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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第二章・刀刃帝と獄炎帝
20/56

四帝と勇者様

「あ、いたいた」


 ミウからの質問をことごとくスルーしていると、どうやってかは不明だがチチシロもやってきた。


「……え、チチシロまで、なんでここが?」

「あー……、その、なんとなく――じゃ、ダメだよね。その、僕のスキルに[特定人物追跡ターゲットサーチ]っていうのがあって、これをヨウに使っといたんだ。使うと、対象のある程度の位置が分かるようになるっていうスキル」


 へー、便利でいいなチチシロの職は。

 ……ていうか、チチシロの職ってなんなんだ?


「……なあ、マナー違反って言うのは分かるけど、俺たちパーティーだよな?」

「え、うん。そうだね」「そうね」


 ミウは違うけどな、って言いたくなるのをグッと堪える。


「じゃあ、お互いのメインだけでも職を知っといた方がいいよな」

「ピシッ」


 俺が何となしにそう言うと、チチシロがわかりやすく効果音付きで固まった。


「え……どうした?」

「あっ……いや、なんでもないけど」

「確かにそうよね、私だけ職がバレてるなんて不公平だわ」


 どうやらミウもこの提案に乗り気だ。まあ、ミウにとってはデメリットがないから、当たり前っちゃ当たり前だが。

 とりあえず、二人でチチシロに目線を向ける。


「……カー……」

「え? ごめん、潮風で聞こえない」

「ス……カー……」


 なんだかチチシロらしくないな、歯切れ悪いし。


「ちょっとチチシロ、聞こえないからもっとはっきりいってちょうだい」


 ミウの言葉にグッ、と歯を食いしばるチチシロ、そしてその硬い口を開く。


「す!」

「「す?」」

「……す、ストーカー……だよ、メインはね」


 くっ! 殺せ! みたいな表情でチチシロは弱弱しく俺を見上げる。

 ストーカー……ストーカーねえ、


「ストーカーってなんだ?」

「え! し、知らないの!?」

「え? ああ、ミウ知ってる?」

「いや、知らないわ」


 チチシロは如何にも驚いた、という表情で俺たちを交互に見たが、やがてパアアっと満面の笑みを浮かべた。


「いや、知らないならいいんだ! うん! そうだな、探偵みたいなもんだよ! うん!」

「そ、そうか……」


 いきなりテンションが上がったチチシロに置いて行かれながらも、なんとか返事はする。


「得意なのは、逃走系、観察系、感知系がおもかな! あ、二番目に習熟してるのは冒険者だよ」


 いやあ、よかったぁ! と言いつつ、ふんす! とチチシロは無い胸を張る。当たり前だ、男なのだから。しかし、その様子はとても可愛らしく、俺は変な気持ちを胸に抱いてしまう。

 クッ、これが庇護欲ってやつか……!


「それじゃあ、一応私も。メインは死神で、得意なのは、死に関するもの、阻害するもの、気配に関するものね。二番目に高かったのはまー……、まだ秘密」


 なんだよ秘密って、と思ったが聞いて何かされたら嫌だったのでスルーの方向で。


「……次は俺だな。もう、これを見てくれ」


 俺は右ポケットから折りたたんである紙を二人に手渡す。さっきは見せない様にと考えていたが、それではバレた時のリスクが高すぎるた思い至った俺は、一つの作戦にかけることにした。


「え……いいの?」

「いいも何も、仲間だしいいだろ」


 そう言いつつ、ん、と言って紙を押し付けた。

 二人はしばらく俺の検査結果を見ていたが、チチシロがその沈黙を崩す。

 よし……作戦、実行だ!


「良かった「すまんっ!」ヨウはちゃんと勇者だったんだね?」


 俺はチチシロが口を開いた瞬間に謝りつつ、土下座していた。


「「え?」」


 俺とチチシロは顔を見合わせながら首を傾げる。


 どうにかダダをこねまくってついて行く作戦。第一段階である、土下座の姿勢のまま、俺はチチシロの発言を脳内で復唱。ヨウはちゃんと勇者だったんだね?


