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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第一章・外の世界と初めての魔物
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種明かしと勇者

「ぅ、ぅう……」


 気がつくと俺はどうやら横たえているようだった。瞼越しに強い光を感じる、眩しさに顔をしかめながらも俺はゆっくりと目を開く。

 始めは眩しくてよく見えなかったが、慣れてくるに連れ光源が太陽でないことがわかる。


「木が……光ってる?」


 だんだんと意識が覚醒してくると頭が何かに乗っているらしいことに気が付く。


「ヨウ! 起きた!?」


 上から声が聞こえる、木と反対方向に首を動かすと俺を覗き込むチチシロの顔があった。


「チチシロ……あれ、俺は――」


 そこでようやく俺は先ほどまでの出来事を思い出す。


「っ! そうだ、スライムは――ってあれ?」


 身体が全く動かない。かろうじて首だけは違和感なく動くが、それ以外はほとんどいうことを聞かなかった。


「ヨウ、落ち着いて。スライムならたぶん大丈夫だから」


 俺たちのすぐ近くにミウも座っていた。

 ひとまずその報告をきいてホッと息を漏らす。

 そうか……やったのか……って、なんか引っかかる言い方だな。


「たぶんって?」

「ヨウのあの魔法でかなり散り散りになったから……でも、いくらあのスライムといえどもう大丈夫だと思うよ」

「それならいいんだ……って、これって膝枕!?」

「そうだけど?」

「そういうことは早く言えよ!」


 俺は恥ずかしさのあまり、慌ててどこうとするが身体が動かないので無理だった。


「無理しないで、ちょっとはそこで落ち着いてなさい。それに気が付かないの? それが御神木よ」


 ミウが呆れたように俺を見る。


「これが……」


 やはりというべきか……やっぱり光ってるんだな。光ってると神聖なオーラ感じるもんな。


「ていうか、いいのかよ? お前さっきまでチチシロのこと死ぬほど毛嫌いしてたじゃん」

「いいのよ、だって……」


 ミウはなぜかそこで一拍おく、


「だって! チチシロほど優秀な人材はいないわ! 見た目も声も間違いなく女! なのに男! 男だからヨウを誘惑する心配もなく、女でもあるからビジュアル的にも問題ない……まさに、完璧……完璧なのよ!」


 素晴らしいわ……と、ミウは一人うっとりと息を漏らす。

 ……まあ、本人がいいならいいか。


「ていうか、なんで俺こんなにボロボロなんだ?」

「ヨウ、覚えてないの?」

「え……いや、最後の記憶は――俺が魔法を使ったところか」

「そうか、ヨウ。君は吹っ飛んだんだよ。自分の魔法の威力が強すぎてね」

「ふ、吹っ飛んだ?」

「うん、今だってミウさんが魔法で痛みを消しているから平気なわけで」

「そうよ、感謝しなさい」


 ミウがふふん、と胸を張る。


「……なんで死神であるお前がそんな優しい技を?」

「さあ? 使えるんだから仕方ないじゃない。拷問にでも使うんじゃないかしら?」


 えげつねぇ……


「本当だったら、両耳の鼓膜破裂、両眼球が潰れてて、全身をくまなく骨折しつつ左腕はもげかけてたね。それに――」

「ちょちょちょ! 待て待て! ……え? それ本当なのか?」

「え――うん。落ちた先にたまたま村の人たちがいて、たまたま村長のために残してあった魔力で治癒魔法をかけてなかったら確実に死んでたね」


 ま、まじかよ……そういわれると確かに気を失う瞬間にふわってしたような。

 今はいつも通り、耳も聞こえれば目も見える。痛みもない。


「……もう、ヨウ。あまり無茶しないでよ……一回死んだら生き返れないのよ?」


 ミウらしからぬ弱弱しい声に、俺は思わずミウをジッと見つめ返してしまう。よく見ると、その目は少し赤く腫れている。



「そうか……心配、かけたな。ごめん」

「おっ! ヨウ! 目覚めおったか!」


 珍しくしんみりムードが漂いかけたとき、村長達がどこからか戻ってくる。


「村長! 姿が見えないので心配してましたよ」

「なに、スライムの破片をできる限り消滅させようと思ってな……そんなことよりヨウ!」


 そう言いつつ村長がグッと詰め寄ってくる。


「うっ、なんですか」


 むさっ


「さっきの魔法……アレはなんじゃ!」


 案の定に案の定な質問をしてくる。


「あー、アレは主婦の火花スパークですよ」

「そんなこと知っておるわ! だからこそじゃ! なんであそこまで威力が……火花スパークの何倍……いや、何万倍あったと思っとる!」

「えーと……」


 周りを確認しても早く言え、とばかりに俺に注目している。


「あのー、実はあまり言いたくないというか「『解除』」ぼぐわああああああああああ!!」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!


