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退魔師兄妹の日常  作者:
第二章 転がり込んできた『猫』との生活
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第8話 妹の不安

 その後、今日一日なにも食べていないのと言うので、夢奈に頼んで遅めの夕飯を作ってもらった。夢奈は不服そうな顔で「えー」と言ったものの、ちゃんとおいしい飯を作ってくれた。


 それから空いている部屋に案内し、風呂等の説明を済ませた。


 ちなみに下着──というかパンツは夢奈の新品の物があったのでそれを使ってもらい、服も……と思ったのだが、夢奈よりも十センチぐらい身長が高かったみたいなので、服は俺の物を着てもらう、ということになった。


 そして今、しろは風呂に入っている。


 俺は寝る準備を終えて、電気を消した自室のベッドで横になりながら盛大にため息をつく。なんか無駄に疲れた。


 それにしても、今日の夢奈はなんか変だったな。いくらなんでも棘がありすぎだった。あんなに敵意剥き出しの夢奈は初めて見た気がする。


 そんなことを考えているとがちゃりと部屋の扉が開く。そして静かに閉まり、ぱたぱたと俺の下に誰かが駆け寄ってくる。見るまでもなく間違いなく夢奈だろうけど。


「お兄ちゃん、一緒に寝てもいいですか……?」


 夢奈は俺の顔を覗き込みながら、おずおずとそう尋ねた。


 いつもは「寝ましょう!」と元気よく言って疑問系で言うことなどほとんどない。それを不思議に思いながら俺は起き上がって、「今日だけ特別だからな」と伝える。


 夢奈は嬉しそうに微笑み、俺の右隣に潜り込む。


 揃ってベッドに横になると、夢奈はむぎゅりと俺の腕にしがみついてそっと目を閉じた。


 その顔は可愛いしおっぱいは柔らかいし良い匂いはするしで、妹だとわかっているがちょっとどきどきしてしまう。それをごまかすように俺は口を開いた。


「なんか今日の夢奈、変だったな」

「……そうですか?」

「夢奈があそこまで人の嫌がることを言ったりするなんておかしいだろ」

「……買いかぶりすぎですよ。ゆめはお兄ちゃんが思っている以上にやなやつですよ」

「……そんなことないと思うけどな。夢奈はしろが嫌いなのか?」

「別にしろが嫌いなわけじゃありません。ただ……」

「ただ、なんだ?」


 腕を放してくれるので俺はごろりと転がって夢奈と向き合う。

 夢奈はそっと目を開けるとじっと俺を見た。


「……お兄ちゃんがしろに取られちゃうんじゃないかって思ったら不安で……」

「なんだ、そんなことか」

「そ、そんなことって……! ゆめはですね、本当に不安になって──」

「あほか」

「あ、あほってなんですかあほって!」

「あほだろ。俺は一度だって夢奈が本気でやがることはしたことないはずだぞ」

「それはそうですけど……そうじゃなくてですねっ!」


 夢奈は泣きそうな顔で俺を見つめると、俺の服をぐしゃりと掴む。


「もしかしたらしろが、お兄ちゃんを、ゆっ、誘惑したりするかもしれませんっ。確かにお兄ちゃんは今までゆめが本気でやがることはしたことないですけど、お兄ちゃんは変態さんなので、誘惑されたらころっといっちゃいそうですしっ」


 震える声でそう言って、夢奈は不安げに俺を見つめる。


「そもそも、しろが俺を誘惑しなくちゃいけない理由なんてないし、そんなこと出来そうには見えないだろう?」

「ゆめもそう思いますけど、もしもっていうこともありますっ!」

「仮にそうなったら、俺が夢奈から離れていく、って思ってる訳か」


 夢奈はこくん、と小さく頷いた。


「やっぱりあほだな」


 夢奈が眉をハの字にしながら俺を見る。


「仮にそうなっても、俺が夢奈から離れるわけないだろう。誰にも俺達の絆を裂くことは出来ないっつーの。この先が何があっても、夢奈が一番大切、って事実は一生かわんねーよ。自分で言うのも何だが、俺は妹を第一に考える、妹が大好きなシスコンなんだよ」


 はっきりと言い放つと、夢奈はきょとんとした顔でじっと俺の顔を見つめながら、ぱちくりと瞬きを繰り返す。

 俺がそれに微笑んで返すと、夢奈はどこか戸惑ったような笑みを浮かべて、


「ありがとうとざいます。大好きです、お兄ちゃん」


 と小さく呟いて、目を閉じる。


「俺だって大好きだっての」


 早口の小声でそう呟いて、俺も目を閉じた。



 翌日の朝。『料理以外の家事なら大体できる』というしろに洗濯や掃除などを頼んで、俺達は早めに登校した。


 そして学校の敷地内にあるとある建物に向かった。到着したそこの表札には『退魔師協会 支部』と書かれている。


『退魔師協会』とは、簡単に言うと《退魔師》関係の諸々を取り仕切っている組織の名前だ。《退魔師》の仕事を受け持っている俺達も一応ここに籍を置いていたりする。


 建物内に足を踏み入れると、受付の前で藍香ねぇが待っていてくれた。


 動きやすさを考慮してか、ざっくりとスリットが入ったタイトスカートの黒スーツ。足元は黒のストッキング──という格好の藍香ねぇは俺達の姿に気付くとにっこりと微笑んで近寄ってくる。


