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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第二章・刀刃帝と獄炎帝
26/56

デートと針のむしろ 前

長くなってしまった……急遽分割します。

 勇者を退けた次の日、俺はいつもとは違う宿のベッドから起き上がり下へと降りる。


「あ、ヨウおはよう」

「おはようございますわ」


 テーブルには既にチチシロとオルガが座っていた。俺も適当に挨拶を交わして同席する。


「ヨウさん! 今日がわたくしの遊べる最後の日ですの!」


 座るなりオルガがずいっと顔を寄せて来る。その拍子にオルガの髪が靡き、仄かにシャンプーの香りを漂わせる。


「……いや、遊んでる暇ないだろ。一刻も早くこのメシマズ宿から旅立ちたいんだが」


 それとなくお断りの意思を伝えるが、当然受け入れられるはずもなく、


「何言ってるんですの! さ! 早く行きますわよ!」


 見た目からは想像もつかないほどの力で引きずられながら、チチシロを見る。


 僕は助けませんよ……


 という感じの表情で、俺を見ないように目を逸らしていた。ああ、確か以前、ミウにチチシロを引き渡したことあったっけか。で、その時の恨みが今の状況を作り出したと。


「チチシロめ……いつか同じ思いを味あわせてやる」


 俺は密かにチチシロへの逆襲に思いを馳せた。

 だいたい、ミウは朝弱いのになんでコイツはこんなに元気なんだ。俺ですらまだ覚醒しきってないのに。


「な、なあ。まずは飯食ってからにしようぜ?」


 一先ずここから動きたくないので折衷案を出すも、オルガは拒否する。


「だいたい、わたくしのためにお味噌汁を作ってくれる約束ではないですの」


 確かにそんな約束をした覚えがある。ていうか、思い出した。俺はこいつに罪滅ぼしをしなくちゃなんないんだった。


「あーもう! わかった! わかったからいい加減に引きずるのをやめろ!」


 ケツが剥けるわ!


