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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第二章・刀刃帝と獄炎帝
32/56

忘れかけていた約束とフラグ

少し長めとなってしまいました……

 翌日、宿を出て町へと繰り出すとオルガたちが戦闘を行った場所は立ち入り禁止となっており、街中でも役人風の人たちが多く遁走している。

 そんな雑踏冷めやらぬ中、俺は一人コソコソと例の広場に到着した。騒ぎの中心がここから離れた商店街方面であるからか、今はこの広場に俺しかいない。


「はあ……ま、約束は約束だしな」


 というのも、昨日、俺は情報を得るためにフルーと名乗る一人の少女に、ここで食事を振舞うと約束してしまったのだ。

 結果的にほとんど実りのない時間だったとはいえ約束は約束。

 俺に男としての力が不足していることを実感させられたことから、ことさらに、それ以外のことで男らしさを保ちたいという思いが無意識に働いたからかもしれない。すなわち、約束を守れる男という面で。


「あ! 本当に来てくれてる!」


 聞き覚えのある声に振り向くと、どこか見覚えのある女性が嬉しそうにこちらへと小走りで向かってきた。


「お前がフルーか?」

「そうですよ。この美少女の顔を忘れたんですか?」


 自分で言うなよ、しかもあの時は目隠し状態で素顔みるのはこれが初めてだろ。と突っ込みたいのはやまやまだが、この女性が1を5で返す人種なのは知っているので務めてスルーする。


「それで、ランチは何を所望するんだ?」


 どうせ作るならさっさと作って一刻も早く解放されたい。また、いつフルーのようにあの場の客? と鉢合わせするかわからんし。


「そうですね……おまかせで!」


 おまかせ、ね。ある意味もっとも困る回答の一つだが、材料を新たに調達しなくていい分ましな方でもあるか。


「そうだな――」


 俺は脳内にストックしてある食材を思い浮かべる。


「――うん、ペペロンそうめんでいっか」


 すぐにできるしな、とは言わないでおく。手抜きとバレたくないしな。


「ペペロン?」

「んー、なんていうか、外国の味付けの名前的なもんだ。あまりネーミングは気にしなくていいぞ」


 俺は職業柄(主に料理人)、俺の知る由のない料理の知識がたくさんある。今回の料理もその中の一つだ。まあ、完全にそのままではなく、俺なりのアレンジも加えてはいるが。


「よし、それじゃあ作っていくか」

「あの! 見ててもいいですか?」


 俺が【何処でもキッチン】で屋台を出したあたりから妙にそわそわしていたフルーがそう聞いてくる。


「なんだ、そんなことで悩んでたのか」


 と言いつつ、ああ、考えてみればそうか。と理解する。

 こっちでは料理の技を見る機会なんてそうそう――というか微塵もない。魔王が復活し、魔族がそこらに溢れる中、娯楽の一つであると考えらている“料理”、という文化は全く発展していない。

 食事とは早く作れて早く食べれる、が基本であり、味付けは調理後に調味料で、というのが主流だ。俺のように調理の段階で下味を付けるなんて発想自体奇想天外なものだったのだろう。

