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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第一章・外の世界と初めての魔物
15/56

もう一つの物語 後

「うぼっお!」


 攻撃の準備を進めつつ、少女の攻撃をいなす。が、それでも、少女の攻撃は確実にエドヴィルの体力を削っていた。


「くひッ! どおぉしたんですのお? もう、疲れちゃいましたぁ?」


 少女は挑発するように軽口を叩いてくる。


「くヒヒッ! 【燃え盛る火弾ファイアーバレット】」


 バンッ! と少女が言うと、指先から炎に包まれた銃弾が放たれる。しかし、ソレは触手を二本貫通したところで勢いを失う。


「あらあら、さすがに・・・・これぐらいの攻撃では効きませんか」

「…………っうぼ」


 攻撃を防いだというのに、エドヴィルは内心でかなり焦っていた。普通の銃の攻撃では、エドヴィルの触手を貫通どころか表面に触れたところから溶け出す。しかし、少女が何気なく使ったこの魔法は、いとも容易く二本も触手を貫通してきた。攻撃力も桁違いだ。そのうえ、瞳には炎が灯っておらず、これが能力ではない普通の魔法という事実がエドヴィルを恐怖させていた。


「ああ、ああ! わたくしの攻撃が防がれてしまいました。……俄然がぜん燃えてきましたわ」


 くヒヒ、クヒヒひひヒ! とくぐもった声で不気味に笑い出す少女。ボッ! という音と共に新たに緑色の炎が背後の輪に灯る。


「あぁ~ぁはは、わたくしともあろうものが、恥ずかしながら興奮してきてしまいました……」


 少女はハァハァと息荒く、やけにあでやかな舌で唇を舐める。


 四色め……か、


「あなたはお強い、その証拠に四色目の炎が灯ったのです。……なので、そろそろ次の能力を使わせていただきますわ」


 エドヴィルは舌打ちを胸中に留めながら警戒を強める、こちらの準備がまだ整ってないというのに!


「放ちなさい、『紫炎アメシスト』」


 輪から紫色の炎が消え、少女の右目に紫炎が揺れる。


 次は一体なにをしてくる……?


 エドヴィルは無意識に防御の構えをとる。


「『教皇の指輪パーパル・リング』」


 右手の薬指が紫炎に包まれ、下火になる――と、そこには、紫色の炎を上げる宝石のついた、金色の指輪がはめられていた。


「一つ、良い事を教えて差し上げますわぁ。この『アメシスト』は〝愛の放出〟ですの」


 〝愛の壁〟の次は〝愛の放出〟? なんなんだそれは……


「ですが、ただただ愛を放出するだけではこうなるだけですの」少女の右目が空中のある一点を見つめる――と、そこに突如として紫色の炎が噴き出す。「――と、このように威力が分散してしまって『藍炎ラピスラズリ』のようにそのままで運用するのは少々心許ないですの」


 エドヴィルは無意識のうちに少女の右手に注目していた。それに気がついたのか、少女はニヤつきながら話すテンポを上げる。


「そうっ、そうですわっ! この『教皇の指輪パーパル・リング』があれば愛をここに集中させて放てるんですのッ!」


 そう、このように……


 口をそう動かせるとおもむろに右手を天にかざし、こちらに向かって思い切り振り下ろされる。


「うぼっ!? ――うぼぼぉ!?」


 弧を描くように空を切った指輪から、三日月型の紫炎がこちらに放たれる。エドヴィルは多少驚きながらも触手でガードする――が、接触した瞬間に炎は拡散し、触手は弾き飛ばされる。


「くヒヒヒヒ――クヒひッ! どぉーですのぉ? 『紫炎アメシスト』の力は! 〝愛の放出〟の他にも邪気・・を払う、といった力もあるんですの」


 あなたの触手のように邪なものをね……と少女が言うのと同時に、触手が炎と接触し、バチィッと再び弾かれる。


「ほら……ほらぁっ! まだまだ行きますわよッ!」


 その後も、少女は笑いながら何度も空に弧を描き続け、その度に三日月型の紫炎がこちらに迫る。触手でガードするものの、挙動が明らかに相手の方が早い。ジリジリと触手と紫炎の接触部が本体に近づいてくる。


「――うぼっ!」


 そして、遂に目の前で触手が吹き飛ばされ、次の触手を用意する前に紫炎が眼前に迫る。


 ち、畜生……一撃くらい!


