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退魔師兄妹の日常  作者:
第二章 転がり込んできた『猫』との生活
9/23

第9話 冗談です(冗談ではない)


 それから翌週の月曜日。俺達は三人で学校に向かっていた。


 制服を身につけたしろの耳は人間のそれで、尻尾も勿論生えていない。これならばれることはないだろう。


 それから学校に到着し、一人でも大丈夫だというので、しろは一人で職員室に向かう。


 そしてしろはうちのクラスに転校してきた。恐らく藍香ねぇの配慮だろう。


 しろは──七風しろは俺達の遠い親戚で、訳あって俺達の家に居候している──ということになってるらしい。


「そんなことになってたんだね」


 ホームルームが終わって直ぐに隣の鈴にそんなことを言われる。

 ちなみにしろはクラスメイト達に囲まれて、どこか恥ずかしそうに受け答えしていた。


「おう、みたいだ」


 遠い親戚設定は俺もさっき知った初めて知ったし。


「君は日本人離れした容姿の女の子が好きなんだね」

「何の話だ」

「なにって、しろちゃんの話だけど」

「そうだな、しろは日本人離れした容姿をしてるな。それで? なんだって?」

「だから、イズモはそういう子が好きなんだねって」

「なんでだよ! しろの容姿からなんで俺の好みが確定しちゃうの!?」

「え? 違うの?」


 どうやら冗談とかではなくマジで思っていたらしく、鈴は本当に驚いた様子で目を見開いている。なんでマジでそう思った。


「ちげーよ! 俺の好みは黒髪ロングで白いワンピースと麦わら帽子が似合いそうな清楚な女の子だよ!」

「でも巨乳好きだよね?」

「ああ確かに好きだけどその『でも』はどっから出てきた!」

「そうですか。黒髪ロングで巨乳で白いワンピースと麦わら帽子が似合いそうな清楚な子が好みなんですか」

「ああだからそう言って──うおおう!? ゆ、夢奈!?」


 いつの間に。全然気付かなかった。


「……髪、染めようかな」


 夢奈は指に髪を絡ませながら、ぽつりとそう呟いた。


「なんでだよ。折角綺麗なのに勿体ないぞ? 染めると痛むっていうし」

「お兄ちゃん、なんでゆめが突然『髪染めよう』なんて言い出したのかわからないんですか?」

「そんなの俺にわかるわけ…………ああもしかして、俺が黒髪好きだって言ったから?」

「はい、そうです」


 夢奈が不機嫌そうに言い放つ。

 鈴はやれやれ、といった感じで頬杖をつきながら苦笑を浮かべていた。


「あのさ、夢奈。別に俺が黒髪好きだからって染める必要はないだろう。俺は夢奈の髪、好きだぞ?」

「そ、そうですか? あ、いえ、でも、お兄ちゃんは金髪ロングよりも黒髪ロングの方が好きなんですよね?」

「そりゃあ、まあ。つーかさ、なんで夢奈は俺の好みに合わせようとしてるんだ?」


 鈴は露骨に「うわー」とでも言いたげな顔をした。というか小さくうわーって言いやがった。なにがうわーなんだ。一方の夢奈は呆れた様子で小さくため息をついた。


「お兄ちゃんが好きだから、って以外に理由があると思いますか?」

「ああ、言われてみりゃそうだな。まぁでもさ、黒髪に染めたところで夢奈は全然清楚じゃないからどっちみち俺の好みとは……あ、あの、夢奈さん? 一体なにをしていらっしゃるんでしょうか……?」