 そんな未知の技術である料理なるものは果たして勝手に見学してもいいものか、と悩むのも無理ないと言えなくもない。

 このフルーなる少女は普段からは想像できなかったが、意外に思慮深い子なんだろう。


「別に問題ないぞ。……なんなら、お前がやってみるか? 説明はこっちでするから」


 ただの無遠慮な女だな、と勘違いしていた俺は内心で少し評価を見直す。自分が思う以上に気分が良くなったのか、俺は誘いの言葉を口にしていた。

 普段ならあり得ない提案に俺は苦笑する。


「え! いいんですか? ぜひぜひ!」


 なんだかんだ言っても、俺は他人が嬉しそうにしているのをみるのは嫌いじゃない。それに、それが俺のおかげで嬉しくなってもらえているとなればなおさらだ。


「じゃあやるか」


 俺はキッチンスペースにフルーを招き、調理に取り掛かる。


「まず、お湯を鍋に沸かす」


 この時、ほんのひとつまみだけ塩を入れる。入れなくても問題はないが。


「で、沸かしてる間につけダレ作りだ」

「つけダレ? ソーメンなら麺つゆを薄めるだけじゃ?」

「それだとすぐ飽きちゃうだろ? それに、混ぜるだけだから簡単」


 ほれほれ、ものは試しだろ? と俺は材料を指示する。


「まずはこれ、細ネギでもなんでもいいから、とりあえずネギを小口切りする」

「小口切り?」

「ああ、料理しなきゃ――てか、知る機会ないか」


 俺はフルーの後ろに立ち、手を取って操作を教えてやる。


「えっ! ちょ! 何を」

「何って、切り方を教えようとしてるんだが。まず、こう……するように引きながら――」

「擦るようにシゴキながら⁉︎ いいい一体ナニの事を言ってるんですか!」

「言ってねぇよ! いや、……言ってねぇよ!」


 もしかしたら何か変な事口走ったか、と思ってセリフを思い出してみるも、俺は一切それらしき事は口走っていない。


「なんでお前の脳内はそんなに桃色なんだ……」

「えへへへへへ」

「言っとくけど、全く褒めてません」


 ツッコミを交えつつ、フルーの手を握り、まな板にネギをセットする。


「まず、小口切りっていうのは、ネギに対して切り口が円形になるよう、垂直に刃を入れる切り方の事だ」


 口で説明しながら手を動かしてやる。

 包丁は上下に、少しずつ横へスライドしながらなるべく薄くなるように切って行く。


「ほー、この野菜、見た事ありました」

「え……まさか、この形でしか――見た事ないよな、そりゃ」


 そうか、こっちの人はまるまるのネギを見た事ないのか……


「このまま木になるのかと思ってました」


 俺はがっくりと項垂うなだれる。俺の好きな食べ物の認知度はこんなもんなのか……

 願わくば、この子だけ特別――と思いたいが、チチシロも同じようなもんだったし、望みは薄い。


「で、食べる量切ったら、麺つゆを表示の指定通りに薄めて、そこに胡麻油、切ったネギ、あればすりゴマを入れる」

「あっ、沸騰してきましたよ!」

「そしたら表示より短めにそうめんを茹でる。好みでいいけど……2分なら半分の1分でも十分だ」


 入れるときは束を捻って、全体に広がるように入れるんだ、と言いつつ見せる。


「で、茹で上がったらザルに取って、置いておく」

「え? このまま食べるんじゃ?」

「ま、ここからが飽きない一工夫ってわけだ。【ガス】【火花スパーク】」


 フライパンを火にかけ、胡麻油を熱する。


「それで、次にこいつだ【マイクロウェーブ 500w】」

「今何を?」

「……よし、と。ニンニクに熱をかけたんだ。こうすると、薄皮が簡単に剥がれるからな」


 ニンニクはこの薄皮がとても邪魔だが、急激に熱をかける事で中の水分が蒸発し、薄皮を浮かせる事で簡単に剥がれるようになる。


「にんにく?」


 と、言ったところでフルーがこの様子では説明のしがいもないが。


「んー、ま、ちょっとしたアクセントに使う野菜だ。辛いのは得意か?」


 適当に答え、こちらから質問する。


「えと……はい!」

「おっけー、じゃあ輪切りの唐辛子を少し入れるぞー」


 辛いのもイケるなら、ここに輪切りの唐辛子を入れる。こうするとさらにスパイシーだ。

 そして、先ほどのニンニクを2欠片をスライスし、熱してあるフライパンへ唐辛子とニンニクを入れる。


 ジュジュー!


「あれ? なんか……凄くいい匂いが」


 フルーが感じた通り、あたりにはニンニクのなんとも食欲をそそる匂いが立ち込める。


「それがニンニクを入れる理由だ。ま、食べた後は口をゆすぐなりしろよ」

「……はあ」


 多分、いや、確実に伝わっていないだろうが、敢えて説明を省く。せいぜい口臭で恥ずかしがるといい!


「匂いが立ってきたら、そうめんを投入」


 ジュージュー‼︎


 そうめんの水分が熱で勢いよく音を立てる。その音がまたなんとも耳心地よく、食欲もさらに増進させる。


「軽く炒めて油とニンニクを絡めたら完成だ。器に移して、彩りにカイワレとか水菜とかを乗っけて――さあ、どうぞ」


 たったこれだけで完成だ。

 ま、そうめんを茹でるだけに比べると洗い物も増えるし、少し手間だが、その労力に見合う美味しさだと俺は思う。


「おー! ……でへへ、そ、ほれじゃあ、頂きます!」


 もはや何かの中毒者のようにフルーはそうめんを口にかっ込む。


「う、旨っ! そうめんなのに旨っ!」

「……ちゃんと噛めよ」


 あまりの食べっぷりに、俺は無意識に呟く。気がつけば顔には冷や汗が。


「だ、だって! 10分もかかってないのにこの美味しさ……(はぐはぐ)……やばい! ピリ辛で! なんかニンニク? って言いましたか! これのなんとも言えない風味! それに、このつけダレもゴマの芳ばしさが広がって……最高です!」


