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Life is choice.  作者: 小野田ラコ
第3章 長い冬
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16.それぞれの覚悟

楽しく飲んで夜は更け

そろそろ寝る時間となった時、

あたしはこっそりと

いよいよ緊張していた。


けれどカオルさんはいつも通りに

あたしの勝手な妄想に反して

「そろそろ布団、敷こうか」

と言った。


あたしは耳を疑った。

「布団?」


「何、まだ眠くない?」

「そうじゃない……けど

 でも前は、一緒に寝たのに」

と、あたしは思わず言っていた。


あたしの発言に

カオルさんは笑った。

「この酔っ払いめ」

「……今日はそんなに

 酔ってないもん」


酔っていないと言えば

それは明らかに嘘だった。

緊張を和らげるために

あたしは結構飲んだ。


「一緒に寝る?」

カオルさんが聞く。

「ダメですか? 

 だってその方が……」


往生際の悪いあたしは

言い訳も添えていた。

例え一晩であっても

シーツを洗ったり干したり

手間をかけてしまうという

そんな理由を。


一緒に寝たい、とは

恥ずかしくて言えなかった。


「迷惑ですか?」

カオルさんはフッと笑った。

「……まさか」



カオルさんはテレビを

サーフィンのDVDに切り替えると

ベッドに入った。


上半身だけを起こし

くつろいだ様子で

その映像を見始める。


いつも眠りにおちる寸前まで、

そうしているのが習慣らしかった。


あたしはというと

情けない事にまだソファにいた。

いざとなると

なかなか足が進まない。


「おいでシノ。寝ないの?」

躊躇するあたしに

カオルさんは苦笑した。

「そんなに警戒しなくても」

「そうじゃない……けど」

「大丈夫。襲ったりしないから」

「……」

「冷えるよ。ほら、おいで」


カオルさんの手招きに

あたしはようやく端っこから

ソロソロとベッドに潜り込んだ。


カオルさんがあたしの頭を

優しくポンポンと叩く。

「何もしないってば」

「……」


複雑だった。

する、と言われれば困るクセに

しないと言われれば

それもまた困ってしまうような

どっちつかずの心境。


「このDVD、見たことある?」

「え……ないです。初めて」

「イメトレにいいよ。

 貸してあげるから持ってきな」

「……うん」

そんな事はどうでもいいのにと

正直、思った。


すぐ横にカオルさんの身体がある。

こんな状況下で

呑気にサーフィンの話など

あたしにはできそうもない。


けれど映像を見つめる

カオルさんの横顔は

いつものように涼しげだった。

変だなと、思った。


今日のカオルさんは

なんだか妙に優しい。

優しいというか、なんというか

つまり……エロくない。


いや、エロくないことは

決して悪い訳ではないけれど

物足りないというか

違和感があるというか。


今日はキスもまだだった。

本当に何もしないのだろうか。

本当に?


しばらくDVDを眺めていると

カオルさんの手はふんわりと

あたしの頭を撫で始めた。


それはまるで、

このまま眠ってもいいよと

言わんばかりだった。


あたしは悩んだ。

悩んで、結局あたしは

頭の上にある

カオルさんの手をとった。


そっと引き寄せて

自分の頬にあてる。

柔らかい感触に

あたしは目を閉じた。


「シノ……」

カオルさんは少し

驚いたように呟いた。


やがて温かい手が

あたしの頬を包んだ。

「シノ」


それからゆっくりと、

柔らかい唇が

あたしを包んだ。


嬉しくて

心臓がきゅうっとなった。

好き過ぎて泣けるというのは

こういう時なのかもしれない。


……という、センチな感傷とは

また別の所で

心臓がどっどと鳴っていた。


カオルさんは何もしないと

言ってくれたけれど

でも、もしかしたらこのまま

そういうことに

なっちゃったりとか、して。


もし、そうなったらあたしは。

たぶん、あたしは。


キスが深まることを

恐れるような気持ちで待ちながら

けれど、そうはならなかった。


触れた時のように

唇はゆっくりと離れ

そっと、くるむように

抱きしめてくれた。


大きな鼓動と緊張が

伝わってしまったのかもしれない。

カオルさんは子供をあやすように

あたしの背中を撫でながら

「大丈夫。食べたりしないから。

 安心して」

と言った。


「こんなに可愛いシノを食べたら

 シノのおばあさんに怒られるよ」

「――」


その言葉を聞いて

そういえば、そうかと思った。


祖母を亡くしたばかりで

まだ四十九日も終わっていない

あたしがそんな時期にあるから

だからカオルさんは

こんなにも優しくて

……エロくないのかもしれない。


不謹慎なのは、むしろあたしの方で

ちょっと自分が恥ずかしくなった。


「シノ、少し痩せた?」

「そ、そうかな」

「ちょっと、ちっこくなった」

「……元々、ちっこいですけど」

抱き合ったまま

2人でクスクスと笑った。


「大変だったね。何も

 力になれなくて、ごめんね」

「そんな。とんでもないです。

 いつも……感謝してました」

暖かいぬくもり。

あたしの心の支えだった。


カオルさんの腕に力が入った。

ぎゅうーっと、

頬もあたしの頭に寄せて


それから、大きく息を吸って

吐きながら力を緩めると

カオルさんはあたしを放した。


カオルさんは

少し寂しげに微笑んだ。

「そろそろ寝よか」

「……うん」


まだ色々と物足りないような

気分では、あったけれども

今日は寒い海でカオルさんも

かなり疲れているだろうし

不謹慎なのは、いけないしで

あたしはおとなしく

布団に潜ることにした。


テレビも電気も消えると

真っ暗になった。


布団の下で手が触れた。

あたしはカオルさんの手を握って

そのまま眠った。






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