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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第二章・刀刃帝と獄炎帝
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爆炎と狂女

投稿が遅れてすみません……

3日に一回は投稿できるよう頑張ります!

「6柱だかなんだかは存じ上げませんが、四帝の誰かからの差し金でしょう?」「ふむ、察しがいい」

「それも、おそらく『刀刃帝とうじんてい』からの刺客ですわね」「……頭も回るとは、さすがにエドヴィルを倒しただけはある」


 一見、ただ会話しているだけに見えるが、二人は現在も激しく交戦中である。

 オルガは動きを先読みして紫炎を放つが、それをズラガルドと名乗る紳士風の男はあり得ない動きで容易く避けていく。


「そろそろ、その動きを見るのも嫌になってきましたわ」「ほう、どう止めるというのだ?」


 左目に藍色の炎を灯す。


「まず、そのカラクリを破壊しましょうか――『宵闇インディゴナイト』『夜空を走る波紋ナイトリップル』」


 オルガを守っていた藍炎はドーム型になり、その円の直径を拡大させていく。


「んぬおっとぅ、これはこれは」


 技が発動すると同時に、ズラガルドは波紋の広がる限界まで後退する。


「避けられちゃったぞ。カラクリを破壊するんじゃなかったのか?」

「大丈夫ですわ。もう破壊しましたから――といっても、もう復活してますけど」


 オルガにつられてズラガルドを確認すると、なにやら奇怪な動きをしている。


「ああやって、糸をそこら中に飛ばしているんですのよ」「ほう、気がついていたか」

「糸を飛ばす?」

「ええ、空中に糸を固定できる技、だと思いますの。その糸を操ってあの気持ちの悪い動きをしてると思いますわ」「そこまでわかるか」


 流石にあそこまで糸を張るのが早いのは予想外でしたが……と話すオルガ。


「流石に全方位に炎を飛ばせば駆除できますが、固定しているところが見えない以上、あの動きのアイツを倒すしかありませんわね」


 それっていったい何の力だ、と声にする前にオルガが答えを口にしていた。


「“蜘蛛男”、それがアレの正体でしょう」

「蜘蛛男?」

「ええ、怪物だったものがなんらかの原因によって魔物化することがあるんですの。おそらく、アレはもともと蜘蛛の怪物ですわ」「我輩とした事が見誤っていたか……失着、油断、怠慢。――貴女は少し危険すぎる」


 おかしな動きを止め、ズラガルドは警戒の色を見せ始める。

 わずか数秒で張り直しが終わったらしい。


「知識も知恵もあり、強さもある。……仕方ない、多少、ここで弱体化させて頂く」


 構えらしい構えを取り始めたズラガルドと相対するオルガはといえば、大きくため息をつき、不愉快そうにブツブツと呟きながら親指の爪を噛んでいる。


「……昨日の勇者モドキといい、アナタといい、みんなみんなみんなみんなわたくしの邪魔ばかりして――」


 オルガの言葉にも苛立ちの感情が入りだす。


「――わたくしの思い通りにならないモノなんて、必要ありません」


 ウロボロスから翠色みどりいろの炎が噴き出す。


「……わたくしの、わたくしの愛に立ち塞がるモノは全て消えてしまえばいいんですの!」


 オルガは叫び、攻撃を本格的に開始する。


「『藍の檻ラブ・ジェイル』!」「ぬっ!」


 ズラガルドの足元から吹き出た藍色の炎は、複雑に絡み合いながら天へと登り、結晶化し固まった。


「【消えない浄火エターナルフレイム】」


 オルガの手から吹き出した炎が身動きを禁じられたズラガルドへ迫る。


「なるほど、強い」


 しかし、なおも余裕なズラガルドは気持ち悪く関節を折り曲げ、複雑に絡んだ結晶から脱出する。炎はそのまま結晶に衝突し、ズラガルドを捉えることなく消える。


「【ファイアーバレット・ラピッド】」「しかし当たらぬよ!」


 それも計算済みであったのか、オルガは既に脱出したズラガルドを狙っていた。オルガは両の手の計10本の指をズラガルドに向け、そこから目にも留まらぬ速さの光る弾を連射する。

