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Life is choice.  作者: 小野田ラコ
第4章 もうひとつのはじまり
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14.心の闇

「何から話したらいいかな……」

カオルさんは車を走らせながら

しばらく言葉を探していた。

「……別れた理由……」

独り言のようにぽつりと言う。

あたしは緊張しながらその言葉を待った。

ドクン、ドクンと心臓が鳴る。


「あのね、別れたのはね、シノ。私は本当は……

 私が、シノと付き合っていく事に

 自信が持てなくなったからなんだよ」

「え……?」

「自信がなくなった……というより

 辛くなったって言う方が、正直かな」

カオルさんは苦笑いした。

「どういう……こと……?」

「シノを好きでいるのが、辛かった。

 だから別れた。これがホントの理由」

「わ……からないです。どうして……」

「うん。それを、説明しなきゃいけないんだけど

 何から、話したらいいか……」


辛かった……?

カオルさんに、そう言わせるほどの

取り返しのつかない何かを

あたしは、してしまっていたのだろうか。

嫌な不安が心臓を叩く。


「最初はね、単純に幸せだった。

 シノがいてくれるだけで良かった。

 でも、いつ頃からかな……それが

 それだけじゃなくなって……

 好きだから全部を手に入れたいっていう

 どうしようもない欲と、でも

 できない現実とで……」

「……」

「あ、カラダの問題じゃなくてね。

 勿論それも、ないことはないけど。

 色々と思うようになったのは、シノが

 家族の事で、大変になった頃からかな」

「あたしの……祖母の……」


カオルさんは前を向いたまま

微笑んだ。

「あの頃、シノから色々話を聞いて思ったよ。

 シノはすごく、家族に愛されて育ってる。

 シノも家族をとても愛してる。

 ……いいなと思った。

 だからシノは、こんなにも純粋で、素直で

 明るくて……だからこんなに可愛いんだなと」

「カオルさん」

「本気でそう思ったよ。

 でも、だから後ろめたかった。

 女の私なんかが、恋人で」

「え」

「私はビアンの子としか付き合った事がないから

 そんな事まで……ましてや先の事なんて

 深く考えもしなかったけど。

 でも、シノは違う。元はと言えば

 私が引きずり込んだようなものだし」

「でも、それは……それは違いますカオルさん」

あたしの言葉を否定するように

カオルさんはゆっくりと首を横に振った。


「もしね、このまま私と一緒にいたら

 シノはいつか、私と家族との間で悩んで

 ……家族を傷つけて、シノも傷つくよ。

 そう思うと怖くなった。

 可愛いシノを傷つけたくないと思った」

「……」

「それは本心。でも本当の部分は

 そんなキレイ事だけじゃなかった」

カオルさんはふうっとため息をつく。

「こんな事を言うと

 幻滅させるかもしれないけど……

 いつかそれが原因で、シノが

 私との事を後悔するかもしれない。

 それが一番、恐ろしかった」

「後悔だなんて……あたしが

 そんな風に思うわけないのに……!」

「うん……そう思っていても……

 シノが家族と過ごしてる間は

 正直なところ、ビクビクしてた。

 会えない時間が長くなるほど

 シノが冷静になって、色々と考えて

 やっぱり私とは一緒にいられないって

 そう言ってくるんじゃないかと、思って」

「まさか……」

「シノだって、思う時はあった筈だよ。

 同性と付き合っていくっていうのは

 そんなに簡単な話じゃないって」

「……」

あたしは思い出していた。

祖母の心残りや、父や、叔母の言葉。


「本当に、簡単じゃないんだよね。

 大切な人の、大切な人が入院してても

 お見舞いにも行けない。

 お通夜にだって堂々と顔を出せない」

「でも、だってそれは」

「ごめん、それは仕方のないことだって

 分かってる。分かってる。ごめん。ただ

 そういうものなんだって痛感しただけで」

「ごめんなさい」

「謝らないでってば。シノは悪くないよ。

 そんなつもりで言った訳じゃなくて。

 ただ、私が男であれば簡単なものを

 女だからっていう理由だけで、できない……

 それが虚しかった」

「……」

「私は自分が同性愛者である事を

 今までに恥じた事はないよ。でも

 初めて自分を惨めだと思った。

 堂々と好きでいられない、

 くだらない不安の塊になって

 ビクビクしてる自分が惨めで

 それが……だんだん辛くなった」

「――」

「ごめんね、シノは悪くないのにね。

 これは私の問題だった。

 なんとか自分で消化するつもりだったけど

 でも好きになればなるほど、難しくなって……

 私は本当に、シノが好きだったんだよ」

「――どうして、だったら、どうして」

「あの時……海で、シノと元カレが

 一緒にいるのを見た時……」

「!」

「もうこんな恋愛は終わりにしようと思った」

「でも、あたしは彼とは、何も」

「分かってるよ。分かってる。何かあれば

 シノはちゃんと言ってくれる子だから」

「本当に何も」

「うん。ま、正直なところ、嫉妬はしたけどね。

 でもそれよりも、男と一緒にいるシノを見て

 私は……自分が間違ってたと思ったんだよ。

 だからこんな辛い思いをするんだって。

 シノをノンケの世界に戻そう、そうすれば

 シノはもう悩まなくて済む。私も

 これ以上辛い思いをしなくて済む。

 それが一番いい方法だって、あの時は

 本気でそう思った」

「……だから……」

「直接言う勇気がなくて

 ああいう形で告げて、ごめん」

あたしは俯いた。どうかするとまた

涙が出てしまいそうだった。


ショックだった。

あたしは何も知らなかった。

カオルさんを苦しめていた事も

何も。


「他に気になる人がいると言ったのは

 あれは嘘だよ。実際には誰もいない。

 そう言えばシノの諦めがつくと……」

「でも……他の人が、良かったんですよね」

あたしは思い切った事を口にしていた。

不思議と涙は出なかった。

「あたしみたいにノンケじゃなくて

 カオルさんには、ビアンの子が」

「……」


フラれた理由を死ぬほど考えていた頃、

思い当たる事のひとつが、それだった。

カオルさんがノンケのあたしに

”後ろめたい” と思ったのだとしたら

それはあたしも同じだ。

同性愛者として生きてきたカオルさんを

本当の意味ではあたしは

理解してあげられないのかもしれない。

あたしでは、ダメなのかもしれない。












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