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勇者がゴブリン  作者: ムク文鳥
第6章
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黒い怪物




 どういうことだ?

 グフールたちハーピーは、グリフォンに襲われたんじゃないのか?

「我が氏族の者が、ハーピーを襲ったと思しきモノをみつけたなり。だが、その者は、それは決してグリフォンではないと言うなり」

 覆面の奥で、ナリ族長の目がきらりと鋭く輝く。どうやら、嘘を言っている様子はなさそうだ。

 そもそも、ここで嘘をついても意味ないしな。

「ナリ族長。おまえはそのグリフォンではないというモノを、直接見たか?」

「是なり。配下の報告を聞いて、我も自分の目で確かめたなり。あれは間違いなく、グリフォンではないなり」

 グリフォンではないのなら、一体何なんだ?

「ジョーカー、ナリ族長の言っている怪物に心当たりはあるか?」

「うーん、グリフォンに似ているけど、グリフォンじゃない……ね。正直、心当たりはない…………いや?」

 ふと、何かを思いついた様子のジョーカー。

 いつも思うが、こいつの知識量ってエルダー・マンティコアのバルカン以上じゃないだろうか?

「……まさか、この近くに(クリフ)の『玩具箱』が……? 僕に気づかれないように、いつの間にかこっそりと……?」

 また、何かぶつぶつと訳分からんことを言っているな。

「…………とにかく、そのグリフォンもどきを実際に見て見ないと、それが何か判別つかないね」

 まあ、ジョーカーの言う通りだ。

 ここはひとつ、自分の目で確かめてみるとしよう。




 全身を漆黒の羽毛で覆われた巨大な怪物。

 それがハーピーたちを襲ったグリフォン……いや、ジョーカーが言うところのグリフォンもどきだった。

 普通、グリフォンの前半分は猛禽……鷲や鷹のような姿をしているものだ。だが、この黒い怪物は、その頭部は様々な姿をしている。

 鶏のような頭の奴もいれば、ハゲタカのような頭の奴もいる。かと思えば、あれはオウムだろうか? まったく、統一感と言うものがない。あえて言うならば、一応は鳥類の頭をしていることが共通点だろう。

 そして、下半身も実に様々だった。

 従来通りに獅子の姿をした奴、馬の姿をした奴、牛の姿をした奴……中には、俺が見たこともない獣の姿をした個体もいる。

 こちらの共通点は、どの個体も体毛が漆黒であることか。まあ、それを言えば、前半分の鳥類の部分も、全部真っ黒だけど。

 そして、背中には巨大な黒い翼。だが、背中から生えているのは翼だけではなかった。

 黒い怪物の背中からは、人間の上半身もまた、生えていたのだ。

 よく見れば、それは人間だけではなくエルフやドワーフ、更にはゴブリンやオーガーといった妖魔のものもある。

 いや、あれは……何だ? よく見れば、エルフやドワーフ、ゴブリンやオーガーにすごく似てはいるが、あれはエルフやゴブリンではない。言ってみれば、エルフやゴブリンの「できそこない」のような外見をしている。

 そんな中、人間らしき上半身だけは、はっきりと人間と分かるのだが……どういうことだろうか?