「うふふ、素直なヨウさんが一番ステキですわよ」


 そう言いつつグイッと俺を立たせ、そのまま腕を組まれる。


「はぁ、もういいか……行くぞ?」

「はいっ!」


 なんだかんだ言っても、俺はオルガが嬉しそうにしていると悪い気はしなかった。

 今日ぐらいはこのまま腕を組んでてやるか……。そう思ってなされるがままにしていた時期が俺にもありました。


「お嬢さん凄い可愛いね、これから海行くんだけど一緒にどう?」

「そーそー! そんな地味な奴置いてってさ、一緒に楽しい事しよう?」


 この状態で落ち着ける場所を求めて歩く事30分、実に10回はナンパされた。断っておくが、もちろんオルガが。


「……ヨウさんの事、悪く言いましたね?」

「あー! す、すみません! 俺たち急いでるんで!」


 その度に隣からヤバ気な気配を感じた俺は、胃が痛くなりつつも強引に突っ切って来た。

 しかし――


「おっと! どこに行くのかな? ……急いでるんならお前一人で行けよ」


 今回の奴らはそれでは突破させてくれなかった。


「そもそもなんでお前が腕組んでるわけ? 誰から見ても相応しくないんだけど」


 おまけに俺の言動にイライラが募って来たのか、だんだんと荒っぽくなっていくナンパ組。

 そもそも俺は何も悪いことしてないのに、なんでこんなに胃を痛めなくちゃならんのだ。

 普段ならこの時点で既にちびっていたかもしれない。しかし、今日は隣にオルガがいる。それが少しだけ俺の気を大きくさせた。

 そうでなくとも、もう10回も修羅場を味合わされて来たのだ、もう流石に我慢の限界だ。


「……オルガ、ちょっとやっちゃってくれ」


 こんな時に女性頼りなんて情けない限りだが、俺じゃあどう足掻いたって勝てないし、しょうがないね。


「言われなくても……」

「なになに、やる気なの?」

「こっちは五人だぜ? 勝てると思ってんの?」


 ニヤつきながらも距離を置き、戦闘体制に入るナンパ組。


「まあいいけどね。……『おい、降伏しろ』」

「……何を言ってるんですの? 冗談は服装と顔と性格と声だけにしてください」


 それってほぼ全部じゃねぇか。


「ありゃ、ダメだ。[誘惑する甘言]が効かねぇ。この女、職も子値もそこそこ上っぽい――」「すみませんでした! ごめんなさい!」


 俺は気が付くと地面に寝転がり、仰向けになって降伏の証として腹を見せていた。

 俺の唐突な行動に、俺を含め・・・・誰もが困惑を隠せない……俺は何やってんだ⁉︎


「お、おい……あいつ男のくせに引っかかったぞ。どんだけショボい職なんだよ」


 男達の目線が哀れみのソレに変わる。


「よっ、よくも! よくもヨウさんにこんな事をっ!」


 冷めていく男達の目とは対照的に、オルガの目には怒りの炎が宿る。


「あぁ! オルガ! 殺すのだけは!」

「っ! ……わかりました」


 何故かこの体勢をやめられない俺は、そのままでオルガを必死に宥める。


「ぷっ、あいつあんな格好で何言って――」「うるさいですの、【立ち昇る炎ファイアピラー】」「ほんぎゃああああつあつああい!」


 俺を指差して笑った男は一瞬のうちに炎に包まれ、黒い煙をプスプスとくゆらせながら倒れる。


「えっ、レージ?」


 こんがりと焼かれてピクピクしている男を見ながら、心ここに在らずといった様子で彼のだろう名を呼ぶ仲間達。


「クヒッ! あなた方が悪いんですのよ? ……さて、次はどなたに致しましょうか?」


 オルガは薄気味悪い笑みを浮かべ、男たちを値踏みするように順々に見つめる。


「ひ、ばば化け物!」


 残りの四人のうちの一人が動転して背中を見せる。


「しゅ、[俊足]!」


 逃げながら特技を使ったらしく、彼の背中は見る見るうちに小さくなっていく。


「クヒッ!【マグマウォール】」

「あっ、あっ! いんぎゃああああああああお!」


 突如、前方に赤い壁が出現し、避けきれなかった男は壁に突っ込み、断末魔を上げながら黒焦げ二号となった。


「て、テルアキ……」


 逃げ切れないと悟ったのか、ナンパ組はもはや一歩も動けない様子。


「クヒひヒヒ! ……覚悟はよろしいですの?」


 そんな彼らにオルガは情け容赦なく鉄槌を下すのだった。

 後に残ったのは、五つのこんがり男と、見物人につけられた『爆炎の狂女』というオルガの呼び名だけであった。


「ああん! ヨウさん! 大丈夫でしたか?」


 戦闘が終わるなり、甘えた様子で俺に再び抱きついて来るオルガ。

 そこは「ああん! ヨウさん! わたくし怖かったですの!」じゃないか普通?

