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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第二章・刀刃帝と獄炎帝
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職業適性と驚愕

 そして翌日、俺たちは例に漏れずなんともなんともな朝食を終え、職業関係を取り扱うという施設に向かっていた。


「へろーわーく? っていうのがその職業系の施設なのか?」

「そうだよ。職業適性を見てくれる他にも色々あって、自分のメイン職業を設定する時の補助施設とか、有用な職業適性がなかった人をスカウトする企業のブースとかがあるよ」

「なんだ? 企業?」

「そうそう。自分の職業を人に譲渡できるっていう珍しい性質を持った人がたまに現れるんだけど、その人が他の有用適正のない人を集めて部下として雇うもののことだね。会社、ともいうよ」

「へー」

「まあヨウには関係ないし、あんまり知らなくてもいいけど、大手ぐらいは知っといて損はないから一度見てくるといいよ」


 確かに、その話を聞くかぎりその職業の人口は多いわけで、いざという時に協力しないとも限らないし、相手が何をできるかぐらいは知っといたほうがいいか。


「っと、あれがそうだよ」


 そういわれる先には何やら立派なグレーの建物があり、看板には『公共就職安定所』と書かれていた。


「あ、因みに公共就職安定所っていうのは、ヘローワークの別名みたいなものね」


 俺の疑問を感じ取ったのか聞く前に答えてくれる。


「えっ……ドアが勝手に開いたり閉まったりしてる!?」

「ああ、あれはオートマチックドア、魔法で全自動で動くからみんなは自動ドアって呼んでるね」

「へー!」


 後で遊んでこよう。


「それじゃあ僕は外で待ってるから」

「え、ついてきてくれないのか?」

「ちょっと調べたいことがね、まあ2人でも大丈夫。それじゃあね」


 そう言って手をひらひらと振りながら、チチシロは人混みの中に消えて行った。


「……まあ俺ももう子供じゃないんだし、大丈夫だろ。ほれ、ミウ行くぞ」

「……うん、わかったわ」


 ミウは朝がすこぶる弱い。だからこそ、出発の日は早朝に出発したのに。こいつ、あの日はわざわざ徹夜でもしたんじゃないだろうな。

 まだどこかボーっとしているミウを引っ張って、俺は施設に入る。入ると正面に受付があり、受付の女性が微笑んでいる。


「あ、あの……2人とも初めて、なんですけど」

「はい、かしこまりました。本日はどのような御用件でしょうか?」

「えーと、適性職を見てもらいたいのと、メインの職を決めたい……です」

「かしこまりました。それではあちらの番号札をお取りになっていただき、右手のソファーにおかけになって、呼ばれるまでお待ちください」

「は、はあ。ありがとうございました」


 言われるがまま、よくわからない機械の前まで行き、番号札と呼ばれていた数字の書かれた紙切れを2枚ほど切り取って俺達は席に着いた。


「なんか村の人達と違うわね、なんと言うか……他人行儀って感じ?」


 ようやく低血圧から復活したのか、ミウがコソッと話しかけてくる。


「確かに……」


 言葉使いや表情そのものは人当たり良いのだが、村の人たちのように素って感じではなくどこか仮面を被っているような感覚だ。


 ポーン、番号札8番でお待ちのお客様、2のカウンターまでどうぞ。


 慣れない都会の人の態度にミウとひそひそしていると俺の番号が呼ばれる。


「っと俺だ。じゃあ行ってくる」

「ええ」


 カウンターに向かうと若い女性の人が正面に座っている。


「こんにちは、本日はどのようなご用件ですか?」

「えっ……あ、はい。適性職をみたいのと、メイン職を決めたいです」

「かしこまりました、それではこちらへどうぞ」


 女性に付いていくと一つの部屋に案内される。


「どうぞ、お入りください」


 どうやらここが目的地らしい。はあ、と頷き部屋に入る。


「失礼します」

「はいこんにちは」


 声の主は一枚の黒いカーテンに遮られていて見えない。


「ん? もしかして初めて?」

「あ、はい」


 なんでわかったのかは定かではないが、なるほどなるほどと言いつつ、声の主はカーテンについて簡単に説明してくれた。

 曰く、職業適性はその人の価値そのものと言っても過言ではない。そのためこうやって誰がどんな適性を持っているかわからないようにしないと、その人の情報を狙って神父さんが襲われたりする。それを防ぐためらしい。知らぬが仏ってやつだ。


