表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第二章・刀刃帝と獄炎帝
28/56

町の異変と蜘蛛の糸

 オルガを追う間にも悲鳴は止まず、それどころか増えているようにすら感じる。


「いったい、何が起こってんだ?」

「んー! んー!」

「な、なんだ⁉︎」


 走っていると、どこからか呻き声のようなものが聞こえる。


 俺は立ち止まり、辺りを警戒するが何もない。


「んー! んー!」

「ん? 下から……?」


 もう一度耳を澄ますと、声は俺の目線よりかなり下の方から聞こえてくる。

 もちろん無視できるはずもなく、そこに何があるか確認するために眼を向ける。


 単刀直入にいうと、そこには緊縛された女性が身をくねらせて地面に這いつくばっていた。


「わぉ……」

「んー! んー!」


 思わず感嘆の声が漏れる。

 女性の目、口、手首、足首は白い糸の様なもので縛られており、脱出を試みているのかもぞもぞとうごめいている。

 しかも、女性の首からは一本の白く太い紐のような糸が伸びており、近くの柱に繋がれていた。

 簡単に状況を説明するなら、柱に首輪で括られ、目隠し猿轡さるぐつわされ、手足首も拘束された女性がいやらしくもぞもぞしていたのだ。

 うむ……衣服に一切手をつけず、敢えて少しだけ自由度を残した見事な束縛だ。女性には痛みを感じさせず、かつ絶対に解けない強度に締められた拘束。手首は前ではなく、背面縛り。


「間違いない。これは……プロの犯行だ」

「んんー!」

「あっ、まじまじと見てる場合じゃなかった」


 いそいそと近づき、白い糸を引き千切ろうとそれに触れる。


「んー!」

「ああっ、……大丈夫大丈夫。何もしないから。ちょっとだけ、すぐ終わるから」

「んんんー‼︎」


 何故か俺が声をかけるとさらに暴れ出す女性。

 え、なんでだ? できる限り優しく声をかけたつもりだったんだが……

 仕方なく女性を軽く押さえつけ、まずは情報を得るために口の拘束から解こうとするが、この糸が凄く丈夫で全く解けない。


「んー? いったいこの糸はなんなんだ?」


 幸いなことに、女性が縛られているため大した抵抗が無いが、このままでは通りすがった人に、俺が変態と思われてしまうのも時間の問題だ。

 裸エプロンのが、柱に縛り付けられた女性の前でゴソゴソしてるなんて通報&逮捕待った無しだ。


「仕方ない……ちょっとだけ我慢しろよ【バーナー】」


 止む無く顔を押さえつけ、指先からほとばしるロウソクに灯る火の様な炎を近づける。


「んー! んー! んんぅあっつぅうう!」


 火が糸に接すると、簡単にチュッと焼き切れる。


「おお、火で切れるのか。良かった」

「よ、良かった。じゃ、無いですよ! 何してくれてんですか!」


 女性はプンプンと解放の方法に文句を垂れる、せっかく口の拘束を解いてやったというのに。まあ、無理もないか。

 もっと年上かと思っていたが、声の感じからすると年齢は俺より少し上ぐらいか?


「取り敢えず落ち着けって、残りの白いのも解いてやるから」

「えっ! 残った白いモノもぶっかけてやるから⁉︎」

「言ってねぇよ!」


 とんでもない聞き間違えをする女性の抵抗を無視して拘束を解いていく。

 なんだかんだギャーギャーと話しているうちに警戒も解けてきたのか、後半はすんなりと切らせてくれた。


「……っと、これで最後」


 最後に首に巻かれた糸を焼き切る。


「熱、あっっつ! ……ありがとうございました」


 焼き切る度、律儀にあつあつ言いながらも女性は拘束から解放される。


「あの……まだ目のところが残ってるんですけど」

「……か、髪に燃え移ったら危ないから」


 嘘である。もちろん、俺のこの格好(裸エプロン)を見せたくないのが本音だ。


「えぇ……寧ろここをとって欲しいんですけど」

「我慢してくれ。それで、なんでこんな事になってるんだ?」


 どうしても目隠しだけは取りたくないので、さっさと本題に移る。


「……まあ仕方ないですか。えと、なんでこんな事になってるか、でしたよね? いやー、それが私にもサッパリなんですけ――って、その声まさか……昨日の料理人さん?」


 ハッと跳ねるようにこちらに顔をあげる女性。

 ヤバイ。この人、昨日の広場にいた人か!


「チガイマスヨ。ヒトチガイデスヨ」

「じゃあ、なんで急に喋り方を変えたんですか?」

「……いや、なんていうかその――ええい畜生! さっさと情報をくれよ!」


 言い訳を諦めた俺は、もう面倒くさくなったので取り敢えずキレた。


「ええー、そこで怒ります? ……まあいいです。じゃあ、私と取引しませんか? 明日の昼、またあの広場に来てくれるなら、詳しい事をお話ししても良いですよ? この条件を呑まないなら……あなたの事を周りに云いふらします」


 こ、この女! 目隠しされてるくせになんて図々しいんだ! 胸張ってやがる! クソッ! もっとやってくれ!