 しかし、ズラガルドは空中を縦横無尽に飛び回り、それらを受ける事なく避け切った。


「――確かに早いですわね。でも、早いだけじゃ勝てませんわよ?」「知っているとも。では、ここから反撃といこうではないか」


 挑発か、なおもズラガルドを狙いつつオルガは語りかける。

 それに答えたズラガルドの服が内側から膨れ上がり、そこから二対の手――というかあしが飛び出る。


「キモっ!」

「『不燃糸』、『貫糸』」


 思わず叫んでしまった俺を無視し、ズラガルドは新たに生えた(?)二対の手から糸を発射する。


「『藍炎ラピスラズリ』『蒼炎アクアマリン』」


 オルガは普段の藍炎を蒼炎で固め、糸の侵撃を阻む。が、


「――あら?」 「ふん、笑止」


 阻めたのは半分だけであり、もう半分は壁を貫通したのか弾かれ折れ曲がることなく壁へ刺さる。


「意外と柔い壁だな」

「お、オルガ!」


 薄く透き通る結晶から映るオルガからは、赤い筋が何本か地面へと伸びていた。


「……【ファイア】『蒼炎アクアマリン』」


 オルガは患部に手をやり、傷口を蒼炎の結晶で塞いでいるようだ。

 ここからじゃ光の反射でしか見えない程に細い糸だったから、傷は深くないだろうが、心臓や脳を貫かれたら流石にヤバイはずだ。


「なんつー力だ……」

「なるほど、藍炎が炎の状態でも、結晶になった状態のどちらでもダメージを与える技――あなた、やりますのね」「お褒めに預かり光栄である」


 すると、オルガを守っていた藍色の壁は崩れる。


「お、オルガ……?」

「もう、諦めたのか?」


 砕け散った藍結晶が降り注ぐ中、姿を見せたオルガは自らを抱くように両手を回し、苦しそうに前屈みになっていた。

 顔は影に隠れており、その表情を見ることは出来ない。


「……クヒッ、クヒッ! クヒッヒヒヒヒッヒヒ!」

「――え?」


 初めは状況が理解できず、呆然としていた。それはズラガルドも同じようだった。

 狂ったような笑い方……この笑い方は勇者と戦っていた時と同じ――


「あゝ……ああ! 素敵ですわ! やはり戦いはこうでなくてはなりません! ですが、そろそろ守っているばかりでは退屈ですわねぇ……クヒッ!」


 痛い痛い……、と嬉しそうに患部をさすり、顔を歪ませるオルガはどう見ても狂気に囚われていた。


「……狂ってる」「我輩もその意見に同意だな」


 聞こえているのかいないのか、オルガは燃える瞳を爛々とさせ、上体を糸の切れた弓の様に逸らし、少しだけ平穏に戻る。


「はぁーぁ……、クヒッ、産まれますの」

「う、産まれる?」


 いったい何がどう飛躍したらその発言になるのか理解できず、俺はただオウム返しすることしかできない。


「クヒッヒヒヒヒヒヒ! 産まれなさい、『翠炎(アレキサンドライト)』ォオ!」


 やっぱり平穏に戻っていなかったオルガは咆哮をあげる。

 それに伴い、ウロボロスに灯っていた翠炎がオルガの瞳に移る。


「あぁー……溢れますわ、溢れますわ! この溢れる感情はもうわたくし一人の器には収まりません」


 頬を上気させ、呼吸荒くオルガは瞳の翠炎を揺らす。


「だから、を増やしますの――『二重奏デュエット紫炎アメシスト』」


 オルガの影がその範囲を増し、地面を黒く染める。


「えっ!」「……なんだと」


 影と地面の境目から、白い腕が伸びる。それは徐々に影から這い出てきて全貌が明らかになる。


「お、オルガ……?」

「はい。オルガ、ですわ」


 影から這い出てきた少女はオルガと全く同じ容姿であり、声も雰囲気も同じであった。

 ――いや、一つだけ違いがあった。瞳に宿る炎の色が異なっていたのだ。

 二人とも右目に翠炎が揺らめいているのは同じだが左目は異なり、新しく出てきた方は紫炎を、もともといた方は蒼炎を宿していた。


「クヒヒ! デュエット、わかってますわよね?」

「ええ、ソロ。後は任せなさい」


 オルガはオルガと会話し、ソロと呼ばれていたもともといた方のオルガがこちらに寄ってくる。


「オルガ、アレは?」

「アレはわたくしの分身、みたいなものですわ」

「……その翠色の炎の能力か?」

「はい。翠炎アレキサンドライトの能力は“多面性”、わたくしの性格と能力の一つを受け継ぐ事ができるわたくし・・・・を生み出すことができるんですの」


