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Life is choice.  作者: 小野田ラコ
第3章 長い冬
61/85

15.それぞれの思い

それから1時間ほど経って

カオルさんが海から上がった。


砂浜を歩いてくる、

カオルさんの姿にあたしは

一層、ドキドキしていた。


冷たい北風の中を、

冷たい砂浜の上を、

全身に海水を纏ったまま

カオルさんは堂々と

ゆったりと歩いてくる。


背後に広がる海も空も

全てカオルさんのものに見えた。


なんて魅力的な人なんだろうかと

あたしは思わずにいられない。


駐車場へと続く階段を登り切り

カオルさんの姿がそこに現れると

海の匂いが、より濃くなった気がした。


「お疲れさまです」

あたしはマフラーに隠れるように

首をすくめて笑った。


「久しぶりだね、シノ」

カオルさんは目を細めながら

海水の滴る前髪を払った。

その仕草に

あたしは思わず見とれてしまう。


海あがり、だからなのか

カオルさんの顔は

いつもより鋭く見えた。

引き締まった頬のラインを伝って

水滴がポタポタと垂れていく。


「ごめん。待たせたよね」

「いえ、そんな。全然です」

鋭い目に見つめられて

あたしは思わず目を逸らした。


「波。波、良かったですね」

「ん……まあまあかな」

カオルさんはグローブをはずしながら

海に目を馳せた。

「だいぶ風でジャンクになったけど」

カオルさんの視線を追いながら

あたしも海を見た。

波の表面が、風で揺れている。


海を見ながら一瞬、

マナブの事が思い浮かんだけれど

それをわざわざ今、

カオルさんに話すことはないと思った。


「何時から海に入ってたんですか?」

聞くと、カオルさんは腕時計を見た。

「……7時頃」

「え。7時頃?」

あたしは目を丸くした。

「まさか、3時間近くも入ってたの?」

「だね。さすがに冷えた」

「当たり前ですよ! 信じられない」

真冬の海は男でも

2時間程度が限界だと聞くのに。


「3時間だなんて。

 オカシイですって」

あたしが呆れた声を出すと

カオルさんは苦笑した。

「もっと早く上がろうかと

 思ったんだけど……」

カオルさんはしゃがみこんで

ブーツを脱ぎはじめた。

「ついつい、波があるとね」


「すごいな、カオルさんは」

「別に……。

 でもシノだって、寒いでしょ。

 ずっと、外にいて」

「海の中よりはマシです」

「ふ。だろうね」


ブーツを脱ぐカオルさんの後頭部を

冷たそうだなと思ってあたしは見る。

手は寒さでかじかんでいるようで

なかなかブーツが脱げないみたいだった。


「何か、温かい飲み物でも

 買ってきましょうか。

 向こうの自販機で――」

「いい、いいよ。

 すぐ着替えるから」

「でも」

「いいって」

カオルさんは顔をあげると

穏やかに微笑んだ。

「ありがと。それより

 シノも寒いでしょ。

 車ん中入って待ってな」

「ん……」

「風邪ひくから」

「……うん」


まだ会ったばかりで傍にいたいけれど

あたしは素直に従って

自分の車の中に入って待つ事にした。


カオルさんの着替えのシーンを

近くで見ている訳にもいかなかった。

以前は何とも思わなかったけれど

今は、違う。



その日は、二人でのんびりと過ごした。

特に予定もたてていなかったので

カオルさんの着換えを待ってから

その冷え切った身体を温めるべく

ラーメンを食べに行き


それからは

近くのショッピングモールに行って

ぶらぶらと目的もなく歩いた。


色々な物を見ては、

くだらないことで笑い合った。


並んで歩いて、同じものを見る、

ただそれだけの事が

これほど嬉しいとは思わなかった。


休憩にはコーヒーと

ドーナツを食べた。

あたしが齧ったドーナツを

カオルさんが食べ

カオルさんが齧ったドーナツを

あたしも食べた。


夕方になると食材を買い込んで

カオルさんのアパートに行った。

あたしもなんとか手伝いながら

一緒になって、料理を作って

食べて、呑んだ。


なんてことはない1日。けれど

まるで夢のような1日だと思った。

そういえば2人だけで

こんなに長く

色々な事をして過ごすのは

初めてのことだった。


あたしは、幸せだった。

カオルさんの顔を見ては

好きだと思う。

好きでいること、

それ自体が嬉しいと思った。


それにカオルさんは

いつになく優しくて


だから、という訳ではないけれど

あたしはひとつ

大きな覚悟を心に決めていた。


今日はカオルさんの部屋に

泊まっていく。


もし――もしも、

そういうコトになったら――――




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