「まあ気にしないで、この黒い布切れ一枚で君と僕の安全が確保されるってことだから。とりあえず、いくつか質問していくよ」

「はい」



◇◆◇



 ザザーン、パチパチパチパチ……ザザーン、パチパチパチパチ……


 ああ、波の音はいい。波で転がった小石同士がぶつかる音が耳に心地よい。まるで花火のような音が俺の鼓膜を震わせる。


「ヨウ、どうだったの?」


 波の音

   海辺に響く

     水花火


 ――ってところか。ああ、いつまでもこうしていたい。


「ほらほら、見せなさいよ」

「ああもう! うっとおしいな!」


 ダメだ! 無視しきれない。 話しかけられるだけならまだしも、頬を思いっきりツンツンされたら無理だ、痛いし! ミウを振り払いながら俺は右ポケットに入っている紙について思い出してしまう。



◇◆◇



 あの後、俺は一枚の白紙を受け取った。神父さんらしき人がカーテン越しに何か呟くと、そこには俺の適性職一覧が浮きでてきた。


「おお! えっと、勇者勇者ー……」


 俺は軽く感動を覚えつつ、紙をまじまじと観察する。どうやら上から順に適性の高いものとなっているらしい、もちろん上から勇者を探していく。が、


「ん? あれ?」


 ない、少なくても上から十個にはない。因みに、上位三つは、


〇主婦― 110……40%

 料理人― 100……21%

 食生活アドバイザー―71……19%


 となっていた。他の上位にあるの職も食事関係や掃除関係が多い、勇者とは微塵も関係ないどころか戦闘職ですらない。


「うそ、だろ」


 ようやく見つけたそれは下からわずか二つ目。そこには、


 勇者―02……00%


 とあった。


 あんまりにあんまりな結果に半ば放心しつつ、俺は部屋を出る。そのまま、先ほどの女性に案内され、メイン職を決めるという部屋に入った。


「はいこんにちは」

「……こんにちは」


 例によって黒いカーテン越しに挨拶される。


「うーん、なんかあったのかな? まあいいや。それで、メインにしたい職は決まっているかな?」

「それは――」


 俺は勇者にすべきなのか?