 これじゃ俺じゃなくて、オルガが勇者だと誰もが言うだろう。


「だ、大丈夫だから……その体勢をやめろ!」


 よく考えてみよう。俺は地面に仰向け、そこに抱きつくオルガ。もうお分かりだろう。なんかいかがわしい事をしている様にしか見えないのだ。


「えー? なんでですの?」

「なんでってお前――コラー! 腰を揺するんじゃない!」


 そのまま起き上がった俺は(上体の話だよ? ほんとだよ?)、オルガを連れて急いでこの場を後にした。



◇◆◇



「はあ、もういい加減に腹も減ったしここらで作るか……」


 その後もなんやかんやで目立つオルガと一緒だと、完璧に落ち着く場所なんて見つからないと感じた俺は、諦めて広場で料理を開始することにした。


「作るって、料理ですの? でもここに調理場なんてありませんわよ?」


 そりゃそうだ。なんたってここはただの広場。調理道具はおろか机すらない。


「まっ、そこが周りの奴と俺の違いよ」


 俺は目の前に台所をイメージして魔法を唱える。


「【何処でもキッチン】」


 カッ! 目を開けるとそこには一軒の屋台が出現する。


「えっ! よ、ヨウさん、これは……?」

「ふふふ、これは数年前から使える様になった俺の秘技! 【何処でもキッチン】だ!」


 ドヤッ、と俺はオルガに自慢する。


「この前のスライムを倒した時から規模が大きくなってな、火は二口になったし、水道だってこの通り!」


 蛇口を捻るとチョロチョロと情けないものの水が流れ出す。


「す、凄い……んですの?」

「あ、当たり前だろ!」


 なんで誰もこの魔法の凄さを分かってくれないのか……チチシロもちょっと微妙な反応したし。


「ま、まあこの魔法の力を思い知らせてやる。そこでしばらく待っててくれ」


 そう言って俺は準備に取り掛かる。


「【冷蔵庫コールドストレージ】【冷凍庫フローズンストレージ】」


 俺は食材の鮮度を保てるという素晴らしい魔法を使い、冷蔵庫から豆腐、ネギを取り出す。冷凍庫からは味噌と油揚げを取り出す。

 味噌は凍らないから冷凍庫保存できるのだ。また、味噌の劣化は酸化が原因なので、買った時について来る表面の紙は、捨てないで使うたびに表面に被せるのが正解だ。


「……ふう、ようやく脳内で説明できる様になったか」


 今までは、俺ですら意味不明な食材関係の説明を口で説明していたが、この前のスライム以降は脳内で補完できるようになった。チチシロに聞いたところ、俺のこの癖はどうやら『食生活アドバイザー』のPスキルらしい。その名を[溢れる食品豆知識]というっぽい。勘弁してほしい。


「で、鍋に適量の水を入れて、火にかける」


 ガスと火花で鍋を火にかける。


「本当は味噌汁を作る鍋と、具材を炒める鍋を別々にした方がいいけど、洗い物が増えるのでノーサンキュー」


 長ネギを断面が広くなるように、斜めに輪切りにする。油揚げは湯をかけて湯抜き、それを細切りにした物を袋に密閉して冷凍庫に常にストックしてある。

 因みに、今回使用するもので冷凍保存できないのは豆腐だけだ。豆腐も使いようによっては冷凍できるが、イマイチ味噌汁には向かない。ネギと油揚げを冷凍しとけばいつでも味噌汁を作れて便利だ。


「鍋に具材、本出汁ほんだしを入れて沸騰するのを待つ」

「仄かにお出汁のいい香りがしますわぁ」


 この時、鍋に蓋をすると早く沸騰させられる。


「で、沸騰したら火を止めて、味噌を適量溶き入れる……が、その前にある物を入れる」

「あるもの、ですの?」

「そう。ここに、トマトケチャップを少し入れる」

「と、トマトケチャップを⁉︎」


 まあ驚くのも無理はない。


「味噌汁の出汁といえば、思いつくのは鰹出汁、そして昆布出汁だよな?」

「え、ええ……」

「今回は本出汁ほんだしを入れたことで鰹出汁は入ってる。でも、いちいち昆布で出汁を取るのも面倒だ。昆布茶でも代用できるがどこにでもあるもんでもない」


「昆布茶……ちょっと凝ってる方の調味料って印象ですわね」

「でも、トマトケチャップならどこの家庭にもある」

「だ、だからってトマトケチャップ? そ、それは極端な発想ですわよ」


 珍しく困惑している様子のオルガに少し笑ってしまう。


「まあ、まて。科学的根拠があるんだから。昆布出汁の旨味成分はグルタミン酸ナトリウムという」

「はあ」


 ここからは確かにちょっと難しい、まあ簡単に説明してやるか


「……昆布出汁の旨味とトマトケチャップの旨味は同じなんだ」

「へぇ、でも美味しくなさそうですわよ」

「あはは、まあそう思うだろ。でもこれがいけるんだ。それに、トマトケチャップには酢が入ってるから、殺菌効果がある。作り置きして腐ってる畜生! ってなりにくくなるんだ」


 手軽に美味しくできる上に殺菌効果もある。鰹出汁(イノシン酸)との相乗効果で減塩効果も望める。まさにいい事づくめなのだ。


「ほら、そんなこと言ってる間にできたぞ」


 辺りには既に芳しい味噌の匂いが漂っており、町の人が集まり出していた。

 町の人も不思議な屋台に興味津々みたいで、遠巻きにこちらを観察している。やばい、帰りたくなって来た。


「はっ、早く食べて行くぞ!」


 俺は炊いてあった米を【電子レンジ(マイクロウェーブ ) 500w】で温めた物と味噌汁、お新香をテーブルに並べる。え? テーブルはどこにあったって? ふふん、俺の魔法で出したのさ!