 ミウがなんか言った途端、全身に激痛が走る。


「うぼあああああああああああああああ!!」


「【消え失せる痛みペイン・ゴーウェイ】」


「うぼおおあああああ――あっ! はっ! はっ!」


 気を失う寸前で痛みが跡形もなく消える。


「さあ、ヨウ。話しなさいよ」


 そう言ってニッコリと微笑みかけてくるミウ。


「あ、悪魔だ……」

「うふふ、『解――」

「言う言う言います!」


 こっ、こいつ、笑顔だと!? なんて酷いことするんだ!


「はぁ……言うよ」


 さすがにさっきのをもう一度やられたくはない。


「……なんで言いたくなかったのかっていうと、この技は大体誰にでもできるからだ。だからこそ俺だけのものにしたかった」

「相も変わらずみみっちぃ男じゃのう」


 うるさいわい!


「まあ、あそこまで威力が出たのは条件が全て揃いまくってたからだな」

「条件?」

「ああ、条件は大きく言って三つ。[空気に流れがない][相手が動かない][途中で引火しない]だ」


 その点、あのスライムは全て大丈夫だったどころかそれ以上だった。


「使う魔法は二つ、火花スパークとガスだけだ」


 「……はぁ?」と、みないぶかしげに俺を見てくる。それも仕方ないだろう。この魔法は最下級魔法であるうえ、ガスも火花もほとんど誰でも習得できる職である『主婦』のものだ。


「呆れるのもわかるが、これが真実だ待て待て解除するな最後まで話を聞いてください!」


 ミウが口を『か』の字に広げかけていたので慌てて制止する。


「この魔法のミソは【ガス】だ。普段はもちろん料理に使う技だが、ガスは火花スパークと一緒に使った後、念じ続けるとその間はずっと火が付く。……じゃあ、ガスと念じ続けてから火花を唱えたらどうなるのか?」


 結果として、俺の家のキッチン史上最悪の大惨事……キッチン小爆発事件が起きた。


「……答えは念じた分だけ威力が増す、だ」


 でも、と俺は付け足す。


「これができるのはほとんど室内だけだったんだ。だけど、たまに外でも成功することがあった。その日に共通していたのは風がないってことだった」

「風……?」

「そうだ、そこで俺は仮定した。ガスは火をつける魔法ではなく、火をつける何か・・を出す魔法ではないか、と」


 最も、ここまで突き止めたのはほんの数か月前だ。逆に、このことが分かったからこそ、俺は自信をつけて外に出たいと考えるようになったとも言える。


「この場所は森の中心……風はない。それにあのスライムは本体が動かなかった上に体の粘性が高く、体内に発生させたガスはその場にとどまり続けた――」


 因みに、俺はこのガスで人体実験も行っていた。もちろん最初は自分に、しかし何度自分の体内にガスと念じてもガスが発生する事はなかった。陰から黙って村人にも行ったが、結果は同じ。

 空気中じゃないとダメなのか……と思ったが水中には問題なく発生していた。恐らく、生体中には発生しないというのが俺の見解だった。しかし、生物かどうか怪しいとはいえ、魔物であるスライムの体内には発生した。どうやら発生条件にもっと細かい制約があると思われるが、それはおいおい考えるとする。


「そうか……それであのスライムはだんだん大きくなっていったのか」


 さすがチチシロ、気が付いていたらしい。


「そういう事だな。……俺の使える魔法は低級ばかりだ。でも、低級の魔法は意識してある程度訓練すると発動範囲がかなり広がる」


 コツさえわかればそれこそ誰だってできるようになるだろう。


「それに、アイツを取り巻いていたあの霧、あれがあったからこそあれほどの威力が出たんだ」


 まあ、実際は俺の魔法エアーコンディションで温度を一定にしてやっていたのだが……そこまでは教えてやらない。温度を一定にする、ということは、辺りの空気を混ぜる――ということだ。そうなれば引火は確実。