「さあさあ! 再戦と参りましょう? 大きな蜘蛛さん!」「気味の悪い、すぐに終わらせてもらう」


 向こうの方ではオルガ二号とズラガルドが戦闘を再開している。


「お前は行かなくていいのか?」

「ええ。戦闘は彼女・・の領分ですわ」


 まあ見ていて下さい、とオルガは微笑む。

 一人で大丈夫なのだろうか。


「『教皇の指輪パーパル・リング』」「拘束糸」


 オルガが指輪をはめるのと同時に糸が放たれる。

 放たれた糸は自ら意思を持っているかの様にウネウネと蠢きながらオルガに迫る。


「【ウォールオブファイア】」


 オルガは眼前に赤く輝く炎の壁を出現させるが、糸はそれを避けてしまい進行を止められない。


「無駄である」

「クヒッ! ソロ!」

「ええ、うけたまわりましたわデュエット」

「『紫刀・村雨』」「『蒼炎アクアマリン』」


 デュエットが握った拳から紫炎が噴き出し、それをオルガが結晶にする。

 それが刀だと気がついたのは、デュエットが迫る糸を切り刻んだ後であった。


「クヒッ! やはり、戦いと言えば刀、ですわよねぇ」「『不断糸』」


 間髪入れずにズラガルドは糸を繰り出す。

 それをデュエットは刀で断ち切ろうと刀を振るうが、糸は切れずに刀に巻きつく。


「クヒッヒヒ! 切れない糸。でも、わたくしには通用しませんわぁ――『弾けリーペル』!」


 巻き付いた糸はしかし、刀が紫色に輝くと弾かれる様に刀から千々れていく。


「貴女……いったい何者なんだ! 『網鋼糸』!」


 焦りが見え始めたズラガルドに、デュエットは凄まじい勢いで近づいて行く。

 もちろんズラガルドは空中にいる。しかし、デュエットは空中に紫炎を発生させ、それをオルガソロが蒼炎で固める。それを足場にずんずんズラガルドへと迫るのだ。


「クヒッひひヒヒヒ! 『五月雨月さみだれづき』イイィ!」


 目にも止まらぬ速さで高速の突きを繰り出すと、そこから棒状の紫炎が噴き出し、網を弾き飛ばしてしまう。


「……止むを得まい!」

「あら」


 ズラガルドは意地になるのを止め、素直にその場から離れる。


「……クヒッ! 逃げましたわね?」「…………。」


 今まで饒舌だったズラガルドが初めて返答を渋る。


「ああぁ〜……、堪りませんわね。わたくしの圧倒的な力に敵が恐れ慄くこの感じ……」「調子づかれるのもあまり芳しくないな」


 ズラガルドは空中でサソリのように臀部を突き出す。


「【眷属召喚・子蜘蛛】」

「うげっ!」


 服があるのでどこから出て来たかは不明だが、体中からわらわらと大量の子蜘蛛が溢れ出てくる。


「ソロッ!」

「『三重奏トリオ藍炎ラピスラズリ』」


 子蜘蛛が塊になり、ゆっくりと糸に吊られながら地面に落ちて行く。そんな中、3人目のオルガが影から出現する。


「トリオ」

「わかっておりますの――『宵闇インディゴナイト』」


 新しく出てきたオルガトリオは藍色の壁を周囲に大きく展開させ、俺たちを囲む。


「一匹たりとも逃がしませんわよ?」「……全て倒すまでだ」


 子蜘蛛達はようやく地面に着くと、散り散りにあたりに広がる。


「トリオ」

「ええ、守りは任せなさい」

「ソロ、そろそろ勝つと致しましょう?」

「そうですわねデュエット。そうしましょうか――『四重奏カルテット』『五重奏クインテット』」


 さらに二人、影からオルガが現れる。


「カルテット、クインテット。デュエットを助けなさい」

「仕方ありませんねぇ」「わかりましたわ」


 少しずつ性格も異なるのか、二者二様の返答で彼女達もズラガルドに向かって行く。


「子蜘蛛達よ、我輩を守りつつ貴女等を捕らえよ!」


 子蜘蛛達は合図とともにそこら中に巣を張り始める。

 オルガ達はそれらを蹴散らしてズラガルドに迫るが、子蜘蛛達の数は尋常ではなく、すぐに張り直されてしまう。


「このままでは埒が明かないですの」

「そうですわね」

「わたくしにいい考えはありますわ」

「あらデュエット、流石ですのね」


 オルガ達は皆一様に怪しく微笑み、ズラガルドを見やる。


「「「クヒヒッ! さあ、楽しみましょう!」」」

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