「わ、わかったよ。だから俺の事は秘密にしてくれ。 そうだな、君だけ来るっていうなら、なんか作ってあげるから……」

「えへへ(じゅるり)、約束ですよ?」


 ……年頃の女性が目隠ししながらだらしなく口を開け、ヨダレを垂らす。

 ああなんか……なんか、目覚めちゃいそう。


「くっ! 目覚めてる場合じゃねえ。いいから早く教えてくれ」


 静まれ! 俺の邪神よ! と自身に宿る悪魔を押さえつけながら、俺は催促する。


「あっ、はい。ええと、私は買い物に行く途中でこの道を一人で歩いてたんです。その時に、なんか周りから悲鳴が聞こえたんですよ。 その時は、なんかあったのかな? と思いつつもそのまま歩いてたんですけど」

「いや、逃げろよ」


 次からはそうします。と女性は舌をチロリとだす。

 ううむ、なんと官能的な仕草よ。これを狙ってやっているならコイツはとんだやり手だな。


「で、気がついたらいつの間にか数メートル先に、黒ずくめの紳士っぽい男の人がいたんですよ」

「そいつが?」

「はい。不思議な人がいるなあ、と思ってたら足を縛られてました。あっ、と思ったら目を塞がれて、パニックになって転んだんですけど……多分抱き抱えられたんだと思います」

「は? 抱き抱えられた?」

「はいー。おかしいですよね? でも、そのままゆっくりと横にさせてくれたんですよ。あまりの優しさに思わずお礼を言おうとしんですけど」

「いや、いらんからそのお礼」


 この子、もしやと思ってたが、やはりアホの子か。


「あはは、いま言われたらそうですよね。でも、お礼を言う暇もなく口を塞がれちゃったんですよ。そのままあれよあれよと言う間にさっきの状態というわけですよ」


 アレ? 終わり?