 そして、背中から人型の上半身が生えたその姿は、誰かがグリフォンに騎乗しているように見えなくはない。

 これを見たハーピーたちは、この黒い怪物たちが騎乗している者に操られていると勘違いしたのだろう。

 だが、実際は騎乗しているのではなく、人型の生物は腰の辺りで黒い怪物と融合しているようだ。人型と黒い怪物、纏めて一つの生き物ってわけか。

 実際には、前半分の鳥と後ろ半分の獣、そして背中の人型と、三つの生物が融合していることになる。

 巨大な樹上に存在するいくつかの建物。それはすでに町と呼べるほどの規模であり、あれこそがグフールたちハーピーの集落だったのだろう。

 その集落の周囲を十体以上の黒いグリフォンもどきが我が物顔で飛び回っている。

 その光景を、俺たちはジョーカーの魔術で気配を消しつつ、地上から見上げていた。

「ジョーカー、あれが何だか知っているのか?」

「あれが何かと言われれば、その正体に関して僕は知らないと答えるね。だけど、あの黒い怪物たちが、どうやって生まれたのかは想像がつくよ」

「正体に関しては知らないが、生まれ方には想像がつく……? どういうことだ?」

「言葉通りだよ、ジョルっち」

 ひょいと肩を竦め、俺から視線を逸らせるジョーカー。

 奴の眼球なき眼窩は、そのままじっと空を舞う黒い怪物たちに向けられる。

「……あれはね、ジョルっち。一人の才能ある男が、狂気に駆られて暴走した結果、とあるおぞましい実験の過程で()()()()()…………失敗作なんだよ」

 ジョーカーが俺の方を見ずに何か呟いたが、それは俺の知らない言語だった。




 偵察を終えた俺たちは、一旦ハーピーたちが避難している洞窟へと戻った。

 そして、そこで待っていた仲間たちに、俺たちが見た黒い怪物のことを伝える。

「じゃあ、ハーピーたちを襲ったのは、その黒い怪物ってことなの、リピくん?」

「むぅ……我も長く生きてはおるが、そのようなおぞましい姿をした黒い怪物のことは聞いたこともないわ」

 俺の話を聞き、ゲルーグルが首を傾げ、バルカンがぶつぶつと呟く。

 サイラァとギーンも黒い怪物のことは知らない様子だ。

 あと、ユクポゥとパルゥはいつものように何も考えていない。いや、これから何を食べようかとか、そんなことを考えていると思う。

「ねえ、グフールくん。君たちはこの近くに遺跡か何かがあるって聞いたことないかな?」

 そんな中、ジョーカーがハーピーたちに尋ねた。

「遺跡……ですか? 確かに、我らの集落から少し離れた所に、小さな石造りの建物がありましたが……?」

「ふむ、なるほどね……ねえ、ジョルっち」

 ん? 何だ、ジョーカー?

「メセラ氏族のダークエルフたちに、その建物を調べさせてくれないかな? 彼らなら、隠されている物も上手く見つけ出せるだろうからね」

 それはいいが、その遺跡をどうするつもりだ?

「おそらくその遺跡には地下があり、そこには訳がわからない施設があると思う。そして……そこを完全に破壊して欲しいんだ。それも、()()()になる前に」

 遺跡を破壊だと? それに、「手遅れ」ってどういう意味だ?

 思わず俺は眉を寄せる……って、今の俺はゴブリンだから眉はないけど。

 だが、俺をじっと見つめるジョーカーは実に真剣な表情だ。もちろん、骸骨である奴に表情なんてないけど、長い付き合いである俺には、今のジョーカーが真剣であることがよく分かる。

