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Life is choice.  作者: 小野田ラコ
第4章 もうひとつのはじまり
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21.始まりの朝

深い深い眠りから覚めて

あたしは大きく息を吸った。

暖かい布団の中でごろりと寝返りをうつと

ほんのりと甘い匂いがまとわりつく。

心地良さを感じながら目を開けると

けれど、そこで寝ているはずのカオルさんの姿が

何故かなかった。

「……?」

洗面所にでも行ったのかと思い

あたしは布団から顔だけ出して、耳を澄ませた。


うっかり布団から出る訳にはいかなかった。

今のあたしは、ハダカだった。

何も身に着けていない。下着も。

昨夜そのまま眠ってしまったいきさつを

今ようやく思い出して

あたしは布団を引き上げて、顔を覆った。

昨夜はとんでもない夜だった。

思い出すだけで顔がカーっと熱くなる。

今思えば、最初のアレは序章にすぎなかった。

カオルさんのエロ度をあたしは

見くびっていたのかもしれない。

結局あたしは翻弄されるがまま、されて

そして何度目かのあとには疲れ果て

カオルさんにぐったりと身を委ねたまま

眠りに落ちてしまったんだった。

汗ばんだ額を優しく撫で続けてくれていた

柔らかい手の感触を、キスを覚えている。

思い出せば思い出すほど、恥ずかしい。


ひと通り、昨夜の記憶に悶えてから

あたしは改めて部屋の様子をうかがった。

部屋はすっかり明るくなっている。

カオルさんは洗面所にでも行ったのかと思った

けれど物音がしない。人の気配が全くしない。

おかしいなと思って身体を起こそうとした時にふと

カオルさんの枕元に紙が置いてある事に気が付いた。

ノートを破ったような、一枚の紙。

そこにはキレイな文字でこう書かれてあった。

『おはようシノ。

 早く目が覚めたから、海に行ってきます。

 9時までには戻るから、ゆっくり休んでて』

あたしは驚いて目を丸くした。

海? あたしを置いて、海に行った?

波乗りに? 

こんな状態のあたしを残して?


あたしは思わずプッと吹きだした。

信じられない。

初めての朝にいないだなんて。

あたしを置いて海に行っちゃただなんて。

信じられない。

しかも昨夜、寝たのはかなり遅かったはず。

カオルさんだって(相当)疲れたはずで

それなのに一体何時に目覚めて、海へ。

あたしはおかしくてククっと笑った。

なんてカオルさんらしいの。海だなんて。


いつもの習慣で日の出と共に起きて

眠れなくなってしまったのかな。

あたしを起こすまいと

気を使ってくれたのかもしれない。

そうしてるうちに、波が気になっちゃって

行っちゃったんだろうな。


あたしはクスクス笑いながら

カオルさんの匂いの残る枕に、頬を乗せた。

愛おしいと思った。カオルさんの全てが。

海バカなところも

意地悪なところも

ちょっぴり弱いところも

優しいとこらも、強がりなところも。

エロいところはちょっと困るけれど

でも、愛おしいと思った。

カオルさんに抱かれた自分のカラダも。

女同士の恋愛に、SEXに

怯えていた過去の自分がバカみたいだった。

一線を越えても、あたしは何も変わらない。

天地がひっくり返るような事もない。

今はただただ、幸せだ。


しばらく甘い匂いに酔いしれてから

あたしはようやく身体を起こした。

喉がひどくカラカラになっている。

とりあえず水を飲みに行こうと

パジャマを着ようと視線を落とした時、

あたしはぎょっとした。

身体のあちこちに赤いアザがある。

つまりキスマークが、全身に。

「わ……わ……っ」

人目がある訳ではないけれど恥ずかしくて

あたしは慌ててパジャマを着た。

キスマークは太股の内側にまで付いていた。

昨夜の出来事がフラッシュバックする。

カオルさんが海に行ってくれていて

本当に良かったと思った。

もし隣にいたら、どんな顔をして

朝を迎えていたのかと思う。

まったく、カオルさんという人は

カオルさんという人は……!



閉め切られたカーテンの隙間から

暖かい日射しがもれていた。

時計を見上げると、もう八時半を回っている。

キッチンではコーヒーメーカーが

静かに湯気をたてていた。

カオルさんの気遣いに感謝しつつ

用意してあったマグカップに注ぎ込む。

芳ばしい香りと共に、ほろ苦さが心地よく喉を流れ

あたしはほぅっと息をついた。


カップを両手に持ったままリビングに行くと

テーブルの上には、あたしがあげたプレゼントの

包装だけが残っていた。

中身の腕時計は見当たらない。

海に持って行ってくれたのだと分かって

あたしの頬は緩んだ。

海にいるカオルさんを思い浮かべる。

波に揺られながら時折、腕時計を見ては

きっと時間ぎりぎりまで波に乗るカオルさん。

楽しそうなカオルさんの姿に、笑みがこぼれる。


あたしは窓際に立つと、カーテンを開けた。

春を告げる眩しい光が部屋中に差し込み

ほんわりと暖かさに包まれていく。

あたしは海に思いを馳せる。

ずっと冷たかった海も、ようやく柔らかく

刺すようだった北風も、優しく吹き始める春。

穏やかなウネリが、海面をキラキラと輝かせ

打ち寄せる波は小石を揺らし、心地よい音をたてる。


今度はあたしも海に行こうと思った。

カオルさんと一緒に。

これからたくさん、いろんな海を、一緒に。




fin.










これにて完結です。

最後までお読みいただき

本当にありがとうございました。

心から感謝申し上げます。


ラコ。


(次回はあとがきです)

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