「まさか、情報それだけ?」


 相手の職とか特技とか、若しくは能力とか力とか知りたかったんだけど……


「はい! 紳士っぽい黒ずくめの男! あと縛るのが上手です!」


 この女性はダメだな。うん。ダメだ。


「ワカッタヨ。ドウモアリガトー」

「えっ、ちょっと、待って待って」


 目が見えない筈なのに、女性は的確に俺の足に縋り付いてくる。


「……なにしてるのかな? 離してくれよ」

「あははははは、顔を見せてから、名前と普段住んでる所を教えてくれたら良いですよ?」


 二人の間にしばらく静かな時間が流れる。

 俺は頃合いを見て脱出を試みるも、女性の意外な腕力によって失敗する。


「は、離せっ! もうお前と話す事はない!」

「せめてっ! せめてお名前だけでも!」

「そのセリフはこういう時に使うもんじゃねえ!」

「ああ! そうですね! 私の名前はフルーです! さあ私は名乗りましたよ!」

「何その、次はあなたですよ? みたいなノリ! 言わねぇよ!」

「ああっ!」


 俺はどうにか縋る手を振りほどき、オルガが走って行った方へ駆けた。

 直後、


「ヨウさーん! 勇者のヨウさーん!」


 前方から最悪のタイミングでオルガが戻ってくる。なんでこのタイミングでその呼び方⁉︎


「ヨウさん、勇者⁉︎ とにかくヨウさんって言うんですね⁉︎」

「あああぁぁぁああ! もう知らん! オルガ! 行くぞ!」

「付き添いはオルガさん! 忘れませんよ! あっ因みに、明日の昼の約束を忘れないで下さいね!」


 フルーというらしい女性のたくましさに舌を巻きつつ、俺はようやく商店街を抜ける事に成功した。




◇◆◇




「ど、どうなってんだこれ……」

「さぁ……わたくしにもサッパリで」


 商店街を抜けると不思議な光景が飛び込んできた。


「んんんー!」「んー!」「んんんんんんんーー!」「んーんー!」


 抜けた先は少し開けた居住区のような場所なのだが、そこには先ほどのフルーと同じように縛られた女性達がゴロゴロしていた。

 その他にも、口以外(口枷はされてる)は例の白い糸でぐるぐる巻きにされており、低い呻き声を上げているまゆが無造作にそこら中に転がっているが……おそらく男性だろう。


「ヨウ! オルガさん! 大丈夫だったんだね!」

「おおう、チチシロか。そうか、【隠匿】を、使ってたのか」


 チチシロは突然真後ろから現れ、俺の肩を叩いてきた。


「チチシロさん? その姿は?」


 振り返ると、そこには何故か可愛らしいメイド服姿のチチシロが、なんとも言えない表情で立っていた。


「か、かわ――ゔんん! なんでそんな格好を?」

「うーん、話せば長くなるから……」


 こうなったチチシロは、経験上絶対に教えてくれない。ていうか、そもそも俺も人の格好についてなんか言える姿ではない。


「あら、誰か来ますわよ」

「えっ……あっ本当だ!」

「またそれかよ……なんで俺だけわかんねえんだよ!」


 オルガが敵の接近を知らせ、チチシロがそれに続き、俺は気づけない自分に憤慨する。いつものパターンだ。


 まあわからないものは仕方ないので、自分に出来ることを精一杯やる。すなわち、目視確認だ。


「あ、間違いない。あいつだな」


 オルガとチチシロが見ているのと同じ方向に注目していると、黒ずくめの紳士っぽい長躯の男が、なんか……キモい状態で現れた。

 男は戦隊モノの決めポーズのようなアクロバティックな体勢のまま、微動だにせずに空中を滑るようにこちらに向かって来ていたのだ。


「な、なんなんだアレは」

「あらあら……不愉快ですわね」


 オルガは口ではそう言いつつも『ウロボロス』を呼び出している。


「あいつ、ふざけてるようだけど……強いのか?」

「非常に不愉快ですけれど、『ウロボロス』なしだと少し厳しいかもしれません――わ!」


 オルガが手を掲げ、それを振り下ろす。するとロングドレスは燃え上がり、あの黒と赤の燃えるゴシックドレスに戻る。


「そのドレスだと、やっぱり強くなったりするのかい?」

「そうですわね……テンションが上がりますの」

「まさか、それだけのためにそんな格好になってるのか?」

「いえ、ヨウさんが喜ぶかと思いまして」


 ……どうしてコイツは俺の趣味を知ってるんだ?


 そんな雑談を交わしていると、男は俺たちの目の前に着地する。


「『藍炎ラピスラズリ』」

「えっ」

「――ほう」


 目の前に藍炎が現れたのとほぼ同時に、何かが壁に接触したらしくボッと炎が上がる。


「……我輩の技を躱したのはこの町では貴殿らが初めてであるぞ」


 男は膝立ちで踏ん反り返り、真後ろを向いていたが、ゆっくりと上体を持ち上げ始める。


「ふむ、いったいどんな奴――はぁうっ⁉︎」


 上体を焦らすようにジリジリと持ち上げ、やがて頂点に達する。そのまま首をこちらに向け、俺達を確認したのだが、何故か絶句している様子。


「どうしたんだあの変態?」

「わかりませんが、不愉快なのは確かですの」


 お前あの男嫌いすぎだろ。


「……かっ、かわうぃうぃッ!」


 突然、バキュンッ! と、謎の幻聴が聞こえてしまうぐらいの大袈裟な動作で、男は頭が地面にめり込む勢いで再び仰反のけぞる。


「こいつ……本当に強いのか?」


「油断しない方がいいよ、ヨウ。この男、かなりのやり手だ」


 チチシロの額には冷や汗が滲んでいる。相当この男を警戒しているようだが……コイツの所作を見る限り、俺はどうしても気が抜けてしまう。


「はっ……わ、我輩ともあろうものが陶酔していた、だと? こんな事は姫以外にないはずだが……」


 先ほどまで恍惚の表情を浮かべてニヤニヤしていた変態は、みるみるうちに青ざめていく。


「……残念、失望、絶望。我輩にはもう心に決めた人がいるというのに、なんたる心の弱さよ! 我輩の、我輩の忠誠はこんなものではない!」


 青ざめたと思ったら、怒りで顔を赤らめていく紳士。感情の起伏凄いなぁ……


「……貴殿らを亡き者にすれば、この不貞、なかったことになるな」


 憤怒に顔を赤く染め、血走った目でこちらを睨み付けてくる。


「えっ、やば――」

「『硬糸』」

「『藍炎ラピスラズリ』」


 男の指先から白い糸が飛び出てこちらに迫るが、再び藍色の壁に阻まれて燃え上がる。


「『硬糸』をも防ぐその力……もしや本当にエドヴィルを倒した者か?」

「何を仰っているのかわかりませんわ。『紫炎アメシスト』、『教皇の指輪パーパル・リング』」


 オルガは指輪を装着し、問答無用で紫炎を飛ばしていく。


「防御だけの力でもないとは、ますます怪しい」


 男は迫る紫炎を見ても余裕を崩さず、相変わらずスタイリッシュに立ち続ける。


「だが、いかんせん――遅い」

「あ、ええっ!」


 男はそのままのポージングで上に飛び上がり、紫炎を避ける。


「ああ、不愉快ですわね」「我輩に貴女の攻撃を当てる事は敵わんよ」


 なんだ、急に動きやら喋りやらが早くなった?


「チチシロさん、ヨウさんを守って頂けますか?」

「……できる限りのことはするよ」「なるほど、貴女は我輩との一騎打ちを望んでいるか。ならば受けてたとう」


 シュッと地面に落ち、男は堂々と宣言する。


「と、その前に名乗っておこうか。――我輩の名はズラガルド。『6柱-敏捷』を担当している者である。以後、お見知り置きを」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