「分かった。遺跡を破壊すればいいんだな?」

「うん、理由は……今は言えないけど、いつか言える時が来ると思う」

「いいさ。おまえがそう言い切る以上、何か訳があるんだろ? だったら、俺はおまえを信じるさ」

「ありがとう、ジョルっち」

 まあ、こいつの秘密主義は今に始まったことじゃないし、とやかく言う必要もないだろう。

 ジョーカーがそう断言する以上、それは絶対に必要なことに違いないからな。

「ナリ族長」

「委細承知なり」

 それだけ言い残し、ナリ族長と配下のメセラ氏族のダークエルフたちは、足音も立てずに洞窟から出ていった。

 あちらは彼らに任せればいいだろう。

 さて。

 では、こちらは改めてあの黒い怪物たちを倒す手段を考えようじゃないか。




 あの黒い怪物たちを相手にする場合、最もやっかいなのは当然連中が空を飛んでいることだろう。

 対して、こちらの手札の内、空を飛べるのはバルカンだけだ。

 バルカン以外にもグフール率いるハーピーたちがいるが、彼らの実力ではあの黒い怪物には歯が立つまい。

 だが、グフールたちから聞いたところによると、あの黒い怪物どもは飛び道具を持っていないらしい。

 ってことは、連中も俺たちを攻撃するためには、地表近くまで降りて来ざるをえないってわけだ。

 そこを狙って、迎撃するのが常道だろうな。

 魔術を用いて地上から攻撃することも考えたが、連中は十体以上もいるので、ちょっとこちらが不利になりすぎる。

 なんせ、遠隔攻撃魔法を使えるのが、俺とギーン、そしてバルカンだけだからな。

 黒い怪物どもの体にうまく俺の血を付着させることができれば、爆術で倒すこともできるだろうが、その血を付着させるのが難しい。

「その辺りの条件を踏まえつつ、戦術を考えようか」

 と、ジョーカーが何やら考え始めた。

 よし、作戦は全面的にジョーカーに任せよう。うん。




 かつて、大勢のハーピーたちが暮らしていたであろう樹上の町。そこに我が物顔で居座る黒い怪物ども。

 連中は鳥の形をした頭で、何かを美味そうに(ついば)んでいる。

 仲間を──そして「王」であるグフールを逃がすため、身体を張って盾となり、黒い怪物どもと戦ったハーピーの亡骸を、連中は食っているのだ。

 背中から生えている(ヒト)(ガタ)は、物を食べることができないか。人間やエルフ、ゴブリンやオーガーに酷似したその頭部は、「食事」に興味を示すこともなくゆっくりと周囲を見回している。

 もしかすると、あちらの頭は感覚を司っているのかもな。

 さて。

 連中を観察するのもここまで。そろそろ、こちらの反撃と行こうじゃないか。


──揺蕩う波の音、吹き抜けるそよ風。

  さあ、心をゆったりと落ち着かせて。

  ここでは急ぐことも、争うこともないよ。

  ゆっくりと。

  のんびりと。

  心と体に休息を与えてあげましょう。

  さあ、ゆっくりと瞼を閉じて。

  次に目覚めるまで、ゆっくりと……。


 仲間から少し離れた所を飛んでいた黒い怪物の一体が、突然微睡み始める。

 今、あの黒い怪物は空を飛んでいる。そんな状態で眠りに落ちればどうなるか。そんなこと、考えるまでもないよな。

 翼の羽ばたきがゆっくりとなり、遂には動かなくなり──そして、地に堕ちた。

 もちろん、これはゲルーグルの〈歌〉の効果である。彼女の眠りへと誘う〈歌〉を、バルカンの風術で黒い怪物の一体のみに届けたのだ。

 その結果、空中で眠りに落ちた黒い怪物は、そのまま地上へと落下する。

 当然、落下の衝撃で目覚めるものの、黒い怪物が再び空へ戻ることはない。

 落下した先には素早くユクポゥとパルゥが飛びかかり、手にした得物で黒い怪物の息の根を止めたのだ。

 どうやらあの黒い怪物たちは、それほど仲間同士の連帯意識が高くはないようだ。今も、仲間の一体が地に堕ちたというのに、気にすることもなく食事を続けている。

 それでも、戦闘となるとまた別物らしい。ハーピーたちの話によると、黒い怪物どもは見事な連携で攻撃をしかけてきたそうだからな。

 だが、戦闘中ではない今は、それほど仲間に関心がないようだ。それとも、食事に夢中なだけかもしれない。

 どちらにしろ、そこが俺たちの狙い目だ。

「うん、こうやって一体ずつ仕留めていけばいいと思うよ。何せ、向こうの数はそれ程多くはないからね」

 そう。

 ジョーカーが考え出した作戦。それは、一体一体を地面に引き摺り下ろして止めを刺す、各個撃破だった。







 年内の更新は、これで終了となります……って、今日は31日だから当然ですね(笑)。

 新年は1月14日からの再開予定です。


 今年はお付き合いいただき、ありがとうございました。

 来年もまた、よろしくお願いします。

 では、よいお年をお迎えください。

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