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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第一章・外の世界と初めての魔物
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旅人と究極魔法

「え、しまっ――」


 ヨウからの警告もむなしく、僕は霧の檻に閉じ込められてしまった。


「――た」


 言いそびれた言葉を惰性で言い切り、これからどうするかを考える。


「ここ一番で新パターンを出すのは勘弁だよ……。ていうか、この霧――」


 地面に生える草をちぎり霧の壁に投げつける。


 じゅっ


「げっ」


 予想よりも凶悪な霧だ。一瞬で溶けてしまった。


「よくこんなのと数時間も戦ってたな、あの魔法戦士……」


 魔法戦士はその特性上、戦士と魔法使いの力を両方使える。が、どちらか一方だけならば戦士や魔法使いなど、その道の専門職には劣る力しか行使できないはずだ。

 接近すると、この霧を問答無用で噴出してくる今回のスライムのような敵は本来苦手分野のはずだが……まあ、今はそんなことを分析している場合ではない。

 それに、こんなに落ち着いていられるのもちゃんと理由がある。


「これはとっておきだったんだけどな」

「うばあああああああああああ!」


 遠くからスライムの咆哮が響いてくる。


 魔法、特技を発動したか、いよいよもって時間がない。


「ええい! ただ死ぬよりマシだ!」


 そう自分に言い聞かせる、大丈夫かどうかはおそらくヨウにかかっている。

 頭上には謎の紫色の球体が見える、限界という合図だ。ヨウならきっと……そう決心し、僕は霧に向かって助走をつけつつ思いっきり息を吸い込む。限界まで肺に空気を貯め、一つの魔法を発動させる。


「――っ、【ストップオブザワールド】」


 ジャンプと同時に魔法が発動する。


 世界はその一切の動きを止め、封じられる。


 そこで初めて気が付いたが、頭上わずか数メートルのところに紫色の針状の何かが無数に迫っていた。


 一秒、結構危なかったんだな……と思いつつ眼を閉じ、空中で勢いを保ったまま霧に突入した。


 二秒、衣服が溶解し、僕の肌もわずかに溶け始めたと感じたところで霧のなかで着地。

 時間を止めて威力がやわらいでいるはずなのに、こんなに溶けるのか……それにこの霧の層厚いな!


 三秒、眼を閉じていたのでタイミングが掴めずそのまま前のめりに転倒。


 四秒、すぐに起き上がり前方に向かってひたすら走る。


 五、六、七秒でようやく霧を抜けた感覚。どれだけ厚いんだこの霧は!


 八秒、目を開きヨウを確認。


 九秒、ヨウに向かって走り出す。


 十、十一、十二、十三、十四秒で到着。


 十五秒、僕は勢い余ってヨウを通り過ぎてしまう。しかしもう限界も近い、僕は念じた。


「『解除!』」


 念じると世界は突如にして活動を再開する。十五秒かかった、ということは千五百秒――二十五分か……と気が重くなりつつもヨウの肩を叩こうとした時だった。


「うぼおおおおおおおおおおおおおあ」


 スライムがひと際大きく叫び声をあげた――と、ほぼ同時にパチッという音が聞こえる。


 直後に来た閃光と衝撃が、僕を後ろに思いっきり吹き飛ばした。


「えっ――っ!」


 しまった、思わず声を出してしまった! 貴重な空気が!


 だが、それほどまでに予想外の攻撃だった。先ほどまで自分がいた場所が爆発したのだから、その驚きも当然と言えるだろう。


 急がなきゃ!