 言いつつ食べつつ、忙しくフルーは舌鼓を打つ。

 うーん、正直、そこまでこだわって作ったものじゃないから流石にそこまで喜ばれると……なんか、申し訳なくなってくる。


「なんか、その……美味しそうに食べてくれて、ありがとな」

「はい?」


 結構な驚きだったのか、フルーは一瞬(言葉通り)食べるのをやめ、俺を見つめて来る。


「いや、なんか簡単すぎたかなって」


 俺が照れ臭くなって顔を背けながら言うと、フルーはなぜかにたりと口角を吊り上げた。


「……いやー、確かにそうですね。でも、私的には凄く美味しくて簡単で、大満足でした」


 ウンウンと頷きながらも、それを証明するかのように食べるのはノンストップ。


「でも、でも? ヨウさんが? 申し訳ないと思うのであれば……そうですね――あ! こちらからの質問に答えてくれればチャラ、と。こういうのはいかがでしょうか?」


 いかにも、ふと思いついたみたいな喋り方でそう提案して来るフルー。いや、そしたらさっきのしたり顔はなんだったんだ。

 一抹の不安を胸に抱きつつも、正直その提案は俺にとって借りを残さない渡りに船な案だ。ここは素直に頷く。


「では、単刀直入に。私をパーティーに加えてはいただけないでしょうか?」

「断る」

「なるほど」


 こいつ、俺がパーティー組んでるってなんで知ってる? まあ、あっさり引いたからいいけど。


「それはなぜでしょう? 連れて行きたくないのか? それとも連れていけないのか?」

「んー、連れていけない、だな。危険だし」


 ……俺のパーティーは強い。オルガは言わずもがな、ミウは即死魔法に阻害系、チチシロは探知とコミュニケーション能力、それに既知の相手には壁ともなる。

 では、俺はというと、完全な足手まといである。もう、そこを悔やむのはやめたが……流石に足手まといがさらに1人増えるのは辛いだろう。もちろん言わないが。


「わかりました……ではせめて、なんで危険なのか、旅の目的などを教えてください! 私、旅に憧れてまして……これ以上はヨウさんにわがままは言いませんから!」


 フルーの悲痛の叫びは俺は心に刺さった。

 そうか……こいつも以前の俺と同じ、旅に憧れる者、か……。


「わかった。でも、連れていけないのだけは本当だから、そこだけは絶対だからな?」

「もちろんです!」

「よし! じゃあ、まずは――」


 こうして俺は、フルーに俺たちの事を問題になりそうなところをぼやかしつつ、目的や個々の特徴や生い立ちなどを説明していた――のだが、最初は躊躇いつつではあったが、徐々にフルーの姿が以前の俺と重なっていった。そのせいか、気がつけば俺は昔の俺が望んでいただろう内容まで事細かに話していた。


「おっと、……いかんいかん、ついつい話しすぎた」

「もっと話してくれてもいいんですよ?」

「いや、これ以上は流石にみんなにも怒られるだろうしな」


 少なくとも、オルガという存在は教会連中にとっては好ましくない、それどころか迫害対象だろう。なんと言われようと、そこだけは教えるわけにはいかない。まあ、ミウやチチシロにも秘密があるし――あれ、俺には……ないな。うん、うん……。


「……それは残念ですね。でも、予定していたよりだいぶ面白いお話が聞けて、私楽しかったです!」


 どうやら俺の意思が固いと感じ取ったらしい。ところどころで、フルーはなかなかに聡い子であるような気がしてくるから不思議だ。喋り方とかはアホそのものなのに。


「さて、予定外に時間くったな。そろそろ行くよ、今日は黙って出て来たし」

「え! だ、誰にも言わずにコッソリ抜け出して、女の人と密会するなんて……ひ、昼間っからナニをする気だったんです⁉︎」

「料理だよ‼︎ 食材のな!」


 ……この返答をする俺もおかしいのでは? いや、細かいことは気にするまい。


「全く、万が一次会うとしたら、その時までにその脳内お花畑を直しとけよ!」

「あっ――」


 まだ何か言いたげだったが、俺は振り返ることなく宿へと戻った。

 ……戻った俺が、オルガとミウにニヤニヤと、あるいは無表情で怒られたのは言うまでもない。



◇◆◇



「うふふ、ヨウさん……雰囲気通り、口が軽いんですね」


 私は小さくなってゆく彼の背中を見つめながら小さく微笑む。


「さて、カードは揃いましたし、お次は教会ですかね」


 くるりとヨウさんに背を向け、私は教会に向かって歩き出す。

 頭の中では、先ほどヨウさんが語ってくれた情報を忘れないよう、必死に脳内メモに記している。


 そして、その作業が終わる頃には私は教会の近くまで来ていた。

 私は厳かな雰囲気のあるドアの前に立ち、その空気を破壊するかのように――思いっきり蹴り開ける。


「ドーン!」


 ドアと壁がぶつかる音と私の声が反響する中、シーンと静まり返る教会の面々。その表情を満足気に見回すと、呆然と私を見つめる人々の中、一人だけ憎々しげにこちらを見つめる男を確認。私は満面の笑みを浮かべつつその彼に近づく。


「……なんだ貴様、俺様は今、かなり機嫌が悪い――」

「オレインさん、オルガ――さんに興味はありませんか?」

「…………なに?」


 私は私の目的のために、行動するだけだ。

 もしかしたら、あのレシピが食べたいという声があるかもしれない……そんな、もしもの要望にお応えしてクックパッド様にてペペロンそうめんのレシピを公開します笑

 簡単料理なので、気が向けばお楽しみください( ̄∇ ̄)

 詳しくは作者の活動報告にて

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