「え……だって、勇者の母値、たったの02だぞ?」

「ああ、うん。そうだね、でも勇者があるってことはその素質があるってことだから」


 僕にはそもそもないし、とチチシロはおどける。


「ち、チチシロ~!」


 涙を目に貯めつつ俺はチチシロに飛び込み、涙を拭くように顔をこすり付ける。チチシロが女だったらこれは犯罪だろう。しかし、チチシロは男。故に俺は一切遠慮なくその胸に飛び込んだ。


「あ、あはは。まあ誤解が解けて、よかったよ」

「ふっ」


 一気に自信を取り戻した俺は、黙り込んでいるミウを嘲笑うように見据える。


「な、なによ」

「俺にはやはり素質があったらしい……で、勇者じゃなかったら俺を連れ戻すためだけ・・についてきたミウさんは、もうここにいる理由がないよなあ?」

「あ、あるわよ!」

「ほう、一応聞こうか」

「そ、それは――よ……ヨウのお母様にヨウの面倒は頼んだって言われたもの!」

「……俺の母さんって、それいつの約束だよ」


 俺の両親は俺が物心つくかどうかのときに他界している。故に俺は外の世界の偏見を聞くことなく育った、だから今こうして外に出られているのだ。


「や、約束は約束だもの、しっかり守るわ!」


 うーん、ここまで頑なになられるともう説得は不可能か――

 とか考えていると、俺はあることに気が付いてしまう。

 ――ていうか、よく考えたらミウは俺たちのメイン火力だから、手放すとチームバランスがやばいんじゃ……?

 しかし、それを言うとミウはこれから調子に乗りまくるだろう、今の俺のように。


「……ま、まあ腐れ縁だしな、これからも一緒に行くか……よろしくな、ミウ」


 あくまで上から、先ほどの考えをおくびにも出さず、俺はやれやれといった感じで了承する。


「……! ふ、ふん! 別にヨウに言われるアレはないし!」


 プンプンと怒りながらも少し照れているのか、そっぽを向くミウ。俺は、うまくいった! と、心の中だけでガッツポーズをする。

 とりあえず、ミウはしばらく放置だな。


「よし! せっかく勇者だったんだ、これからの方針を練ろう」

「うん、そうだね。それだったら……まずはモリアオを目指そう。ずっと北にある本島の最北端だよ」


 最北端とはまた極端な、


「なんか理由があるのか?」

「うん、魔王城は『刀刃帝とうじんてい』が守っているガナノにあるっていわれてるけど、今の僕たちじゃ強さも経験も足りない。だから、修行も兼ねてまずは魔王の娘である四帝を倒すのを目的にしよう」

「四帝?」

「え? うん。四帝って呼ばれる四人いる魔王の娘のことだよ――ってそうか、ずっとあの村にいたんじゃ知らないのも当然だね」

「初耳だな。そんなのいるなんて」

「そうだな……四帝は、ホカイドウ、トーホク地方の『凍結帝』。カントーコーシンエツ、チューブ地方の『刀刃帝』。キューシュー、チューゴク地方の『陰影帝』。そして、どこにいるかわかっていない『獄炎帝』の四人だね」

「ふーん、強いのか?」

「かなり、と言われてるね。挑んだ者はまず帰ってきてないし、現魔王である『封印王』、イオランテのせいで死者の蘇生が封印されてから人類は押され気味でかなり危険な状態だ」


 現魔王については俺も知っている。弟七代魔王であり、人類から蘇生の力を封印した最悪の魔王だ。


「じゃあそいつらを倒せば人々を救いつつ、魔王に手が届くってわけか」

「そういうこと。まあ、どのみち魔王城を囲むように勢力を奮っている『刀刃帝』はいずれ倒さなきゃいけないしね。でも、居場所が判明しているのは『凍結帝』だけ。だから、まずはモリアオへってこと」