「とまあ、ネタ晴らしはおしまいだ」


 ま、大雑把に言ったらこんなもんだろう。俺は一人ふー、と満足げに鼻息を吐く。

 それにしてもさっきからチチシロだけはやけに静かだ。他の村人たちは「本当なのかね?」「いやでも実際、ああなったわけだし――」など討論を開始している。


「ヨウ」


 そんなことをと考えながらぼんやりチチシロの膝の上でその顔を観察していると、チチシロは真剣な眼差しで俺を見下ろしてくる。


「な、なんだ?」

「僕の仲間になる気はないか?」

「え……それって!」


 いや、待て待てもしかしたらまだ勘違いかもしれん。

 俺はジッとチチシロを見つめる。


「そう、その可能性が高いと思って」


 そう言って微笑むチチシロは嘘をついているようには見えない……、ていうことは、やはり――


「俺は、〝勇者〟だったんだ!」


 やった、やった……! まさか、まさか本当に俺が――


「ちょっと待てい」


 俺が喜んでいると村長が横槍を入れてくる。


「先の戦いぶりといい、勇者うんぬんといい、貴様いったい何者じゃ?」

「……申し遅れました、僕はチチシロ。ガタヤマから来た、イタンヘ族の者です」


 村長は訝しげに「イタンヘ……?」と呟くが、何か思い当たる節があったのか、しばらく考え込む。


「イタンヘ、その名どこかで……ん? 確か……勇者探しの?」

「はい」

「……なるほど、噂に聞く特殊な職業のみに適性のあるというイタンヘの者なら、あの戦いぶりも納得じゃ」


 じゃが、と村長は一区切りつける。


「ヨウが勇者じゃと……? っは! ちゃんちゃらおかしいわ!」


 へそで茶が沸かせそうじゃわい! と、俺をバカにする村長……怒っていいのか、コレ?


「ですが、そのヨウがあの魔法を繰り出したのですよ」

「うむ、確かにそれはそうじゃが、話を聞く限り誰にもできるというではないか。それだけではなんとも――」

「それに、あなた達を助けに戻ると判断したのはヨウです」

「なっ……あの臆病者のヨウが!?」


 村長が驚愕の面持ちで俺を見る。……泣いていいかな?


「ええ、それに、その時はまだ――いえ、最後まで、彼はあのスライムを倒せるという確信を持っていませんでした」


 にも関わらず、自らを危険にさらしてまで戦いの場まで舞い戻り、最後まであきらめず戦い続けた。と、チチシロは真顔で語る。

 や、やめろよ……本人の前(膝枕中)でそんな恥ずかしいこと言うの。顔隠せないのに、照れちゃうだろ。


「……僕はそこで、ヨウが勇者に目覚めたと、感じました」

「むう……」


 村長もチチシロの声色に本気さを感じたのかタジタジしている。


「う、嘘よ!」


 そんな村長を尻目に異を唱えたのはミウだ。


「ヨウが勇者だなんてそんな、嘘に決まってるわ! ……そうじゃなきゃ、ヨウが村から出て行っちゃうじゃない」


 最後の方はゴニョニョいってて聞こえなかったが、どうやらミウも反対のようだということは伝わった。


「なあ、ミウはどうしてそう思うんだ?」


 俺は、ここ一番! のためにひっそりと練習していたイケボ(チチシロの膝枕中)でミウに語り掛ける。


「なんでって……よ、ヨウだから!」


 ふっ、やはりな。こういう時のミウはただただ感情論で訴えているだけだ。


「それじゃあ、俺を含めチチシロ、村長だって納得できない。俺が勇者かもっていう理由はチチシロがいった通りだ。こちらには根拠があるんだから、ミウの反対意見にだって根拠がないと誰も納得できない、だろ?」

「うぅ……」

「まあ、わかった。とりあえず二人とも落ち着け。続きはいったん村に戻ってからにしよう」


 村長が俺たちの討論を無理やり治める。

 まあ、その意見には賛成だ。今は一刻も早く村に帰りたい。


「……少々、いや、かなりむかつくがそこの旅人も同行することを許そう」

「はあ……ありがとうございます」


 村長はよっぽどチチシロが気に入ったのだろう、快くチチシロを村に招き入れる気だ。


「……はぁ、これは本当は使いたくないんじゃが」


 なにを? と聞く前にそれは起こった。


「【魔力吸収マジックドレイン】」

「ほふぅううううん!」


 体から何か、何か大切なものが抜けていく……

 ビクンビクンと波打つ視界に入る周りの人たちも、どうやら同じ現象に見舞われているようだ。……村長を除いて。


「……ふう、こんなもんか。皆の者よ、すまぬな」

「ぐっ……」


 謎の現象が治まると、村長以外は軒並み地面に突っ伏して呻いている。


「な、んで……」


 ダメだ、声すらも出したくない……。


「うう……嫌じゃ、嫌じゃけど……はぁ、ええい! 【集団転移グループ・テレポーテーション】!」


 村長の心の叫びと同時に、一瞬の浮遊感を得る。そして、気が付くとなんだか見覚えのあるところにいるっぽいが、今はそんなことどーでもいい。とりあえず眠く、とにかく眠かった。つまり、やたら眠かったので、俺は瞼を閉じた。

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