表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Life is choice.  作者: 小野田ラコ
第4章 もうひとつのはじまり
68/85

6.知らなかった夜の街

イベントのスタートは夜9時で

あたしたちは会場近くのコンビニ前で

待ち合わせる事にした。


3月とはいえ、まだまだ寒い。

少し早く着き過ぎたあたしは

コンビニで温かいコーヒーを買い

手を温めながら

見慣れない夜の街を眺めていた。


この界隈はあたしにとってはあまり

なじみのない場所だった。

メインの繁華街からは少し離れた場所にある。


一方通行だらけの細い道路が入り組んでいて

その間に、古い雑居ビルが立ち並び

どことなく怪しげなネオンがひしめき合っている。

普段なら女同士で出かけるような

そういった場所ではなかった。


けれどこのあたりは

コッチの世界においては

メジャーな場所らしかった。

新宿2丁目には到底、及ばないにしても

ゲイバーやビアンバーなどが多いらしい。

むしろそういった店のほとんどか

この辺りに集中しているらしかった。


そうと知って眺めてみれば、確かに

この場所には似つかわしくないような

若い女の子の姿も多いし

それらしい男性の姿も見える。

見れば見るほど

そういう人が多い事に気付く。


行き交う人々の姿を眺めながら

あたしの胸は驚きと興奮でドキドキした。

今までは、全く知らなかった世界だった。

この近所を通る事があっても

気にする事さえなかった。それが今は

見えるようになっている。


おそらくさっきすれ違った2人組の男性も

きっとそうに違いないと思った。

以前の自分なら分からなかっただろうけど

彼らの距離感や、表情。

二人は間違いなくカップルだと思った。

とても楽しそうに話しながら

街に溶けていった。


素敵な場所だなとあたしは思った。

街並み自体はゴチャゴチャしていて

決してきれいな場所とは言えないけれど

そういう人たちが集まるからこそなのか

自由で、開放的な雰囲気が

ここにはあるような気がする。



しばらく街を眺めていると

細い路地からユッキーが現れた。

あたしを見つけるとユッキーは

カールした髪をぽんぽん弾ませながら

犬のように駆け寄ってきた。


「久しぶり! シノちゃん!」

声をかける間もなく

飛びつかれるように思い切りハグをされた。

「わ、ちょっとユッキー」

「良かった! 会えた。会いたかったよ。

 元気だった?」

「うん、うん元気。

 ユッキーも、相変わらずだね」

ユッキーはいったん腕の力を緩めると

困ったような目であたしの顔を見た。

「シノちゃん少し痩せた」

「そう?」

それからまた、ぎゅっとあたしを抱きしめた。

ハグには正直、慣れていないけれど

彼女なりの優しさが伝わった。


ユッキーとは本当に久しぶりだった。

12月に会ったきりだったから、約3か月ぶり。

心なしかユッキーは

また一段ときれいになったように見えた。


「アカネっちは、まだ?」

「もうすぐ来るって。さっき連絡あったよ」

「そっか」

「イベントの手伝いは? 大丈夫なの?」

「うん。さっき少し、顔出してきた」

「わざわざ、ごめんね」

ユッキーはにっこりと首を振った。


「それよりさ、シノちゃん今夜

 何時までいる? イベントはオールだけど」

「終電で帰るつもりでいるよ」

「明日は、お仕事?」

「うん。夕方からだけどね」

「夕方? だったら何も、終電で帰らなくても。

 うちに泊まってけばいーよ」

「え?」

「うち近いからタクシーでも平気。

 せっかくだし、のんびり遊んできなよ」

「でも」

「あのね」

ユッキーは自分のバッグから

イベントのフライヤーを取り出して見せてくれた。


そこにはタイムスケジュールが書かれてあった。

いくつかのショーなどが予定されているようで

終電を過ぎた深夜にもある。

遅い時間帯の方が、内容はより濃そうだった。


「へぇ。こんなのあるんだね。面白そう」

「面白いよ。だから時間なんて気にしないでさ。

 終電で帰っちゃうと、面白いトコ見れないし。

 あたし、お手伝いあるから帰れるのは

 朝方になっちゃうけど。それでもよければ」

「……朝になったら、始発で帰れるよ」

あたしが笑うとユッキーも笑った。