 そうエドヴィルが衝撃に備え覚悟を決めると、接触直前に、紫炎は突如として霧散した。


「……ぼっ?」


 何が起こったのかわからずエドヴィルはフリーズしてしまう。


「……はぁー、もういいですわ。このままでは、奥の手を使われる前に勝負が決してしまいますもの」


 投げやりに少女がそう呟く。


「さぁ、何か用意しているのでしょう? 早くなさってくださいまし」


 ほらほら、とこちらを挑発してくる少女の瞳は元の紅色に戻っていた。


「……うぼぉ」


 まあいい、せっかく油断してくれているのだ、ここで決めてしまおう。


 エドヴィルはゆっくりと地中を進めていたソレ・・を地上に飛び出させた。


「あら?」

「うぼああああああぁっ!」


 エドヴィルの周りにいくつもの魔法陣が出現し、魔法の発動を知らせる。同時に、エドヴィルと少女を取り囲むように、地中から飛び出たエドヴィルの触手を枝分かれさせたものから紫色の霧を噴出する。


「ふん、何かと思えばこの霧ですの……もうタネは分かっておりますのよ!」


 少女は魔法を唱え、先ほどと同様の火弾を放つため霧に向かって手で銃を作る。


「バンッ」


 一瞬の閃光のあと、指先からほとばしった弾はしかし、霧に接触しても何も起こらず、そのままもやの中へと消える。


「え――」


 そう、この霧は今までのものとは少し違う。可燃性を無くし、毒性のみをさらに魔力で強化した特製の霧――名を[神隠しの霧]と言う。例え、神に近い力を持っていようとも、この霧の中では全てが溶ける――私や私にとって有用なもの以外は。


「なるほど、これは確かに危険……ですわねぇ」


 霧に囲まれながらも、少女は意外と冷静に霧を観察している。先刻の魔法戦士にも使いたかったが、あの時は相手が動き回るためこの技は使用できなかった。しかし、少女は常に一直線上を動くだけであったので、囲むのも地下に霧を貯めるのも苦ではなかった。


「うぼぉ……うぼぉ」


 エドヴィルは勝利を確信し、視覚を細めて笑う。少女が油断しなければ私は負けていただろう――しかし、所詮は少女。子供に負けるほどこちらも落ちぶれてはいない。引き分けはあっても私達に負けはないのだ……勝利はあるのだがな。


「――クヒッ!」

「う、うぼ?」


 また笑った? もう対して時間のないこの状況でどうして――「今、あなた……勝利を確信いたしましたわね?」エドヴィルに戦慄が走る。


 ば、バカな!? この霧は先ほどの紫炎ごときでは流されない……今更なにを強がっているんだ。


「守りなさい、『藍炎ラピスラズリ』」


 ――なんだ、ソレか。


 エドヴィルは少女の行動を見て安堵する。

 その、自分の周りを覆うだけの壁では身動きできまい。それに、地面から円状に立ち昇るその炎では上はガラ空き、そこまで霧が満ちるのも時間の問題……

 エドヴィルは自分の分身をここに残し、本体で御神木を枯らすために密かに分裂を開始する――


「放ちなさい、『紫炎アメシスト』」

「うぼっ……」


 藍炎だけでなく紫炎をも瞳に灯した……一体なにをするつもりだ?


「……クヒッ! 気がついていますの? あなたはわたくしに恐怖を感じているんですのよ?」


 は? 恐怖? こいつはまた一体なにわけのわからない戯言を――


「では、わたくしが何かするたびに熱い視線を送ってくださるのは何故かしら?」


 言われて気がつく、気がついてしまう。

 なんで、なんで私はこんな人間モドキ如きの一挙手一投足をこんなにも気にしているんだ……?


「強いから? 何をするかわからないから? ……でも、それらの根幹を成しているのは紛れもなく〝恐怖〟ですわよ?」


 少女はこちらの考えを見透かすように私の心を代弁する。

 恐怖……恐怖、か、久しく感じていなかったから忘れていた。


「うぼ……」


 エドヴィルは視界を細める。

 だが、それがどうかしたのか? 今の状況を見る限り有利なのは圧倒的にこちらだ。


「くヒヒっ! ……これでダメなのであれば、わたくし、死んでしまいますわねぇ――『宵闇インディゴナイト』」


 藍炎の上部が内側に曲がり、少女はドーム状の藍炎に包まれる。

 確かに、それならば寸分の隙もなく、霧の入る余地はない。が、空気の供給にも限界があるはず……飛んで火に入る夏の虫ではないか。


「『夜空を駆ける波紋ナイトリップル』」


「うぼ!」


 少女の言葉とともに、ドーム状の藍炎はその大きさを拡大しながらあたりに広がった――いや、放出されたのか!?

 まるで、水面みなもに広がる波紋のように、幾重にも藍炎はこちらに迫る。


「うぼ!……うぼ!……うぼ!」


 波のように、定期的に訪れる藍炎は、広がっているためか、または攻撃用の技でないためか大した威力はない。だが、三百六十度全ての方向に拡散するそれは、私の神隠しの霧を押し退けてしまう。


