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イモータルダンサーズ  作者: 神谷 秀一
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奪われるモノ

「!?」

 目の前に閃光が走る。同時に目の前のアスファルトが砕け散り、十夜は背を向けてカレンと美咲の身体を抱きこんだ。

「ちょっ!」

「ぐがっ!」

 砕けたアスファルトが背に食い込みロングコートを破るが意識は飛ばさない。むしろ、目の前の危機がなくなった瞬間、二人を突き放し懐から拳銃を抜き放つ。

「っ!」

 デザートイーグル。日本人の手には不釣合いな巨大な鉄塊。その弾丸はかすっただけでもその衝撃が末端から心臓麻痺までも起こすといわれる世界最強の威力を誇る拳銃だ。

 その引き金に指をかけたところで、世界最強は粉微塵と化した。

「なっ!」

 同時に余った左腕を胸に戻したところで衝撃が来た。

「!!!!!」

 直線を保っていたはずの左腕が二の腕からくの字に折れ曲がる。それどころか衝撃は腕を貫通しアバラを数本持っていく始末だ。

 それでも地面を踏みしめて衝撃を逃し、何とか踏みとどまる。

「はっ! やってくれんぜ」

 見れば右腕は手袋ごとズタズタになっていたが、今はそんなことはどうでもよかった。むしろ、目の前で晴れて行く噴煙の先にいる存在にこそ興味があった。

「遅い参上だなお兄様ぁ!」

「貴様に兄と呼ばれる筋合いはない」

 自身が黒ならそれは白だ。

 粉塵の吹き行く向こうに立っているのは白い姿。髪も白ければ衣装も白い。

 なおかつ、ビリビリと吹き付ける存在感。唇は笑みを浮かべながらも身体が震えてしまう。つまり、目の前にいるのはそういう存在だ。弾丸を叩き込んでも死なない人の形をした異形。そしてイモータルを惨殺しえる異能。

 そんなと相対して生き残れるのか?

 答えはノーだ。

 しかし、それでも、姿を晒した白衣の少年に黒衣の少年は野生的な笑みを向けた。

「本当にあのクソ馬鹿の言う通りになったなぁ」

「何のことだ?」

 白い容貌に白い民族的な衣装。自身曰くクレノという少年が訝しがるが十夜は薄く笑うだけ。

「なあに頭のおかしい奴が一人いてな。今日みたいなことを薄々予感していたってだけだ」

「予想していても回避できないなら無能と同じだ」

 先日と同じように向かい合いながら十夜は思う。

『勝てる気しねぇよ』

 背後にいるのは機械甲冑使いと正体不明の少女。そして己は最弱と呼ばれる存在だ。それがイモータルの群れを消し飛ばした存在と戦い勝てるかと問われれば答えは否。

 美咲の力は十全ではないしカレンには期待ができない。なおかつ自身は最弱だ。備前の予想通りなら打つ手はない。

「テメェはこのガキの回収に来たんだろ?」

「そうだな。いささかの茶番ではあったが、目的の情報は回収できた。なら、兄が迎えに来るのは当然だろう?」

「その目的の情報ってのは?」

「貴様に教える理由はない」

 言いながらゆっくりと歩み寄ってくる白衣にカレンの身体が小さく震え始める。

「・・・兄さん、何するつもり?」

「なに、ただこの不愉快な男を殺してお前を取り返すだけだよ」

「っ!」

 刹那、その時動いたのは美咲だ。十夜の横を駆け抜けると同時に振るわれるのはバスタードソード。踏み込みといい速度といい威力も含めて完壁な一撃。その切っ先が白の頭部に触れ、

「えっ・・・」

 それだけだった。美咲の振るった大剣は勢いのままクレノの頭部に襲い掛かり、そのまま静止してしまった。

 そして、だからこそ予想外の現象に動きを止めてしまう。その致命的な隙に、

「やはり果敢だな梓。そういう女性は嫌いじゃない」

 振り払われたクレノの腕がバスタードソードを根元から粉砕し、返す腕の一撃がそのまま美咲を叩き落した。そのまま意識をなくしたのだろう、美咲は剣の柄だけを握ったまま動かない。

