという素晴らしいスキルだ。

 チチシロの職はメインが『ストーカー』。それの次に適正値が高いのは『冒険者』だ。

 冒険者は基本的に冒険に役立つ。つまり、戦闘に役立つ職というよりは、フィールドでの機動力などを向上させる事を得意としているらしい。パーティーに一人いると、普通のパーティーとは比べ物にならないぐらい楽チンになる。それは既に実証済みだ。


「そうね、チチシロ()、本当にいてくれて助かるわ」


 ニヤニヤと意地の悪い顔つきで、なぜか俺を見ながらチチシロを褒める。


「……悪かったな」

「そんな事ないですわよ! チチシロさんももちろんですが、ヨウさんがいてくれて、わたくしたち本当に助かっておりますわ!」

「オルガ……ありがとな」


 例え嘘でも心が救われるぜ。


「なっ、わ、私だって感謝ぐらいしてるんだから!」


 今更どの口が言うか。


「いや、でも本当にヨウがいないともう、僕はダメかも……正直な話」

「チチシロまで……そこまで気を使ってくれてありがとな」


 褒め方がちょっ――いや、かなり重いけど。


「ふう。じゃ、これで完成だ」


 雑談を交わしつつも、俺は自分の仕事を完遂する。


「じゃがバターと、ピザトーストだ」


 俺が作っていたのはこの二品。それらを人数分テーブルに運ぶと、ギラリとみんなの目が輝く。


「それじゃ、食べようか」


 いただきます! と言って、みんなで一斉に食らいつく。

 宿屋でももちろん食事はセットで付いてくるが、他の人が食べているのを見るとどうにもシミズのものと同じ感じがした。その結果、ミウが俺に作れと言ってきたので、こうして晩飯を作ったというわけだ。

 料理でしか役に立てないとは……なんとも申し訳ない気分だ。


「ごちそうさま!」


 せめてもの救いは、料理を食べるみんなの顔が幸せそうなところだけだ。


「あぁ〜、今日も実に美味でしたわぁ……」

「本当にね……芋がこんなに美味しいなんて感じるのはヨウの料理だけだよ」


 ……でも、こんなに褒められても、やはり俺は手放しで喜べない。

 やっぱり、勇者として――以前に、仲間として、戦闘でも役に立ちたいと考えるのは贅沢なのだろうか。


「主婦とかの習熟度は順調に上がってるのにな……」


 町に着いてから習熟度がどれだけ上がったか確認したところ、勇者は変わらず、他の職は順調に子値が上昇していた。

 で、あるのにも関わらず、戦闘向けの特技や魔法などは一切習得しなかった。


 はぁ……とため息をつき、先に寝るわーと言い残して部屋を後にする。向かう先はベッド――ではなく、こっそりと外に出る。日課である低級魔法のコントロール、飛距離アップ練習のためだ。


「ふぅ、ふぅ……今日は、このぐらいにしとくか」


 3時間かけて得たものは、コントロールが少しは上達したかも、という手応えと、飛距離3ミリほど上昇というしょぼいものだ。しかし、それでもまだまだ成長する余地はある、といことにしておく。



◇◆◇



「よし、ここで一回休憩しようか」


 翌日、俺たちは宿を出て、順調に歩みを進めていた。


「じゃあ、そろそろお昼に――いぃ⁉︎」


 山の頂上あたり、見晴らしのいい拓けた原っぱ。ここならどこから敵が来ても気づける絶好のお昼場、のはずだった。


「御機嫌よう」


 何かが軋むような奇怪な音に、なんとなしに振り返ると、そこには一人の女の子が佇んでいた。まるで最初からそこにいたように。


「あなたは――」

「離れなさいッ!」

「おっと危ない」


 あまりにも自然に近づいてくる少女に惚けていると、オルガが俺に伸びる手に向かって斬りつける。


「……あなたは」

「わたくしのヨウさんに近づかないでくださいまし!」

「オルガ――」

「ヨウさん、チチシロさん達と一緒に後ろへ」


 顔は少女に向けたまま、オルガは俺を守ろうと剣を構える。昨日の町で買ったばかりの細剣だ。


「くそ……」


 ここは引くしかない、頭では理解できていても不甲斐ない自分に気が滅入る。

 しかし、役に立てないうえに、邪魔になるわけにはいかない。俺は即座に撤退を開始する。


「あなた……いったいどこから現れたんですの?」

「あなたはなんて言うお名前なのですか?」

「……話になりませんわね!」


 言い終わるかどうか怪しいうちに、オルガはレイピアで少女の喉元に突きを繰り出す。

 て、おいおい、話を聞かないうちにそこを狙うかよ。


「『速尾』」

「っ!」


 不意打ちの一撃を防がれ、警戒したのか、あの(・・)オルガが飛び退く。


「て、なんだアレは」


 少女の両手には何も握られてはいない、それどころか終始ダランと垂れている。

 防いだのはゆらゆらと揺れる、先端に刃がついた尻尾であった。


「もう一度聞きますわ、あなたのお名前は?」

「【束縛する鎖リミテーションチェーン】!」

「て、あらら」


 少女は突然鎖でぐるぐる巻きにされたのにも関わらず、動じた様子はない。


「『無尾』」

「えっ、まだ効果時間内のはずよ⁉︎」


 鎖に動じない少女は、刀身が薄い何かに覆われている尻尾で、一瞬にして鎖を断ち切る。


「えっ――同じ顔⁉︎」


 鎖には動じないのに、その事には動揺するのか……


「なんなんだあいつは?」

「しー、ヨウ。彼女達に任せよう」


 因みに、俺とチチシロは魔法でハイドしている。

 情けねえ……


「……ま、まあいいですか。二人とも連れて帰ればいい話ですしね」

「人外め……【溶け出す大地フォールイングラウンド】!」

「ないす、ですわ! ーー[猛炎纏(もうかてん)!]」


 ミウが少女の足元を溶かし、少女を行動不能する。その隙にオルガは剣に炎を纏わせ斬りかかる。


「『転尾』」


 しかし、少女は刀身の見えない尻尾で自らを斬りつける。と、少女は視界から消える。


「炎の力……ではあなたが、オルガですのね」


 気がつくと、少女はオルガを軸に180度反転した場所にいた。


「……ちっ、相変わらず厄介な力ですわね」

「えっ、ちょっと待ってオルガ……相変わらずって?」

「すみませんミウさん、多分この女はわたくしの身内ですの。……そうでしょう? ウルーナ姉様」

「へえ、覚えていてくれましたのね。オルガ」

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