「おはよう。ここじゃなんだし、ついてきて」


 という藍香ねぇの後に続き、客室に案内された。


 ガラステーブルを挟んで高級そうなソファーが二つ置かれた以外には物はない。


 藍香ねぇと向かい合う形で腰掛けると、OL風のお姉さんがお茶を運んできてくれる。


 お姉さんにお礼を言って、それから去って行くお姉さんを確認して、俺はじっと藍香ねぇを見る。


「それで、話って何かしら?」

「実は──」


 俺は『しろ』のことを藍香ねぇに話した。


「なるほどね。それで、貴方たちは私にどうして欲しいのかしら」


 俺と夢奈は顔を見合わせる。


「別にどうして欲しいってわけじゃない。一応耳に入れといた方がいいと思っただけだ。別にしろがなにかするとか思っているわけじゃないが、事情がわからない上にしろは人間じゃないわけだし、万が一ってこともあるしな」

「そうね。了解したわ」


 藍香ねぇはそれだけ言って、なにかを確認するようにじっと俺と夢奈の顔を見比べる。


「どうしたんですか?」

「あ、うん。一つ提案なんだけど、その……しろ? って子も、うちの学校に通ったらどうかしら」

「《魔の物》が見えるかどうかもわかんねーし、そもそもしろは耳が猫耳で尻尾が生えてるんだぞ? まずくないか?」

「そ、それもそうね……。でも、一人でうちに置いておくのも……ね? まぁその辺も含めて、帰ったら本人に聞いてみてもらえないかしら。聞いたら電話してもらえればいいから。来週からにでも『転校生』として通えるように手配はして置くわ」

「いいんですか? 藍香さん、上から悪い意味で目を付けられてるって聞いたんですけど」

「それは結構前の話よ。貴方たちが『優秀』なお陰で、今の私の評判はいいのよ。ちょっとぐらいのわがままなら押し通せるわ」

「ま、とにかく帰ったら聞いてみるよ」

「ええ」


 それから俺達は建物を出て、学校に向かった。



 それから時間は経ち、俺達は帰宅した。


 しろに今朝のことを説明すると、ぱぁっと表情を明るくする。


「わ、わたし、学校に行けるのか!?」


 最初に確認したところ、《魔の物》は見えるし耳を人間の物に変えて尻尾を消すことも可能らしい。


「おう、そうらしい」

「そ、そうか……学校に……。あ、あのでも……」

「なんだ?」

「さっきも言った通り耳と尻尾をどうにかすることは出来る。ただ、それをするとわたしは《呪術》を使えないんだ」

「あー、その辺はどうにかなるんじゃないか、多分。一応藍香ねぇにも言って置くし」

「そっか……。ここまでよくしてもらえて本当に嬉しいぞ。ありがとう、イズモ、夢奈」


 夢奈は自分が呼ばれるとは思っていなかったのだろう。


 さっきまでぶすっとしていた顔を焦りに変えると、目の前のしろがそうするように、ぺこりと頭を下げた。


「みゃー」


 いつの間にか近くにいたみゃーちゃんが鳴きながら夢奈に近づく。夢奈は顔を綻ばせながらみゃーちゃんの頭を撫でた。俺はそれを眺めながら口を開く。


「話はまとまったな。藍香ねぇに電話してくる」


 俺はそう言って自室に向かい、電話をかける。ツーコール目で藍香ねぇが出て、先ほどの話をする。


『りょーかいよ。制服用意するから、大体の身長教えてくれる?』

「夢奈より十センチ高いぐらいだから、百五十前後だと思う」

『わかったわ。じゃあ一時間後ぐらいに持ってくから』

「ああ、悪いな」


 それから電話を切り、二人の下に戻る。


 二人は猫用のおもちゃでみゃーちゃんと遊んでいた。その微笑ましい光景に思わず頬を緩ませながら、俺は藍香ねぇが一時間後にここにくることを話す。


 そして一時間後。藍香ねぇが制服を持ってやってくる。


 制服の他にも衣服類を持ってきてくれた。買わなくちゃな、と思っていたから助かった。

 上がっていけばと言ったが、仕事が残っているからと、慌ただしく帰って行く。


 それから藍香ねぇが持ってきてくれた衣服類をしろに渡すと、むぎゅりとそれを抱きしめて、嬉しそうに微笑んでいた。


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