 もう藍炎が何度押し寄せたのかわからなくなった頃、ようやくそれ・・は終わる。霧はすっかり払われてしまっており、少女に傷一つつける事は叶わなかった。


 うっすらと目を開けると少女はひたすら笑い狂っていた。


「クヒッヒヒヒッ! ああ……あぁー……! 助かってしまいましたわ、試練を退けてしまいましたわ!」


 ギョロリ、と少女の目が此方に向けられる。

 まずい、そう感じたエドヴィルは咄嗟に少女からの死角で分裂を再開する。

 それを途中で打ち切り、小さなエドヴィルを誕生させる。それをこの場から離れさせ、少なくともこの少女の存在だけは姫に伝えるべく密かにこの場から離れさせる。


「『藍炎ラピスラズリ』」


「うぼっ!?」「うぽっ!?」


 先ほどの少女を囲っていた藍炎は、今しがた生まれたばかりの小さいエドヴィルを囲む。


「う、うぽっ……!」


 少女は、気がつかないと思いまして? と言わんばかりの満面の笑みを浮かべる。


「見逃してあげるわけにはいきませんわねぇ――『掌握グラスプ』」


 少女はその工芸品のように繊細な指を徐々に折り畳んでゆく。すると、手の動きと連動して藍炎はその範囲を縮めていき――


「ぅぽおおおおおお――!」


 為すすべもなく、その中にいたミニエドヴィルは一本になった藍色の炎柱に身を焼かれる。

 やがて炎が消えると、そこには灰しか残らっていなかった。


「うぼっ!? うぼあああああぁぁ!」


 今のをほんたいにやられたら終わる、そう考えたエドヴィルは苦肉の策に打って出た。

 魔法陣を展開させ、身体中から可燃性のガスを噴出する。


「あら、まだ何か用意されてるんですのぉ? クヒッヒッ! 随分と、楽しませてくれるんですのねぇ?」


 余裕たっぷりの少女は、どうやら様子見に決め込んでくれるようだ。

 先ほどまでとは異なり、霧はエドヴィルをも包みながら広がって行く。


「うぼぉ!」


 最後に小さな魔法陣を展開させ、エドヴィルは火花を散らす。

 火花に触発した可燃性の霧は、その威力を遺憾無く発揮し、エドヴィルをも巻き込んで爆発する。


「う……ぼぉっ!」


 爆発に巻き込まれ、エドヴィルは体がバラバラになるのを感じる。だが、エドヴィルは地面に踏ん張らず、敢えて爆風に身をまかせる。


「あぁー……なるほど、そういうことですの」


 少女もこちらの狙いをようやく理解したらしいがもう遅い、既に、ほとんど全方向にエドヴィルの破片は飛んでいる。全てを駆逐しない限りエドヴィルは死なない、これで私の勝ちだ!


「クヒッ! クヒヒッ!! 甘い甘い甘い甘い甘い甘いですわよぉおッ!!」


 遠くで少女が何か言いながら笑っているのが見える、が、今更どうしようというのか。

 だが、エドヴィルは――否、エドヴィル達・・・・・・は勝利を確信しながらも、やはり少女から目を離せない。と、いきなり辺り一帯が暗くなる。

 日が落ちたのか――いや、これは――!


 そこでエドヴィルの思考は途切れ、夜空にいくつもの流星が線状に輝いた。




「クヒひ、なかなか綺麗な流れ星でしたわ」


 藍色の炎と紫色の炎が揺れるオッドアイをうっとりと細めつつ、少女は指を鳴らす。


「『宵闇インディゴナイト』……確かに、ここまで範囲を広げるとその力はかなり衰えるでしょう。しかし――」少女は炎が揺れる双眸を閉じ、もはやエドヴィルには届かないと知りつつも説明を続ける。「――あなた自身が細かくなってしまえば、この程度の愛の試練でもあなたは燃え尽きてしまう。あなたの敗因は、私の活動時間に限界があると気がつかなかったこと、ただそれだけですわ」


 自身が作り出した、天を覆う藍色の夜空が色せていく。

 事実、エドヴィルが全力で時間稼ぎにシフトした場合、自分は勝てないだろう。と、少女は考えていた。だからこそ、余裕たっぷりに攻めるフリをしていたのだ。

 ……まあ、普段からあのような戦い方が一番好きなのも事実ではあるが。


 少女は自身の活動時間が迫るのを感じる。


「もう、時間なんですの……」


 一つ……また一つと背輪――ウロボロスから炎が消えてゆく。 やがて炎は全て消え、ウロボロスは蛇の姿に戻り、少女の影にぬるりと戻って行く。


「せっかく、久しぶりに表に出たのですから、せめて、せめてヨウさんに会いた――」


 少女が言葉を言い切る前に意識は途絶え、空には再び燦々さんさんと輝く太陽が顔を覗かせる。ドレスや靴からは炎が消え、消えた炎の焦げが裾から全体に広がり、ドレスは元の村娘の衣装に戻る。真紅の瞳には黒みがかかり小豆色の瞳に。髪も燃えるような赤に黒が混じってゆき、少女ミウは覚醒する。


「あれ……ここは――?」

第一章はここまでになります!結構伸びてしまいました……拙い文章で読みにくい&理解しがたいところ多々あったと思いますがいかがだったでしょうか?

書き貯めしておいたのはここまでなので、これからは投稿スピードがこれまでのようにはいきません。週一ぐらいで更新できたらいいなあと考えております。

ヨウ達の冒険はまだ始まったばかりですので、よろしければこれからもお付き合いただけると幸いです。

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