「ま、そうなんだけどもさぁ」

「朝まで体力持つかどうか、分かんないけど」

「またまた。シノちゃん体力あるくせに」

「じゃあ、もし終電のがしたら、お願いしよかな」

「逃しちゃえばいいよ」


あたしはチラシをまじまじと見た。

ポールダンスだとか

ドラァグクィーンだとか

知らないものばかりだ。


「ね、アカネって、どんな人?」

「え? ああ、アカネさん? どんなって」

「あたしまだ、顔知らないんだよね」

「写真とか、見てないの? そっか。

 アカネさんね、美人さんだよ」

あたしはユッキーにイメージを伝えた。

清楚で落ち着いた雰囲気の、日本美人。


「今日は黒いコートを着てるって言ってたよ。

 それと、グリーンのマフラーだって」

そろそろ着くはずで、二人で辺りを見回した。

「それとね、背が高いって。170近くある」

「わぉ。デカいね」


2人でキョロキョロしていると

少し遠くの交差点を渡る女性がいた。

「あ……もしかして、あれかな」

「どれどれ?」

黒いコート、明るい色のグリーンのマフラー。

すらりとした長身が目を引いた。


「え、あれ?」

「たぶんそうだよ」

交差点から真っ直ぐにこちらに歩いてくる。

やがてあたしたちの姿を見つけると

ほんの少し首を傾けて微笑んだ。

「やっぱりそうだ」

写真で見た通り色白で、豊かな黒髪。

切れ長の瞳。

ゆっくりと近づいてくる。


隣でユッキーが小声で言った。

「やだ、マジで美人なんだ」

「……なに。タイプなの?」

「まさか! あり得ない」

「なんで?」

「だってタチでしょ。いくら美人でも

 敵にしか見えないよ」

「敵……って」

おかしくてあたしは笑った。


ユッキーが隣にいて良かったと思った。

ネットで知り合った人と

実際に会うというのは初めてで

思った以上に緊張する。


初対面だから、というだけでなくて

今までは文章だけのやり取りだったから

逆に文章だけだったからこそ

自分を曝け出してしまっている。


想像通りの人だと思われるか

がっかりさせてしまうか

また、その逆もしかりで

不安という名の緊張感があった。


あたしは思い切ってその人に歩み寄った。

「アカネさん、ですか?」

「ナツミちゃん……じゃなかった、シノちゃんね?」

アカネさんは目を細めて微笑んだ。

「初めまして。よろしくね、シノちゃん」


柔らかい声、落ち着いた物腰。

とても同じ年には見えないオトナの雰囲気で

あたしは照れながら頭を下げた。


「遅れてごめんね。待たせちゃったかな。

 寒いのに、ごめんね」

「そんな、全然。こちらこそ今日はわざわざ

 すみません」

「やだわシノちゃん。敬語は使わないで」

「でもなんか、緊張しちゃって」

「わたしもよ」

アカネさんから上品な香水の香りがした。

あたしなんかとは正反対の女性だなと思う。


後ろからユッキーがぴょこんと顔を出した。

「ユッキーでーす。アカネっち、よろしくー」

その軽々しい物言いのおかげで

あたしの緊張は一気にほぐれた。


ユッキーのこういう所はすごいなと思う。

初対面であろうと誰であろうと物怖じしない。

時には失礼なくらいありのままで当たる。

そういえば初めて彼女と会った時も

こんな風だったと思い出し、あたしは内心笑った。


「ユッキーちゃんね。こちらこそ、よろしく」

ユッキーちゃん、と呼ばれたユッキーは

あからさまに妙な顔をしたけれど

すぐにいつもの笑顔に戻った。

「ユッキーちゃんはヤメてよー」

「だって……可愛いんだもの」

「か」

「シノちゃんも、ユッキーちゃんも

 すごく可愛いらしいのね。驚いちゃった」

「……」

ユッキーが複雑な顔であたしを振り返った。


彼女にしてみれば、敵に塩を送られたような

そんな感じなのかもしれない。

あたしはユッキーの表情がおかしくて

必死で笑いを噛み殺した。




☆暑中お見舞い申し上げます☆


お読みいただきありがとうございます。

暑さが一段と厳しくなりました。

皆様いかがお過ごしでしょうか。

これから本格的な夏到来。

くれぐれもご自愛くださいませ。


暑さのせいで(暑さのせいで?)

更新はカメペースですが

またお越しいただけると嬉しいです。


ありがとうございました♪


ラコ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