 目から光を消した夢奈は突然《札》を取り出し、それを使って右足と左手を強化したようだ。俺は思わず立ち上がって夢奈から一歩距離を取る。

 夢奈は俯きながら「ふふふ」と身の毛もよだつ笑い声を上げた。


「イズモなんか……イズモなんか……」

「夢奈……さん……?」


 夢奈は俺の胸ぐらを掴み、そして──


「大好きですっっっっ!」


 と、言いながら俺の太ももに見事なミドルキックを噛まして下さった。


 胸ぐらを掴んだのは俺の体が吹き飛ばないようにするためだろう。そんな心遣いはいらないので蹴らないで欲しいです。痛いです。


 夢奈が手を放してくれたので、俺は太ももを押さえながらその場で屈む。

 夢奈を見上げると腰に手を当てながら涙目で俺を睨み付けていた。


「いてて……。つーかそこは普通『大嫌いです』じゃないのか?」

「ゆめが嘘でもお兄ちゃんに『嫌い』なんて言えるわけないじゃないですか」

「あー、うん。確かにな。言われたら俺もしばらく立ち直れない気がする」

「夢奈ちゃんも大変だねー」

「本当ですよ。もっと女心を……いえ、ゆめ心を理解して欲しいです」


 ゆめ心ってなんじゃそりゃ。まぁ『夢奈の気持ち』ってことだろうけど。


「……俺以上に夢奈のことを理解している人間はいないって自信あったんだけどなー」

「自惚れですね」「自惚れだね」

「えー……」


 夢奈はともかく、鈴にまでそんなこと言われるとは……。俺はもっと妹のことを理解しようとしないと行けないのかもしれない。今、夢奈のことではっきりとわかることは夢奈がGカップということだけだ。


「お兄ちゃん、今えっちなこと考えましたね?」

「いやいや、なんでだよ! 考えてねーよ!」

「ふーん? 怪しいです……」


 じぃっと見つめられて俺はそっと視線を逸らす。変なところで鋭いやつだな……。


「まぁイズモは素直になれないだけだろうからね。夢奈ちゃんとあんなことやこんなことをするエロエロな妄想をオカズにしてるって前に言ってたし」

「なに捏造してんだ! そんなことしてないし言ったこともねぇよ!」

「確かにそうでしたね」

「なにナチュラルに事実として受け止めてるんだよっ! だから違うっての!」

「ゆめもお兄ちゃんとのえろえろな妄想をオカズにしてますし」

「「え」」


 俺と鈴の声が綺麗に揃う。それに夢奈が気まずそうな表情を浮かべ視線を逸らす。


「冗談ですよ」

「「ですよねー」」


 再び鈴と声が揃って夢奈は不機嫌顔になる。そして俺と目が合った瞬間に慌てた様子ですぐに逸らす。と思ったらちらりと俺の顔を見る。しかしすぐに逸らす。


 その反応で確信する。さっきの冗談じゃなくてマジなんだな……。


 それが分かったからといってここで指摘するつもりはない。俺以外に知られるのは嫌だし。


 それから「お兄ちゃん愛してます」と言い残して夢奈は自分の席に戻っていった。


 それを見届けて鈴が口を開く。


「そういえばさ、最近結構な数の《退魔師》が忙しく動いてるって噂、聞いた?」

「なんだそれ」


 突然の話題に面食らいながら思わず顔をしかめると、鈴は少し驚いた様子で目を見開く。


「てっきり藍香さん辺りから聞いてると思ったんだけど、知らないんだね。一週間ぐらい前からかな、結構な数の《退魔師》がこの辺りのなにかを探して動き回ってるらしいって噂を父さんから聞いたんだ」

「なにか、っていうのは当然《魔の物》なんだよな?」

「うん、だろうね。父さんは『六年前と似たようなことが起きるのかもしれない』って言ってたよ」

「……んなわけないだろ。あんなのがまた起こってたまるか」


 俺は思わずきつく拳を握りしめる。険しい顔をしていたのかもしれない。鈴が少し気まずそうに苦笑を浮かべた。


「まぁあの規模の物が起き得る可能性があるとしたら、避難勧告なり何なり出すだろうからね、多分それは杞憂だと思う。だけどなにかよくないことが起きているのは事実だよ」

「よくないこと、ねぇ……」


 そんな会話をしていると斉藤先生が来る。俺と鈴はとりあえず正面を向く。


「ま、なにか起きる前にはどうにかしてくれるだろう、きっと」

「そうだね」


 ぼんやりと先生の話を聞きながら、藍香ねぇに後で確認を取った方が良いのか考える。

 ……必要以上に首を突っ込まれても藍香ねぇも迷惑か。聞かなかったことにしておこう。



 今日は昼休み前の時間に《呪術》の実技授業があった。体操服に着替えた俺達はいつものようにグラウンドにいる。ちなみにしろは鈴とペアを組む。前の休み時間の時にそう決まった。


