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Life is choice.  作者: 小野田ラコ
第4章 もうひとつのはじまり
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2.ユッキーの選択

カオルさんからの連絡は

それきり、途絶えた。


最初はそれでも

どこか信じられなかった。

失恋した多くの人が

そうであるように

あたしもまたわずかな希望を

捨てることはできなかった。


けれど一週間が経ち

二週間が経ち、別れが

現実のものとなっていく。


とても耐えきれないと思った。

別れるというのは

失うというのと同じだった。

その存在だけでなく

自分も失ってしまう。


やり直したいと、切に思い

何度も連絡を取ろうとした。

けれどいつもギリギリのところで

あの言葉があたしを

思いとどまらせる。


他に気になる人がいる。

一緒には、いられない。

悪魔の呪文のようだった。


やがて、癒えることのない

深い悲しみと後悔の念は

喪失感という痛みに変わった。


その痛みはある意味、

異常とも言えた。

今までに経験したことのない

喪失という痛み。


例えば手足を無くした人が

無いはずのそこに

痛みを感じてしまうのと

よく似ているかもしれない。

心にあいた大きな穴が

ひどく痛かった。


あたしは毎日その苦痛と

闘わなければならなかった。

眠る時も、仕事中でさえ

その痛みはやってくる。


闘うたびに心は傷を作り

血を流した。それでもどうにか

修復しようとはする。

カサブタまでには、なる。


なのに不意にまた、傷は裂け

そこには前よりも深い

傷痕が残った。


その繰り返しだった。

治りきる前に裂かれる傷は

ケロイドのように

醜く、赤黒く腫れ上がり

あたしの心はぐちゃぐちゃになった。


この拷問は一体いつまで

続くのだろうと思った。

終わってくれるまで自分は

耐えられるのだろうかと思った。


カオルさんという存在は

あたしにとって

何だったのだろうかと思った。



ユッキーから連絡があった時

あたしは最初、恐怖した。

決定的な事実、つまり

カオルさんの新しい恋人の存在を

知らされるのではないかと怖れた。


けれどユッキーは意外にも

別れた事を知らなかった。


『嘘でしょ!? いつ?』

『今月のはじめ頃』

『そんな……全然知らなかったよ』


あたしはまた、悲しかった。

カオルさんがユッキーに

別れた事実を告げなかったのは

あたし以外に好きな人がいると

ユッキーに言うのを

躊躇ったのではないだろうか。


理由を聞かれたあたしは

『ふられちゃったの』

とだけ、答えた。


ユッキーは信じられないと

何度も言っては、驚き

あたしの事をとても心配してくれた。

けれど今は正直なところ

カオルさんと繋がりのある

彼女と話すことは、辛くもあった。


『あたしで良かったら

 いつでも話、聞くから言ってね。

 今度からシノちゃん家、

 近くなるし』

『近く……?』


『そなの。それ報告するんだったの。

 もうすぐあたし、引っ越すんだ』

『え。引っ越し?』


突然の話にあたしは驚いた。

聞けばユッキーは来月、

あたしの住んでいる、同市内に

引っ越してくるらしい。


『それでバタバタしちゃってたから

 カオちゃんにも、会ってなくてさ。

 まさかそんな事になってるなんて

 思いもしなかったよ』

『ごめんね。隠してたわけじゃ

 ないんだけど』

『そんな! 謝んないでよ。

 だって、そんな』

『それにしても、どうして?

 急だね』

『あ、うん。予定はしてたんだけど

 いい物件が見つかったから

 取り急ぎ、引っ越しだけ』

『どうしてこっちに』

『お仕事だよ。あたし就職するの』

『就職!』

『うん。いい歳していつまでも

 ホステスじゃ、ダメだし』


ユッキーが就職……引越し。

あたしは驚いていた。

なんとなくユッキーは

いつまでも変わらないと

勝手に思っていた。

けれど、そういえば

彼女は28歳だった。


『何するの? 仕事』

『旅行会社。あたしこんなでも

 英語できるし』

『うそ。意外』

『あは。だよね。

 んでさ、やっぱ街じゃないと

 って事で、そっちに決めたの。

 新幹線も空港もない今のトコじゃ

 お仕事も限られちゃうから』


いつの間にそんな事を

考えていたのだろうと思った。

そういえば最近はユッキーにも

なかなか会えずにいた。

知らない間に変わっていく

その事が無性に淋しく感じる。


『だけど何も、引っ越しまで』

『まぁね。けど今、住んでる所はさ

 元カノ絡みで住んでたからさ

 これもいい機会かなと思って』


聞いて、あたしはハッとした。

そうだったのかと思った。

ユッキーは以前、元カノと再会した。

もしかしたら、あの時から彼女は

決めていたのかもしれない。


『ユッキーは強いな』

思わず言った。

今だって苦しみが終わったわけでは

ないだろうにと思う。

それでもユッキーは振り切って

前に進もうとしている。

それに比べ、今のあたしは。


『偉いね、ユッキー』

『そんなことないよ。

 それに下心だって、あるし』

『下心?』

『そ。街の方が出会いは多いっしょ』

『出会いって』

『そろそろ新しい恋でも

 したいんだけどさ。

 こんな田舎じゃ出会い少ないから。

 街なら、可愛い女の子もたくさん』

ニヤリと笑うスタンプが送られてきて

相変わらずのユッキーに

あたしは久しぶりに笑みを感じた。


『求めてる出会いは、女子なんだね』

『うん。男も嫌いじゃないんだけどさ

 でもやっぱあたしには

 女の子の方がしっくりくるみたい』

『そうなんだ』

『そろそろ本気出して

 ビアンバーとかイベントとかさ

 顔出そうかと思って。

 だから街にいるのが、便利なの』

『そういう下心、ね』

『うん。だからシノちゃんも、もし

 あ、今はまだアレかもだけど

 そういうの行きたかったら

 いつでも誘うから、言ってね』

『……うん。ありがとう』


















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