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元彼の知り合いご一行様

 ピーンポーンッ。


 久しぶりに泊まりに来た杜和子の家のチャイムが鳴る。

 (こんな時間に誰だろう?)

 ふと目をやった壁の時計の針は、午後10時を指している。普通に考えて、見ず知らずの人が訪ねてくる時間ではない。

 「あ、桜ごめん、中に入るように言ってくれる?」

 おかしいなぁと思っていると、キッチンから、皿洗いをしていた杜和子がそう声をかけてきた。

 「……知り合い?」

 「うん。たぶん楽くん」

 サラリと返された言葉に、思わず苦笑する。

 聞き間違いじゃなければ、それは、元彼のお兄さんの名前ではないですか? 我が親友よ。

 (いいお姉さん、演じちゃってるもんなぁ)


 私は、どちらかというと反対派だった。

 2人がどう知り合って、どういったいきさつで付き合い始めたのか詳しくは知らない。

 だけど、初めから私は相手に好意と逆のものを感じていた。

 電話をかけるのも、デートの約束をするのも、私が見る限り、すべて杜和子からだったように思う。

 一度、心配してそう問いただすと、杜和子は苦笑しながら言ったのだ。

 『あのね、あたしが嫌なの。会いたいって言われて、ごめんって言うのが』

 ……ならば、自分が会いたいと言ったときに、相手から謝られるのは平気なのだろうか。

 (杜和子の強がりが見抜けない奴になんか、任せられるはずないじゃない)


 ガチャッ。

 「はーい、どちらさまですかー?」

 お人好しの杜和子に呆れながら、こんなときにやってくる無神経な元彼のお兄さんにもちょっとだけムカついて、ドアを開けた。


 ドンッ!

 …………勢いがついたのか、ドアは外で待っていた誰かの顔を直撃したらしい。


 「いい音がしたな」

 「……だから、近づきすぎだって言ったのに」

 「だって、杜和子さんこの時間ちゃんとチェーンつけて、確認してから開けるから、こんな勢いよく開くなんて思ってなくて……」


 複数の人の声がした。痛さのあまりかしゃがみ込む男の子の言葉に、ああ、と思う。

 (そうよね、いくらなんでも、一人暮らしの杜和子が知り合いかどうかも確かめないでドアを開けたりしないわよね)

 そういうことには、抜かりのない子だ。

 頭のどこかでそんなことを思いながら、ドアの外に居た男の子たちを見渡す。

 背の高い、この中では一番しっかりしてそうな子が、軽く頭を下げたのにこちらも軽く会釈をする。

 「ごめんなさい、なんか勢いよくドア開いちゃったみたいで」

 一応、お姉さんっぽい声を意識して、しゃがみ込んだ子に目線を合わせてみる。

 すると、その子は私の顔を見て、あれ? という顔をした。

 「? ここって、木原さんの家じゃ……」

 不思議そうな顔をして首を傾げた子に、頷く。

 「私、杜和子の友達。どうぞ、元彼の知り合いご一行様?」

 そう言って、私は、ドアの外に居た3人を中に招き入れた。


 「えっと、これとこれでいいかな?」

 リビングでお茶を飲んでいる3人に、杜和子がCDの束を抱えてやってくる。

 どうやら、私が思いっきりドアで頭をぶつけてしまった子が楽くんで、他の2人は、部活の先輩らしい。

 (双子ってことは、あの顔と同じ奴が杜和子を傷つけたのね)

 別人だということは重々わかってはいるのだけれど、その頭にドアをぶつけてやったと思うと、ちょっとスッとする。

 「あ、それそれ! もう、音ってば勝手に俺のCD持ってくんだもんなー」

 テーブルの上に置かれたCDは、どうやら杜和子の元彼の音くんが持ってきた、楽くんのものらしい。

 「昨日、片付けてたら出てきたの。丁度良かった」

 CDを手に喜ぶ楽くんに、杜和子もニッコリと笑う。

 (片付けをしてたら丁度、か)

 彼女の口から出た言葉に、苦笑する。

 杜和子は普段、片付けというものをあまりしない。

 というより、いつでも決まった場所に片付けるから、片付けようという気持ちをもって片付けることがないのだ。

 そんな杜和子が「片付け」という言葉を使ったということは、何か「片付けたいもの」が明確にあったのだということになる。

 たぶん、今までは傍にあることが当たり前で、これからは傍にあると辛いものを。


 「? 杜和子さんー? このカセットは??」

 リビングのテーブルに置かれたCDをひとつひとつ確認していた楽くんがそんな声を上げたのは、しばらく経ってからだった。

 「え? ああ、それ音がここで作った曲を入れてたの」

 「? 音が作った曲?」

 「そうそう。あたしが家で仕事してたときに、暇だからって。良かったら、それも持っていく?」

 (……早く、用事が終わったんなら帰りなさいってば)

 なんとか杜和子の株を下げないように笑顔を貼り付けながらも、いいお姉さんの杜和子が見てられなくなってイライラしてくる。

 (杜和子と違って、こっちは気が短いのよ)

 すると、私の気持ちとは裏腹に無邪気な顔をした楽くんとやらはとんでもないことを言い出した。


 「……ねぇ、ちょっとこのカセット聴いてみてもいい??」


 案の定、快く了承した親友に、私は心の中で盛大なため息をついた。

読み返してふと思う。

今の時代、カセットって……(年齢がばれる・苦笑)

せめてICレコーダーだろう、と思いつつ、まぁ書いたの10年くらい前だし、とそのままの設定でスルーします。

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