8.仲間と友達と恋人と
カオルさんと連絡を取り合うようになってから
あたしのサーフィンライフは一変した。
いつも一人で海に入っていたのが
一人ではなくなったからだ。
いつも海にはカオルさんがいたし、それに
カオルさんにはたくさんの知り合いがいて
彼女のおかげであたしにも仲間が増えた。
元々あたしに仲間がいなかったわけではないけど
仲間のほとんどは、マナブが関係していたので
別れたあとは必然的に疎遠になっていた。
そんなコトで仲間を失うのはきつかったけれど
されど、そんなコトだった。
あたしはマナブに会う訳にはいかなかったし
彼だって、きっと今もまだ会いたくないに違いない。
カオルさんのおかげで知り合った人たちは
ローカルサーファーが多かった。
海の近くに住んでいる地元の人たちだ。
サーフィンの上手な人が多く、
いろんな知識や情報が得られた。
一緒に海に入れば、いい刺激になるし
あたしにとって海はとてもいい環境になった。
それに、そのほとんどが男であることも
あたしにはとても魅力的だった。
もしかしたら、いい出会いが期待できるかもしれない。
恋人にするなら、絶対にサーファーだと
あたしは心に決めている。
一生、一緒にサーフィンをしながら楽しく生きていける
そんな男性があたしの理想だった。
けれど現実はキビシイ。この歳になると
イイ男には、すでにイイ女がいるのが当たり前なのだ。
たいてい結婚しているか、彼女がいたりする。
ちょっと前にイイナ、と思った人も既婚者だった。
カオルさんにも彼氏はいないようだった。
それがあたしには、ちょっぴり嬉しい。
正直なところ、自分よりも年上の人がフリーだと
なんとなく安心感があるというか、なんというか。
女ってこういうところが小賢しい。
でもカオルさんはあたしと違って美人なのだ。
地味なあたしとは全然違う。
いつ男ができたって不思議じゃない。
むしろいない方が不思議なくらいだった。
ある日、カオルさんとランチを食べに行った時に
そんな話になった。
「カオルさんなら、サーファー男子なんて
よりどりみどりなのに」
あたしの言葉に、カオルさんは
不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「私よりサーフィンが上手くて、
強い男がいたらね」
それを聞いて、あたしは笑った。
あたしはカオルさんのこういうトコロが大好きだ。
よく分からない女子力ばかりを追い求める女子とは違って
カオルさんには媚びない強さがあると思う。
でも、カオルさんよりサーフィンが上手くて
強い男なんて、それを求められたら
逆に男の方を同情してしまうくらいだけど。
「それよりね。私みたいなのより、シノのがモテるよ」
カオルさんは言った。
「気付いた? コータ。シノのこと気にしてる」
「え……」
コータというのは、確かあたしより3つくらい年下の男で
元々はカオルさんの友人だ。最近、よく海で会う。
カオルさんに、彼の気持ちに気付いたかと聞かれれば
全く気づいていない……と、言いきれるわけでもない。
そのくらい、彼は素直に分かりやすい。
「どうなの」
「え、でも。あたしは、年下は、あんまり……」
「ふうん」
そっかコータが……
悪い気はしないけれど。
でも、ないなぁ。
あたしが少し考え込んでいると、カオルさんはグラスの水を飲み、
それをトン、と机の上に置いた。
「ね。シノはモテる」
「そんな。そんなことないですよ」
「なんで。シノは可愛い」
「え」
同性からそんな事を言われた事がなかったので
あたしは面食らった。
「ま……またまた、カオルさんたらー」
あたしの上げた右手は、
どこかのオバチャンみたいにひらひらした。
でもカオルさんはふっと笑っただけだった。
それから窓の方を向いて、頬杖をつくと
そのまま黙ってしまった。
「…………?」
なんか不機嫌……?
まさか、もしかしてカオルさん
コータの事⁉