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Life is choice.  作者: 小野田ラコ
第4章 もうひとつのはじまり
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11.少し欠けた記憶

ザワザワと誰か、何人かの人の声を

聞いていた気がする。

懐かしい甘い香りがしたような

そんな気もしていた。


気が付いた時あたしは

ソファで横になっていた。

不思議な感覚だった。

気を失った訳ではなかった筈なのに

記憶がはっきりしない。


タバコの臭いが染み付いた黒いソファ

落書きとステッカーで埋め尽くされた壁。

壁の向こうに音楽が響いていて

ようやくあたしは自分が

イベント会場の控え室にいるのだと分かった。

けれど、どうやってここへ来たのか

それが分からなかった。


目の前のテーブルには荷物が山積みで

その向こうで人が固まって話をしている。

身体を起こそうとして、思わず呻いた。

何かで殴られたような痛みが頭部を襲った。

「ああ、シノちゃん!」

ユッキーが駆け寄った。

「もう動ける? 大丈夫?」

「痛……っ」


「ね、ね、大丈夫?」

「ん……大丈夫……」

「無理しないで、まだ横になってていいよ」

「ありがとう……ごめん」

言いながら髪を整かきあげた時

あたしはギクリとした。

部屋の片隅に、カオルさんがいる。

壁にもたれ、腕を組んで、

暗い表情でこちらを見据えている。


そうだった。

あたしはカオルさんに会ったんだった。

話があるといって、腕を引かれて

外へ出て階段を降りて

階段を、降りて……?


そのあとの記憶がない。

何かを話したような気がするし

話していないような気もする。

はっきりしているのは

宙で見た階段の映像だけだった。

思い出そうとすると、頭がひどく痛んだ。


「ね、シノちゃん、病院行こうか」

「え……病院……?」

「今ね、みんなで話してたの。

 夜間救急のとこ、近くにあるみだいだから」

「ちょ、ちょっと待って。大丈夫だよ。

 病院だなんてそんな、大袈裟な」


テーブルの向こうで集まっていたのはアカネさんと

イベントのスタッフらしき人たちだった。

動けないでいるあたしを、病院へ運ぶため

相談をしていたらしい。

思いもかけず大変な事になっていそうで

あたしは焦った。

「大丈夫、大丈夫です」

あたしは慌てて弁明をした。

病院になんて、とんでもない。


「でもシノちゃん。打ったのは頭だもの。

 一応、行っておいた方がいいわよ」

アカネさんが心配そうに言う。

「しばらく動けなかったのよ?

 念のために、診てもらった方が」

「ううん、ううん。ホント、大丈夫」

「でもね」

「いいの。それよりも……」

あたしはイベントスタッフの人に

身体を向けて、頭を下げた。

「ご迷惑をおかけして、すみませんでした」

「まぁ……シノちゃんったら」

アカネさんが呆れたように、優しく微笑んだ。


あたしは申し訳なさでいっぱいだった。

階段から転げ落ちた間抜けな客を

忙しい最中にも関わらず、寝かせてくれて

親身になって心配してくれて。

ものすごい迷惑だっただろうに

皆が優しくて、いたたまれなかった。


「馬鹿だね。気にしないでいいのに」

力強い声で言ってくれたのは

少し年配の女性だった。

「アカネとユッキーの友達なら

 あたしにとっても大事な友達だからね」

気さくに話すその人が、今回のイベント主催者の

つまりビアンバーのママさんだと、後に知った。

「動けるようになって良かったよ。

 本当に、大丈夫?」

「はい。おかげ様で」

「じゃあ、もう少しここで休んでいきなさい」

「でも……ご迷惑に」

「なるわけがないでしょ」

その人は豪快に笑った。


「たまにうるさい連中が出入りするけど

 気にしなくていいから。

 痛みが落ち着くまで、ゆっくり休んで」

包容力のあるその瞳に、あたしは素直に頷いた。

「病院は、近くにあるからね。

 何かあったら、すぐ行くように」

「はい」

「あとはアカネたちに任せるけど

 何か困ったことがあったら、言いなね」

お礼を言うと、彼女はにっこりと笑った。


スタッフの人たちが出て行くと

部屋にはあたしちだけになった。


なんとなく気まずい空気が漂った。

心配して声をかけてくれる、

ユッキーとアカネさんとは対照的に

無言のままのカオルさんがいる。


あたしはカオルさんに謝らなければと

何か言わなければと、思っているのに

言葉がでなかった。

何故ここにいるのかと問いつめられた時の

あの冷たい口調が忘れられない。

しかもこんな事になってしまって

愚かなあたしを、どう思われるのかと思うと

怖くて顔が見れなかった。


「何か飲み物でも、もらってこようかしら」

おもむろにアカネさんが言った。

「ね、ユッキーちゃん。一緒に行って

 運ぶの、手伝ってもらえる?」

「えー……あ、うん。そだね。手伝うよ」

言うと、いそいそと2人して出ていく。

部屋を出る時、ユッキーが心配そうに

こちらを振り返っていた。


分かりやすく気を使ってもらって

2人きりにしてくれたものの

あたしとカオルさんの間には

気まずい、長い沈黙が訪れていた。


あたしはソファで俯いたままで

カオルさんは壁にもたれている。

カチ、コチ、と壁時計の音が聞こえる。


何から話せばいいのか分からなかった。

でもとにかく、謝らなければと思った。

カオルさんといた時にあたしは

階段から落ちたのだから

誰よりも迷惑をかけてしまったに違いない。


思い切って口を開こうとした時、

カオルさんがゆらりと動いた。

ソファへ近づいてくる。


「シノ……痛む?」

今までに聞いたことのない

弱々しい声がして

あたしは驚いて顔を上げた。

「まだ、かなり痛む……?」

そう言ったカオルさんの表情が

とても辛そうで、あたしは目を見張った。

「カオル……さん……?」

「病院に行かなくて、本当に、大丈夫?」

「それは……大丈夫です……けど……」

「私のせいで、こんな事になって、ごめん」

「え?」

「ごめん、シノ。本当に……ごめん」

それだけ言うとカオルさんは俯いて

言葉を詰まらせた。


「カオルさん……あの、どういうことか……

 あたし、転んだ時の事、覚えてなくて」

「……覚えていない?」

「はい。一緒に外に出たところまでは……。

 でもその後の事が、よく分からなくて」

さっきから何度も思い出そうとしているのに

思い出せなかった。頭が痛い。

「どうやってここへ来たのかも、よく」

「本当に……覚えていないの?」

「すみません……あたし、どうして転んだのかも」

「……」

「外で何か、話しました? 

 あたし何か、カオルさんに……?」

カオルさんは悲しそうに目を細めると

ゆっくりと首を横に振った。









☆残暑お見舞い申し上げます☆


お読みいただきありがとうございます。

厳しい暑さが続いておりますが

いかがお過ごしでしょうか。

夏の疲れがたまっていませんか?

どうか、体調を崩されませんよう……



私はすっかり夏バテしております。

でもなんとか更新を続けながら

夏を乗り越えたいと思っております。

とゆーか、このお話、

夏中には完結の予定でしたのに

長引いてしまい、申し訳ありません。

もー少しです。

たぶん。

もー少し……

もう少しだけお付き合いください。


いつも読みに来てくださっている方、

たまたま見てくださった方も

心から感謝申し上げます。


ありがとうございました♪


ラコ。






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