 吹き飛ばされたという動揺から正気に戻った僕は、そろそろ限界が近づいてきたことを感じた。焦りつつ、閃光でくらんだ眼を酷使してヨウの背中を発見。それをめがけて全力で駆けた。


 遠い、あまりにも遠く感じる。わずか数メートルだがそれがいばらの道に見えるほどに。

 しかし、どんなに辛いことでもいずれは終わりが来る。


 僕はもう半分以上気合のみで動いている。――そして、ようやく届いた。


「えっ――?」


 振り返るヨウの顔は驚きに満ち満ちていたが、今は本当にそれどころではない。最後の気合を振り絞って要点のみを告げる。


「っ、じんこっ、こきゅ、う、しー……」


 肩を叩いていないほうの手で首を掴み、苦しいということをジェスチャーでも伝える。ちなみに顔はあまりの苦しさに般若はんにゃのようになっているだろう。ここで受け入れてもらえなければ僕は数十秒もしないうちに死んでしまう。


 永遠にも思える時間をひたすら待つ。


「人工呼吸って言ったのか?」


 もう僕にはそれに答えられる空気が残っていない。ただ頭を下に向け、肯定の意を示すことが精一杯だ。


「え……えー、ちょっと待ってくれ――っておい!」


 僕は辛抱たまらず地面に崩れ落ちる。


 ああ、視界がホワイトアウトして何も見えなくなってゆく。ここが限界なんだな、と思ったのを最後に僕は意識を手放してしまった。



◇◆◇



 チチシロは冗談を言っているようには見えなかった。


「チチシロ! おい!」


 つまり、悩んでいる時間などないと直感的に気が付いていた。


「……ごくり」


 目の前には白く透き通った、しかし活き活きとしていて酸欠で倒れたとは思えないほど張りのある健康的な可愛らしい小さい顔。


 苦し気に歪んでいた先ほどまでとは打って変わり、黒目がちで柔和な印象を与える双眸は静かに閉じられている。それがチチシロの可愛らしさをより強調していた。

 しかも、なぜか衣服はボロボロになっており、所々で見えてしまっている肌色は色々な意味でアウトだ。

 黒い服と相まって、チチシロの白い肌は透き通る真珠のような光沢を放っているかのように見える。


 くっ、こいつ……まさか可愛いのか? 男なのに? 俺は衝撃の事実にいまさら気が付いてしまった。


「くっ……これは仕方のないことなんだ!」


 何かに言い訳しながら俺はチチシロの桜色の唇(酸欠なのになぜ?)に自分の唇を重ねた。


「ぷほーーーーー、はっ、ぷほーーーーーー」


 口づけして息を吹き込んでは息を吸い、また口づけして息を吹き込むということを何度か繰り返す。


「んっ……」


 しばらくするとチチシロが目を覚ました。


「ぷはっ! チチシロ! 起きたか!」


 しかし、チチシロは何も言わずに口をパクパクさせて何かを伝えようとしていた。唇の動きを読む。


 く・る・し・い。


「え? まだ苦しいのか!?」


 こくこく、とチチシロは無言で頷く。


 うーん、ということは……継続ってことか? チチシロの意識があるのとないのとでは精神的難易度が違いすぎる。

 それにスライムがいつ攻撃を再開してもおかしくない。


「今はとりあえず退避したほうが――」

「~~~~~!」

「ってちょっ――」


 我慢の限界を迎えたのか、チチシロが俺の唇を奪うべく飛びかかってきた。そして、抵抗といった抵抗をしない俺は、思いっきり唇を吸わ――ってあれ、吸い付かれない?