 この数値がなんなのかはよくわからないが、低いってことは分かる。


「――その前にちょっと、相談したいんですけど」

「いいよ。それも業務のうちだ」

「この紙を見てくれますか?」

「えっ……いいの? いや、そっちがいいならいいけど。あ、顔と名前は絶対に見せたり言ったりしないでね? 面倒くさいことになるから」


 無言で頷き、俺はカーテンの下に紙をススッと差し込む。


「どれどれ、ん!? 母値三桁が二つも!? あ、でもコレ……」


 一度驚いたものの、相手の人はそれきり黙りこくってしまう。


「うーん、で、どれをメインにしようと? 今は〇が付いてる主婦になってるけど」

「……勇者」

「え、勇者? ええとー……え! 母値02じゃないか、これはさすがにオススメできないな、適正無しと同じだし」


 グサッと心に刺さる言葉。適正無し――という言葉が俺の中で木霊こだまする。


「正直に言っちゃうと、オススメは企業に就職かな。この適性結果だとその、あんまり未来が見えにくいというか」


 落ち込んでしまった俺はそれ以上なにも言えない。それを気遣ってくれたのか相手の人も頑張って慰めてくれる。


「あ……でもでも、母値三桁職があるってだけでもかなりレアなのに、それが二つもあるなんて本当に凄くレアだよ! た、例えそれがアレな職業でも……」


 尻すぼみになる言葉、それは言葉以上に雄弁に語っていた。つまり、意味ないけどね、と。


「……母値ってなんですか?」


 俺は可能性に縋るように、とにかく不透明な部分を明らかにすることにした。


「ああ、そこからね。うん。紙に職業の後に書いてある数字があるでしょ? それが母値、%の前の数字が子値っていうんだ。母値っていうのは適性の限界値で、下の子値が現在の習熟値なんだけど、子値は母値までしか上がらないんだ。つまり、勇者だと母値02だから、そこ(02%)まで習熟するとそれ以上の成長はないってことだね」


 なるほど、と言うことは、つまるところ、俺はもう勇者にはなれない、と……


「でも母値も微量だけど上がるんだ。ほら、この主婦だけど、母値 100%オーバーしてるだろ? メインにしてると顕著だけど、ある程度習熟すると母値も若干上がるんだ」

「えっ! それじゃあ俺もまだ勇者になれるってことですか!?」

「えと……メインにしてると生涯かけて大体30、そうでないのは10ぐらいだね。……正直に言って、勇者はあきらめることを勧めるよ」

「……そう、ですか」


 俺は落胆を隠さずに返事する。大体なんで俺は勇者で勇者・・・・・にならなくちゃいけないんだ? 過去には一応、魔法使いの勇者や海賊の勇者だっていたのに……だったら主婦の勇者・・・・・がいたっていいじゃないか。

 もうこうなったら自棄やけだ。俺は口を開く。


「このままでいきます。ありがとうございました」

「……うん、そうだね。やっぱり企業に就職したほうが――」

「いえ、このままいきます。主婦メインで」

「えっ、それはちょっと厳しいんじゃ――」

「ありがとうございました」


 忠告を無視してバタン、と扉を閉める。「終わりましたか? ではこちらへ」と、相変わらず無機質な女性に案内され、先ほどのホールに戻る。


「騒がしいな……」


 ホールが先ほどに比べかなりざわついている。

 もしかしたら、先ほどからそうであって、今の自分の心境がささくれ立っているからそう感じるだけか……とも考えたが、それにしてもうるさすぎる。

 それによく見ると、ざわめいている群衆は一か所に集まっており、とある通路を囲むようにたむろしていた。

 ミウが終わるまで暇だしと、ヨウはそこへ足を運ぶことにした。


「ふふふ、アーハッハッハ!」


 ヨウが群衆に加わると、ちょうど奥の通路から一人の男が出てきたところであった。


「ふふふ、よく聞けぃ群衆よ! 俺が……いや、俺様こそが勇者だ!」


 その男は豪快に笑いながら出てくるなり、俺が先ほどもらった絶望の紙と同じ物ををひらひらと見せびらかしている。

 若干不機嫌なヨウはイライラしつつもその紙が目に入ってしまう。そこには、


 勇者― 110……55%


 と、文字が一番上に浮かんでいるのが見えた。

 そこが見えた瞬間、俺は頭の中が真っ白になった。ミウのことなど頭から消え去った俺が思い出したのは、昨日見た美しい海であった。


「そうだ、海に行こう」


 そう無意識に呟くと、俺はフラフラと目的地もあやふやなまま自動ドアへ向かう。途中、後ろから「お、お客様! 困ります!」やら「ええい、俺様は勇者であるぞ!」と聞こえてきたような気がするが、そこから先は覚えていない。



◇◆◇



 そして、気が付いたら今こうして波打ち際に座っており、いつの間にかいたミウにちょっかいをかけられているのだった。

 俺の旅路……大丈夫なのだろうか? どうにかして、この事実を隠蔽し、チチシロについていかねば……

 俺はミウをいなしつつ、そう心に誓う。

~おさらい~


    母値-子値%


ヨウ/ 〇主婦 ……110- 40%

    料理人……100- 21%

    食生活アドバイザー……71- 19%

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