 なるほど、そうと決まれば善は急げだ。


「じゃあ早速モリアオに向かうか!」

「そうだねって言いたいところだけど、まずは旅人登録をしておこう。いろいろ便利だし」

「旅人登録?」

「まあ行けばわかるよ」

「そうか、よし。ほらミウもそろそろ行くぞ」

「やっぱりヨウは私がいなくちゃダ――ってえ、なになに!? 引っ張らないでって!」


 未だになにやらぶつぶつ言っているミウの袖を引っ張って、俺たちはチチシロの後を追う。



◇◆◇



「ここだよ」


 連れてこられたのはレンガ造りの立派な建物だ。チチシロは慣れた様子でその中に入っていく。

 俺たちも離れないようにと慌ててその中に入る。

 中は案外広く、外と同じレンガ造りの落ち着いた内装となっている。正面の壁に設けられた木の枠の中には何やら紙のようなものがたくさん貼ってあり、そこを中心に人が大勢いる。


「こっちこっち」


 中に入ってからキョロキョロとあたりを見回しているとチチシロに手招きされる。


「チチシロすまん。人が多くて見失ってた」

「ああいや、僕が先行しすぎたよ。と、ここは旅人組合。ここでは旅人登録のほかに依頼を受注できたりするからいつも混んでるんだ」


 移動しながらこの施設について簡単に説明してくれた。

 旅人組合は企業や神の使節団という大きな組織とは異なり、登録してもなにに縛られるでもなく自由に動ける。

 そのかわり完全な歩合制であり、組合に持ち込まれた依頼を受ける際に、手数料として報酬の二割ほどを渡さなくてはならない。

 また、黙っていても勝手にレベルに見合った仕事をくれる企業や神の使節団とは違い、自分で依頼を受けなければいつまでたっても仕事にありつけない。


「まあ旅をするなら旅人組合、旅をしないなら神の使節団って感じかな。有用適正が無い人は企業しかないけどね」

「俺には有用適正ないけど……」

「ヨウには主婦があるじゃないか」

「主婦なんて誰でもあるし」

「ヨウは特別なんだよ」


 チチシロ曰く、今までで最も主婦適正が高かったのは母値65、最高子値は45%らしい。俺はすでに歴代最高クラスの主婦であり、母値も百オーバーである。それがあのスライムを倒したのだから、もしかしたら主婦は有用な戦闘職の可能性があるらしい。