 チチシロは唇を奪うことはしたが、吸い付いてくることもなく、ただただ接吻しているだけだ。


 もしかして……


「……ぷうーーーーーーー」


 俺は先ほど同様、息を吹き込んでみる。


 チチシロの表情が和らぐ。


 まさか……自力で呼吸ができない? と気が付いた矢先、チチシロが指で地面に文を書き始めた。


〈呼吸できないんだ、さっきの包囲から逃れるために使った魔法の反動でね〉


「ぷうーーーーーー、はあ、あれを回避できるなんて凄い魔法だな! あ、ああすまん」


 ぷうーーーーーー、と即座に息の吹き込みを再開する。躊躇ちゅうちょなんてしてられない。だってこうしなきゃ死んじゃうんだから、それじゃ仕方ないよな。


 別に、なぜかチチシロから甘いいい匂いがする、とか。

 唇が柔らかくてずっと触れていたい、とか。

 顔が接近してるから、不可抗力で頬を撫でてくる黒髪がつやつやで触れ心地が最高だ、とか。

 人工呼吸のため、やむなく触れてしまう身体が男のくせに妙に柔らかくて、俺、なんだか……なんて一切考えてないから。


〈残念ながらだいたい二十分はこの状態なんだ……その間、人工呼吸をお願いしてもいいかい?〉

〈いいぜ〉


 俺も筆談で応戦する。唇を放したくないというわけでは断固ない。ないったらない。


〈本当に助かったよ……助けてくれてありがとう。気持ちの悪いことさせてごめん〉


 顔を見ると申し訳なさそうに目を伏せるチチシロ。まつ毛長いな……


〈気にすんな〉

「おっ、おぬしら、先ほどから――その、いったい、な、なにしとるんじゃ……?」


 気がづけば、村長があり得ないものでも見ているような面持ちでこちらを見ていた。そういえば村長も近くにいたんだった。


 しかし、今は村長に構っている暇はない。俺はそのままチチシロへの人工呼吸を継続した、別にやましい気持ちはこれっぽっちもない。


〈でも、そろそろアイツがまた動き出すはずだ〉

〈一回やめる〉


 俺は大きく空気を吸い込み、それをチチシロ吹き込むといったん人工呼吸を中断する。


「ぷはっ、はーはー、そ、村長! 俺とチチシロに以心伝心かけてください!」

「お前はさっきからなにを――」

「お願いしました!」


 そういって俺は再びチチシロへ人工呼吸を再開する。


「~~~~! ええい! もう魔力もないってのに!」


 [以心伝心]と村長が叫ぶ。プツッ、と頭に微弱な痛みが走る。

 以心伝心は、発動時に一定範囲にいる人の心をつなぐスキルだ。


〈村長助かりました!〉

〈ふん、でなんなのだ?〉

〈こ、これはテレパシー? こんな高位の支援魔法も使えるのか!?〉


 よし、全員無事に繋がったみたいだ。


〈村長、チチシロは魔法の副作用でしばらく自力で呼吸ができない。その間は俺も付きっきりになります〉

〈……それであのおかしな光景が出来上がったわけか。しかし、あの包囲から脱出できる性能とこの代償……いったいどんな魔法を?〉

〈く、詳しい話は後ほど……それより早くしないと土煙と霧が晴れて攻撃を再開して来るかもしれません。今はいったん下がって体制を整えましょう〉


 気まずそうに眼をそらすチチシロを人工呼吸しながら連れ、俺たちは射程圏内から撤退した。



◇◆◇



〈それで? わざわざこんなことをさせるなんて勝算はあるんだろうな?〉


 村長が威圧的に聞いてくる。


〈それは……正直、チチシロ次第ですね〉

〈僕?〉

〈話を聞けば、まだ十分そこらはその状態ではないか、そんなんでなんの役に立つと?〉

〈……何秒アイツを足止めできればさっきの攻撃を当てられますか?〉

〈む……、おそらくアヤツも同じ攻撃を二度もくらうまい。それを考えると【エレメンタルジェネレート・メタル】の発動から発射終わりまで、……ざっと三十秒――いや、四十秒はほしいところじゃ〉

〈だそうだ、チチシロいけるか?〉


 四十秒アイツを止める!? それもう無理だろ! と、心の中だけで絶叫しつつ、落ち着いた声色でチチシロに尋ねる。この技は伝えたい言葉だけを送れるから便利だ。


〈僕が動けるならまだしも、この状態じゃあさすがに無理だな……〉

〈えっ――そ、そうか……〉


 正直、正直に話すと俺はチチシロならなんとかできるんじゃないかと、かなり期待していた。

 まあ、よく考えたらこの状態じゃ無理だってわかる。けど、今日のチチシロの活躍はそれほどまでに凄かったから。

 だから、正直に無理と言われてしまったら、こちらも正直に言うしかあるまい。


〈あ……ごめん、じゃあ万策つきました〉


 至近距離から、チチシロの白い目線が突き刺さる。


〈話は聞かせてもらったわ〉


 えっ……この声、まさか――


 俺は声のする方に目線を向けた。

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