「本当に、ヨウさんは戦闘に関係の無い技ばかり覚えますわね……」


 オルガは呆れた様子で指摘する。


「う、うっさい!」


 俺が密かに、いや、かなり気にしてる事を突かれて思わず鼻白む。くそっ、いつか最強の攻撃技を覚えて見返してやる……


「では頂きましょうか?」

「……そうだな」


 その事を今はひとまず置いておいて、取り敢えず朝飯にうつる。だってもう結構腹ペコだし。


「「頂きます(わ)」」


 それぞれの決まり文句を言いつつ、俺たちは食に感謝してを合わせる。


 まず手をつけるのは白飯だ。

 お新香と一緒に口は放り込むと、シャキシャキともザクザクともいえるなんとも小気味良い音が口の中に響く。

 そしてお味噌汁をズズズ、とすする。


「……はぁー、この味はやっぱり落ち着くなぁ」


 忙しくない朝はやっぱりご飯にかぎるなぁ、とほのぼのする。

 チラリとオルガを見ると、上品ながらも勢いよく食事を楽しんでいる様子。どうやらお気に召したようだ。


「どうだ? 味噌汁うまかったろ?」

「かっ……!」


 瞳孔ガン開きでこちらを見るオルガは既に言語を忘れていた。


「えっ? なんて?」

「……(もぐもぐ、ごくん)! う、美味すぎますわ!」


 オルガは人目も気にせず叫ぶ。俺は気にするけど。


「ちょっ! 落ち着けって!」

「できませんわ!……だって、だって! この味噌汁! 昨日のスープは一体なんだったんですの? って言いたいくらいの美味しさなんですのよ⁉︎ ……て、しかも、コレは――?」


 まあ、昨日のスープに比べたらそうだろ。だって温かいただの塩水だったもの。相変わらず瞳孔ガン開きで食べまくるオルガ。普段の優雅さなどカケラもない。


「長ネギはシャキシャキと聴覚でも美味しさを味わえて、油揚げの油がコクを生み出し、スープ自体は適度な塩味えんみと旨味の塊。もう、もうこれはまさに! 生命のスープですわぁ!」


 もはや涙を流しながら天に碗を掲げ雄叫びをあげるオルガ。違う意味で俺も泣きそう。ねえ、マジで恥ずかしいからマジでやめてくれない? マジで。


「わかったから! わかったから座れ!」


 なんとかオルガを落ち着かせ、席に座らせることに成功する。こいつ、本当に今までロクなもん食ってなかったんだな。確信したわ。


「な、なぁ兄ちゃん」

「ん? ってええ⁉︎」


 気がつくと屋台に列が出来上がっていた。


「この料理はいったいいくらなんだ? 頼む、売ってくれないか?」


 見れば列に並んでいる老若男女は皆一様に口からヨダレが垂れかけている。


「あー、いくら、ねぇ……」


 正直まだお金というシステムに慣れていない。チチシロがいれば相場もわかるんだろうけど……そもそも売り物じゃないし、でも断ったらなんかされそうだしなぁ……。

 芋換算だと楽なのに、一食芋二つ。他の野菜でもいい。

 でも、ここでは物々交換は通用しないだろう。全く困ったものだ。

 えーと、確かあの宿屋の朝飯が一食300円だったはず、美味しさで考えたら軽く500倍と言ったところだが……


「うーん……じゃ、一食300円で」

「よしわかった! これで頼む!」「俺もだ!」「私もー!」「わしも頼むぞー!」


 本当にサッパリ相場がわからないので、取り敢えずあの宿と同じ値段にした。

 値段が決まった瞬間に客達は屋台に押し寄せ、次々に金を投げつけてくる。


「って! お金を投げたやつ誰だ!」


 その後、多少のハプニングはあったものの、俺は味噌汁を作りまくり、米を炊きまくり、客に渡しまくった。

 俺の料理を食べるたびに感動して、涙をダーと流す人々に正直引いた。はたから見れば集団ヒステリーだ。

 ……因みに、オルガが何度も何度も列に並んでいたが、6回目からは数えるのをやめた。

ヨウの胃をキリキリさせるデートはまだ続きます。


次回、ヨウの胃、遂に爆発! 発動する必滅魔法!


どうぞお楽しみに(大嘘)

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