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Life is choice.  作者: 小野田ラコ
第3章 長い冬
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12.忙しさの中で

慌ただしい夜になった。

あたしはとりあえず、

しばらく仕事の休みをもらうために

あちこちに連絡をしなければならなかった。


深夜ではあったけれど

カオルさんにも連絡をした。

『シノは、大丈夫?』

いつも心配してくれるカオルさんに

あたしは力をもらう。


カオルさんに弱音を吐かないことが

あたしにとっては逆に、力になる。


『大丈夫です。しばらく、忙しいけど』

『行こうか。お通夜とか』

『そんな。いいですよ。

 バタバタしちゃってるし』

『そっか……』

『落ち着いたらまた、連絡します』

『うん。無理しないで』


事実、忙しかった。

祖母の遺体は深夜に病院を出て

実家に搬送されることになったから

安置するために家を整えたり

葬儀屋と打ち合わせをしたり

集まる親族の接待をしたり。


ある程度、予測していた事とはいえ

実家は大忙しだった。

当然、あたしも姉も手伝いに翻弄される。


あたしの父は、長男ではなかったけれど

祖母と同居していたために、

喪主となることが決まっていた。


結婚式ならまだしも

お葬式を主催する、なんてことは

両親にとっては初めての経験だから

今は悲しみよりも何よりも

分からないことだらけの行事に

頭を悩ませている様子だった。


悲しむ余裕もない両親を見ると

葬儀というのは、もしかしたら

悲しみを紛らわすことができる

むしろそのための行事ではないかと

あたしは思ってしまう。


とにもかくにも夜は明け

翌日は、通夜となった。

昼間のうちは準備に追われ

通夜が始まるとまた接待に追われた。


前日からの寝不足も祟り

ようやく一息つくころには

皆ヘトヘトだった。


そんな時、葬儀屋の女性があたしに

「おばあ様への手紙を書いてもらえませんか」

と言ってきた。

「お父様たちに伺ったら、おばあ様が

 一番可愛がってみえたお孫さんだそうですね」


聞けば告別式の時に

お別れの言葉として、その手紙を

会場でスピーチしてくれるらしい。


あたしは返事に困った。

正直なところ、

アホらしい、と思った。


手紙を読んだところで

祖母に聞こえるわけじゃない。


いかにもお涙ちょうだい的な手紙を

しかも何も知らない他人が朗読して

それでまんまと、皆が泣かされるなんて

バカバカしいにもほどがある。


断ろうと思った。

けれど葬儀屋の女性の

有無を言わさぬ押しの強さと

書かなきゃ不孝者のような雰囲気に

断ることができなかった。


通夜の会場で徹夜を覚悟していたあたしは

来客も途絶えた夜遅くに

その手紙を書こうとした。


けれど、書く内容が浮かばない。

「なんて書けばいいの」

あたしは困って、姉に聞いた。

「なんでもいいよ。シノが

 おばあちゃんに言いたいこと」

「そんなの」

ありすぎて書けない、と思うのだ。

「おばあちゃんとの思い出とかさ。

 シノの言葉で書けばいいよ」

姉は優しく言ってくれた。


あたしは紙に向かった。

『大好きなおばあちゃんへ』

と書いてみる。


大好きなおばあちゃん――


思い出を書こうとしたけれど

書けなかった。

あたしの目は涙でいっぱいになった。


思い出なんて、山ほどあった。

どれかひとつをとるなんて

とても無理な話だった。


おばあちゃんに伝えたい

感謝の気持ちも謝りたい気持ちも

あたしは今まで

山積みにしたままだったから

どれか一つをとることなんて

とてもできない話だった。


けれど書かなくちゃと思った。

大好きなおばあちゃんへ。

何度もタイトルを読む。

大好きなおばあちゃんへ。

それから……


結局あたしは、そこから一文字も

書くことが出来なかった。


書こうとしては泣けてきて

泣きつかれて、

とうとう眠ってしまった。




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