「クソ女!」「美咲」

 叫ぶと同時に奇襲をかける。胴回し回転蹴りを囮にコートの後ろに隠していたショットガンを血塗れの右手で掴み取る。そして、蹴りを回避するために一歩下がったクレノに突きつけられるのは柄を切って短くしたショットガン銃口。

「………ほぅ」

 銃声。

 目の前で硝煙の煙が立ち上るが、目の前の白衣は微動だにしていなかった。

「くそがっ!」

 今度は十夜が距離をとろうとしたところに、白き繊手が十夜の首を掴み取る。後はほんの少し力を込めただけで十夜の命は終わるだろう。実際クレノが力を込めようとした瞬間、

「兄さんやめて!」

 一瞬、それが誰の声なのかわからなかった。しかし、それでもその声の方を見やればプルプルと拳を震わせながらも挑むように見上げる妹の視線が合った。

「十夜を殺さないで」

「ほう、こんな人間程度に情が沸いたのか?」

 その言葉にカレンは確かに頷く。

「は、はは・・・まるでテメェが人間じゃねぇみたいな言い草だな」

「当たり前だ。我等は貴様等と違う。貴様等が獲物なら我々は捕食者だ。一方的に奪うだけの存在が人間のような儚い存在であるわけがないだろう?」

「我々?」

「本来なら共存できるはずがない。だからこそ、カレンがあの学園と言う施設に入っていくのを見て思わず笑ってしまったよ」

「兄さん、やめて」

 だが、クレノの言葉は終わらない。

「いいか? 貴様らはイモータルを殺すために訓練を受けているのだろう?」

 だからどうした?

 だが、なんとなく想像はついていたのかもしれない。あの戦闘の時に起こった奇妙な現象。

 自身の持つものの意味を理解していれば、それはありえない話ではないと理解できたはずなのに、あえて目を逸らしていた結果がこれだ。

「皮肉が利いているよ。なぜなら」

「兄さんやめて!」

 再度カレンが叫ぶが、クレノはむしろ叫ぶようにして言葉を黒衣に叩きつける。

「イモータルにイモータルの殺し方をおしえていたんだからな!」

「っ!」

 同時にクレノの右腕が十夜の身体を大きく振りかぶり、勢いのまま投げ飛ばした。コンクリートの壁やアスファルトの上をなんどもバウンドしながら動きを止めたが、その距離実に三十メートル。まともな人間の腕力ではない。

「妹の願いだ、命だけは助けてやろう」

「十夜っ」

 駆け出そうとするカレンの腕を掴んで押さえつけると、そのまま語りかけるように言葉を囁く。

「これ以上は必要ない。カレン、お前は感情を学んだ、そして発現させた。だけど、もう一度言おう。お前にこれ以上の感情なんていらないんだよ。イモータルと人間が共存できるわけがないだろう? それに、これ以上わがままを言うなら、彼がどうなるかわかるかな?」

 カレンの身体がびくりと揺れ、同時に悟る。この兄は自身が頷かなければ本当に十夜を殺すのだろう。美咲がどうなるかもわからない。ひょっとしたらカレンを躾けるためだけに全ての関係者を皆殺しにする可能性だってあった。

「どうなんだいカレン?」

 たった数日の付き合いだ。それこそ兄のいう感情というものも育ちきる前の日数だ。

 でも、たった数日程度の世界をなくしたくはなかった。

 だからこそ、カレンは兄の前に歩み寄る。

「わかった。兄さんの言う通りにする」

「良い娘だ」

 だが、その時クレノは予想外の行動をとった。自身を抱えるのはまだわかる。だけど、なぜ美咲までを(・・・・・)肩に抱えるのか?

「兄さんどういうつもり?」

「梓は気に入った」

「で、でも、兄さんの言うたかが人間なんでしょ?」

 嫌な予感しかしない。むしろそれが外れることのない確信まである。だが、それでもその可能性を否定したくて、

「梓もイモータル化させる」


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