 しろが『訳あって《呪術》を使うことが出来ない』というのを承知した上で鈴はしろとペアを組んだ。


「使えない分僕がフォローすればいい」


 と言うのが鈴の言い分だ。ちょっとかっこいいじゃねぇか……。俺も言ってみたい。


 最初よりはましになったものの、夢奈はしろに敵意剥き出しだ。

 今も俺の腕にしがみつきながら目の前にいるしろを睨んでいる。当の本人は涼しい顔だけど。


「そうだ、しろ。知ってますか? 実技授業では、組んだ相手のケアも大切なんです」

「ケア? それはどうすればいいんだ?」


 夢奈の言葉にしろは興味深げにそう返した。


「簡単ですよ。下半身にご奉仕すればいいんです」

「「ぶっ!」」


 俺と鈴がほぼ同時に噴き出した。


「お前なに言って……!」

「そうなのか。もしかして、夢奈もイズモにやってるのか?」

「な……!」

「と、当然ですよ」


 夢奈は動揺しながらもこくりと大きく頷いた。


「いや、そんなのしてもらってるわけが──」

「それで、それはどうすればいいんだ?」


 俺の言葉を遮ってしろが夢奈に問いかける。


「え? だから、下半身にご奉仕を……」

「だから、それはどうすればいいのかと聞いている」

「え……」


 どうやら悪のりしてるわけでも勿論からかってるわけではなく、しろは本当に『下半身にご奉仕』がなんなのかを理解していないようだ。


 夢奈もさすがにそれは気付いたらしく、戸惑った様子で視線を彷徨わせている。


「それはー……そのー……」

「よくわからないから実践してみてくれないか」

「はにゃっ! じじじじじっせんっ」


 夢奈の顔が一瞬のうちに耳まで真っ赤に染まる。ぷしゅー、と頭から湯気を噴き出しながら俺にしがみつき、ぷるぷると体を震わせていた。


 鈴も気まずそうに、少しだけ顔を赤くしながらそっぽを向いている。


 そもそも意味を理解していないしろは夢奈の反応に困惑した様子で首を傾げている。


「どうしたんだ、早くしてくれ。授業が始まってしまうぞ」


 しろにそう煽られた夢奈は──


「ふにゃあぅ……」


 そんな声を上げながら崩れ落ちた。俺はそんな夢奈の体を受け止めて、お姫様抱っこすると小さくため息をつく。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。


「ゆ、夢奈はどうしたんだ!? 大丈夫なのか!?」


 しろは泣きそうになりながら俺を見上げる。ていうか尻尾出てるぞ!


「出てるから! しろ、出てるから!」


 しろは一瞬不思議そうな顔をするが、直ぐに気付いて尻尾を消す。


「夢奈のことは気にするな。こういう子なんだ。さっきの発言も忘れて上げてくれ」

「? まぁイズモがそう言うなら気にしないことにしよう」


 怪訝そうな顔をしながらもとりあえず頷いてくれる。


「ところでさ。さっきの『出てる』ってなに? もしかして興奮したイズモの股間から白濁なえ──」

「それ以上言ったら本気(マジ)で怒るぞ」

「……ごめんなさい」


 鈴はしゅんとしょげながらぺこりと頭を下げた。


「まぁとにかく、ちょっと保健室行ってくるから間に合わなかったら先生に言っといてくれ。じゃ」


 そう言って目を回している夢奈を連れて保健室に向かった。


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