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Life is choice.  作者: 小野田ラコ
第4章 もうひとつのはじまり
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7.知らなかった女の世界

イベントの会場になっているのは

古い雑居ビルの3階にある

ライブハウスだった。


エレベーターで上がると、入口は既に

受付を待つ女の子たちで溢れていた。

「意外と、混んでるみたいね」

アカネさんが言う。


あたしは混雑状況よりも

女の子たちの視線が気になった。

あたしたちが登場してから

何人かがちらちらと、こちらを見ている。


その理由はすぐに分かった。

ユッキーとアカネさんだ。

2人が、美人だからだ。


華やかなユッキー、

クールビューティーなアカネさん。

(あたしの存在はさておき)

2人はとにかく目立つ。


女性が、男性にではなく女性に

リアルにモテている現場を

あたしは初めてこの目で見たと思った。

その驚きと同時に、本当にここには

女性が好きな女性しか来ていないんだと

あらためて痛感した。

すごいところに来ちゃったなと思った。


「ありゃ、受付混んじゃってるね。

 あたしちょっと中入って、手伝ってくるよ」

と言ったのはユッキーで

言うや否や、慣れた様子でするすると

人混みをかき分け入っていった。


ユッキーの姿を見送っていると

アカネさんがおもむろに

あたしの横に立った。横、というかそれが

まるで壁ドンくらいの近さだったので

思わず驚いて見上げると

「寒くない? 大丈夫?」

とアカネさんは言った。

階段から吹き上げるビル風を遮るようにして

アカネさんはそこに立ってくれていた。

「だ……大丈夫。全然、大丈夫」

冷たい風のかわりに、香水が漂い

思わずドキンとした。


「あ、アカネさんはこういうイベントとか

 よく、来るの?」

「わたし? そうでもないわよ」

アカネさんは風で揺れる髪を

優雅にかき上げる。

「静かに飲むほうが、好きだもの」

「でも、スタッフだったって、ユッキーが」

「ああ、それね。たまにね。お手伝いするだけ」


受付を待つ間、アカネさんが話してくれた。

今回のイベントは、この街にある

老舗のビアンバーが主催なんだそうだ。

アカネさんはそのビアンバーのママさんと

仲がいいらしい。だからイベントがあると度々

スタッフとして手伝いを頼まれる事があると言った。


一方のユッキーはというと、そのビアンバーの

ママさんのパートナー(恋人)と

仲が良かったらしい。

間接的な繋がりが、不思議な縁を作った。

つくづく狭い世界だなと思った。


「この世界なんて、繋がりだらけよ」

アカネさんが言う。

「元カノとイベントで鉢合わせるなんて

 ザラにあるもの。だから別れ際だけは

 キレイにしておかなくちゃいけないわ」

妙に説得力のあるアカネさんの言葉を聞いた。


ユッキーが受付を手伝い出してから

列はスムーズに進んだ。

会計を済ませ、リストバンドをつけてもらい

手の甲にスタンプが押される。

「再入場する時は、これ見せてね。

 また、あとで」

忙しそうなユッキーはあたしたちにウィンクをした。


中へ進もうとすると

他の受付の女性に呼び止められた。

彼女の手には、ブルー、ピンク、グリーンの

発光するリストバンドが握られてる。

「どの色にします?」

彼女は笑顔で言った。


「?」

分からないあたしはアカネさんを見上げた。

「ああ、それね。来場者全員に、配ってるの。

 好みのタイプを色分けしてるのよ」

「好みのタイプ?」

「そう。一目で分かるように。

 ピンクは、女性らしい人が好きな人

 ブルーは、ボーイッシュな人が好きな人

 グリーンは恋人がいますっていう、しるし」

「え……そんなの、あるんだ」

あたしは驚いた。


つまりこのイベントは、出会いの場でもあって

このリストバンドはそれ用のツール。

付けておけば、誰がフリーで誰がそうでないか

ついでに好みのタイプまで、一目瞭然。

すごい。


あとで聞くところによると、ビアンイベントでは

こういった物は珍しくはないらしい。

他にも、イベントの種類によっては

タチ・ネコ・リバをあらわしたり

SとMを区別したりするものまであるとか。


「便利でしょ」

アカネさんの言葉にあたしは激しく頷いた。

男女の世界にはこんなもの、ない。


「ボイもフェムも両方好きなら

 両方着けてもらってもいいですよ」

受付の女性が明るく言って笑った。

「そんなのも、ありなの?」

あたしは目を丸くする。

「全然ありですよ! 結構みんな付けてますよ」


中を覗いてみれば確かに

両方のカラーを着けている人もいた。

あたしには目の回る思いだった。


するとアカネさんはおもむろに

ピンクのリストバンドを手にした。

「今日はピンクにしようかしら。

 どっちでもいいと言えば、いいんだけど」

慣れた手つきで手首にはめる。


呆然と眺めていると、アカネさんは次に

受付嬢の手からブルーをとった。

「シノちゃんはやっぱり、ブルーよね?」

言いながらあたしの手首をとると

それを付け始めた。


「え。待ってアカネさん、でもあたし」

戸惑うあたしにアカネさんはふふと笑った。

「大丈夫よ。付けていたって

 取って食べられる訳じゃないし」

「でも」

「いいのいいの。さ、行きましょ」

ブルーが付いたあたしの手首を掴んで

アカネさんは中へと足を進めた。



音楽がひときわ大きくなった。

いちだんと暗い空間に、たくさんの人影。

あたしはアカネさんに引っ張られるまま進んだ。


アカネさんが先導してくれたおかげで

混みあうバーカウンターにすんなり顔を出せた。

「シノちゃん、お酒は飲める?」

「うん。もちろん」

差し出されたメニューからモスコミュールを選ぶと

アカネさんが自分の分と一緒に頼んでくれた。


カウンターの中では、明らかに露出度の高い

セクシーな格好をした女性が注文を受けていた。

アカネさんは彼女たちとも知り合いのようで

親しげに言葉を交わしている。

あたしはカウンターに肘をついて辺りを見回した。


中は普通のクラブハウスと同じだった。

人の顔が見えるギリギリの照明の中に

光がまわり、音楽が鳴り響き、揺れる人影。


ただ、右を見ても左を見ても

女だった。それだけが違った。それと

皆が付けているリストバンドが

暗闇の中に意味ありげに光を放っている。


「シノちゃん、おいで」

「えっ。あ、待って」

アカネさんがグラスを両手に

フロアの方へ向かった。

あたしは慌ててその後についていった。


フロアの周囲には立ち飲み用の

背の高いテーブルがいくつか並んでいる。

アカネさんは空いているテーブルを見つけると

そこにグラスを置いた。

あたしはテーブルという居場所を与えられて

ようやくホッとした。


「ユッキーちゃんはまだ、忙しそうだから

 先に乾杯しちゃいましょうか」

アカネさんがグラスを掲げたので

あたしもグラスを掲げた。

2つのグラスがカチンと音を立てた。

「ようこそシノちゃん。女の世界に」









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