「それに料理人だって今まで一切注目されていない職だ。ヨウは可能性の塊なんだよ」

「……そうだといいけどな」


 そうこう言っている間にカウンターに到着。


「こんにちは、こちらの二人を新規で登録したいんですけど」

「はい、ではこちらのカードにご記入ください」


 そういって手渡されたのは名前と出身地を書くだけの簡単なものだった。


「え、これだけ?」

「まさか、次はこっち」

「はい、こちらの台座に手を乗せてください」


 そう差し出されたのは手がちょうど治まるぐらいの台座だ。


「乗せればいいのか?」

「そうそう」


 言われるがままに俺はそこに手を乗せる。


「おお」


 乗せると台座は一瞬輝く。


「はい、これで登録は完了です。お次の方もどうぞ」


 ミウも同様のことを行い俺たちは登録を完了する。


「あれで何がわかるんだ?」

「ああ、魔力の傾向は人によって違うんだけど、その差異を利用して個人識別するマジックアイテムなんだ」

「へー。……ていうかミウ、さっきから静かだけどどうした?」

「いえ、別に。ただちょっと、人が多すぎてその……酔ったみたい」


 おえ、とえずくミウ。よく見ると顔色も悪い。


「一旦出ようか、慣れないと確かにこの人込みはキツイかもだし」


 なんだか限界が近そうなミウの背中をさすりつつ、俺たちは出口へ向かった。そんな時だった。


「アーハッハッハ! 登録しに来てやったぞ!」

「ゆ、勇者様! こちらは旅人組合で、神の使節団の教会ではございません」

「む? そうなのか? そうならそうと早く――むっ!?」


 あの特徴的な傲慢な笑い方とともに、昨日の勇者が出入口に現れた。チッと、無意識に俺が嫌な顔をすると、勇者は驚いたようにこちらを見てきた。


「勇者様、いかがされ――あんたは……」


 御付きの賢者っぽい女もこちらを確認すると、憎々し気にその顔を歪ませる。


「なにあれ? ……おえ」


 ミウも行く手を遮られ、うざったそうに顔に皺を寄せながらえずく。お前はもう黙っておきなさい。


「サディス……」

「あんた……チチシロ? まだ生きてたのね」


 御付きの女は、チチシロの顔を見るなり嘲笑を浮かべる。


「なあチチシロ、あの女なんなんだ?」

「……彼女はサディス。僕と同じイタンヘ族の者だよ」

「ふん、あんたみたいな落ちこぼれと同じにしないで欲しいわね」


 チチシロが落ちこぼれ? 何を言ってるんだこの女は。


「それに、私はもう勇者を発見したのよ。……もしかしてここにいるのって、私から勇者を奪うため?」

「ちがっ! 誤解だよ! それに僕も勇者を見つけてる」

「勇者を……?」


 サディスはチチシロに向けていた鋭い視線を俺にズラす。


「あはっ! もしかしてその冴えなそうな男が?」

「ヨウをバカにしないでくれるかな、彼は確かに勇者の素質を持っている」

「これは傑作ね!」


 馬鹿笑いをするサディス、どうやら俺をバカにしてるらしい。俺もカチンときて文句を言ってやろうと口を開こうとした時だった。


「サディス、少し黙れ」

「は、はっ! ……も、申し訳ありません勇者様」


 やけに真剣な表情の勇者がサディスを一喝する。もしかしてこいついい奴なのか? とか思っていると、勇者はこちらに歩み寄ってくる。


「……君たちはその男とともに旅をしているのか?」


 俺を一瞬睨み付けたかと思ったら、すぐに視線を逸らし俺の後ろにいたミウとチチシロに話しかける。


「そうだけど……」「そうよ……おえぇ」

「単刀直入に言おう。俺様についてこい」


 ん? おい、こいつ今なんて言った?


「あの……、どういうこと――」

「貴殿には聞いていない」


 俺が話しかけると相手にされなかった。なにこれ、怒っていいの?


「嫌よ、気持ち悪い。話しかけないでくれるかしら? おえっ」

「ちょ! あ、あんた! 勇者様に向かって――」

「ハッ! よい! 寧ろ芯の通ったいい女ではないか! 気に入った!」


 勝手に盛り上がる相手陣に俺たちはテンションが追い付かず、ただ茫然としてしまう。


「そうだ……、決闘を貴殿に申し込むとしよう。こちらが勝てばその二人を引き抜かせてもらう」

「お、おい! なにを勝手に進めてんだ!」


 俺はようやく理解が追い付き、理不尽に進んでいる話に突っ込みを入れることに成功する。


「逃げることは許さぬぞ。そうだな……明日の正午に中央広場にて待つ。それまで二人との最後の思い出を作っておけ。……サディス、頼んだ」

「……まあ、勇者様がそう仰るなら。……[絶対強者の命令]」


 サディスという女は口ではそう言いつつも、かなり嫌そうな表情で渋々とスキルを発動する。


「で、ヨウ――だっけ? 決闘するわよね・・・・・・・?」


 するわけないだろバーカ。


「はい、喜んで」

「……はい。よくできました。じゃあ明日ね」

「はい……って! 俺は何言ってんだ!?」


 俺は気が付くと、決闘を了承してしまっていた。右手の甲に何やら幾何学模様が浮き上がる。


「え! なにコレ!?」

「ふん、それでは待っているぞ。サディス! 行くぞ」


 よく見ると勇者の甲にも俺と同じ模様が浮かび上がっている。勇者はそれを確認すると二人で何処かへと去っていった。


「や、やられた……」

「な、なんで……俺、あんなこと言うつもり――」

「……ヨウ、しょうがないよ。今のはサディスのスキルだ。対象に一つだけ命令をできる効果がある」

「この模様は!?」

「サディスのマジックアイテムの力だね。目の前で交わされた契約を守らせるっていうものだ。理由もなく約束を破ると相手の不戦勝になって、約束通り、僕とミウさんは相手のパーティーに入れられちゃう」

「はあ!? なにそれ! 聞いてないわよ!」


 あまりの理不尽に叫ぶミウ。しかし、その直後に、うっ! と口元を抑える。あ、これはやばい。

 とりあえず、俺たちはミウを介抱しつつ、昨日の宿まで戻ったのだった。

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