プロローグ
初めまして!!
料理と冒険が半々ぐらいになればいいなあと考えています。
わかりやすさ重視で頑張っていきますわ!
先刻、勇者がついにこの私の魔王城に侵入してきたという報告が入った。
ここ最近の勇者たちの活躍――否、我々から見れば勇者たちによる被害は拡大する一方であり、先日、魔王城を守っていた最後の砦が落とされてしまったばかりであった。
正直、今の勇者たちと戦っても私の勝ち目はかなり薄いと思われる。そのため私はここ最近忙しくてかまってやれていなかった我が子を呼び、久しぶりに父親として相手をしているのだった。
「どうだ、最近は? 不自由はないか?」
「ええ、大丈夫よ」
いつも通りの笑顔、我らが邪神様のように可愛らしい。が、不意にその笑顔が曇る。
「お父様……なんで人間は魔族や怪物より弱いのにこんなところまでこれたの?」
思いつめたような表情で私にそう尋ねてくる。その顔に先ほどまでの笑顔はない。
この子も薄々気が付いているのかもしれない、このタイミングで自分が呼び出された理由が。
「……原因はいくつかある。その中でも最も大きな原因の一つは奴らがほとんど不死身であるからだ」
「不死身?」
「そう、例え私が彼奴らを一瞬で消し炭にしようとも、氷漬けにしようとも奴らは教会で蘇生される。そうでなくてもどこかで復活する……そして再び挑んでくるのだ。それこそこちらが負けるまでな」
「そんなの……そんなのズルい!」
今まで堪えていた感情が溢れ出すかのようにイオランテは叫ぶ。私はそれをなだめるように話を続ける。
「確かにそうだな。こちらが死を支配する代わりに相手は――神は生を支配できるのだ」
「そんなのって……」
「そう、いたちごっこだよ。こちらが殺しても奴らは生き返る。だが、奴らは死んでも失うものはほとんどなく、こちらは一回死んだら次はない、これでどうやって勝つ? ――つまりそういう事だ」
そう、せめて相手も一回殺したらそれっきり、という条件でならばこちらにも勝機はある。だが実際はそんなことは起こりえない。そのうえ彼らは戦うたびに成長し、より強くなって向かってくる。つまり、いずれ必ず勝てない時が来る。
「ま、魔王様! 勇者が! 勇者が遂に3階層を突破し4階層に侵入しました!」
そんな時、慌ただしく魔王軍の兵士が部屋に入って来る。
「……3階層のザラシュトロはどうした?」
「……せ、接戦の末――」
「良い、気を使うな。事の真実のみを言え」
「――ハッ! ザラシュトロ様は得意の肉体強化魔法を用いて戦闘を開始しましたが、敵賢者がそれを無効化、その後は――」
「わかった、もう良い。……お前は確かザラシュトロの配下であったな、辛いことを言わせた。すまない」
「魔王様は何も! 私が憎いのはあいつらだけでございます!!」
「お父様……」
まだまだ幼い我が子が服の裾を摘みながら心配そうに顔を覗き込んでくる。
「イオランテよ、お前もそろそろここを離れなさい」
「ヤダ! お父様と一緒にいる!!」
ガッと力強く顔を押し付け絶対に離れまいと駄々をこねる。そんな姿を見てこんな時であるのに思わず頬が緩む。
いつの間にかこんなに力がついていたんだな……
「そうか……わかった」
しぶしぶ降参と言うようにため息をつきながら承認する。
「しかし、勝つのは私だとしても危ないのには変わりないからな、椅子の後ろに隠れてなさい。ほら、顔を上げて」
頭を撫でながら優しく言うとバッと顔を上げる。
「本当に!? 勝てるの!?」
この子のこんな笑顔を見たのはいつぶりだろうか……そんなことを思ったのがいい方向に動いたのだろう。
怪しまれずに、自然な笑顔のまま人差し指をまだ小さなおでこに移動できた。
「――最後に嘘ついてすまないな」
「え? お父さ――」
「【眠りへ誘う紫光】」
指から紫色の小さな光が発せられるとともに我が子は夢の世界へと落ちていった。
「……この子を安全な場所へ避難させてくれ」
「……かしこまりました、しかし魔王様はこれで本当によろしかったのですか?」
「はっ、一介の兵士がこの魔王に意見するか?」
「そっ、そのようなつもりでは――」
「ハッハッハ! 冗談だ。そう思うのであればその子を頼む」
「……承知、致しました」
そして兵士は我が子と共に部屋を後にする。
「頼んだぞ」
誰に言うでもなく、一人そう呟く。
さて、そろそろ勇者様御一行のご到着の時間だ。
……………せめて、
「せめて、あいつらが逃げる時間だけでも稼がなくてはな……」
ふー、と深く息を吐くと部屋に吐息の音がゴオォォー……と木霊する。
お、なんだこれ、魔王っぽいではないか! そんなどうでも良いことをこんな土壇場で発見できた。まだ、精神的にも大丈夫じゃないか。
ギィ……と重い扉が開く音がする。
さて、ついに時間がきたようだ。
「……よく来たな勇者よ。我は魔王にして世界の頂点――その我に戦いを挑もうなどというその勇気、褒めてやろう。……だが所詮は有象無象、その愚かさを心身に刻み付けてやろう……さあ、楽しませてくれよ――」
こうして弟六代魔王と勇者との戦いは幕を開けた。