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Life is choice.  作者: 小野田ラコ
第3章 長い冬
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9.カオルさん中毒

ほのかな甘い香りとともに

柔らかい唇にそっと包みこまれた。


切なさで体が震える。

けれども、それは意外にも

すぐに離れていってしまった。


ぼんやり眼を開けると

目の前のカオルさんはニコリとして

ポン、とあたしの頭に手を乗せた。

「今日はここまでだな。

 ゆっくり休みなね、シノ」

「――」

え。まさか、それだけ?

たった、それだけ?


あっさり離れようとするカオルさんに

あたしはたまらなくなった。

咄嗟に、その腕を掴む。

「シノ?」

「――」

言葉ではとても言い表せないから

あたしは思い切った。


カオルさんに向かって両腕を伸ばした。

そのままカオルさんを引き寄せて

自分からその首に、巻きつく。

「わっ。ちょ、シノ」

強引に引き寄せられたカオルさんは

コンソールボックスに手をついた。


間にあるコンソールボックスは

はっきり言って、邪魔だった。


体勢を立て直したカオルさんは

身を乗りだして、あたしを抱きしめてくれた。

最初は優しく、それから強く。


あたしはカオルさんの首に頬を寄せた。

柔らかい熱がじんわりと伝わってくる。

甘い匂いを吸いこみながら

あたしはようやく、安心した。


「こら……シノ」

耳元で優しい声が響いた。

「せっかく我慢してるのに

 煽るんじゃないの」

「だって」


だって中毒なんだもん、と思う。

あたしはきっとカオルさん中毒。

カオルさんの甘い匂いと

それから――


カオルさんを見上げると

あたしの唇は再び包み込まれた。

――そう、これ。

柔らかいカオルさんの唇と

甘くなめらかな舌の。


あたしの期待に応えるかのように

カオルさんはキスをくれた。


嬉しかった。

実はずっとしたかった。

ドライブの間も

居酒屋にいる時からも

会った時からも本当はずっと

カオルさんとキスをしたかった。


あたしのささやかな(?)下心。

けれどどう考えたって

チャンスはこの帰り際しかなく

あたしはようやく

念願を果たしたんだった。


でも自分から仕掛けたわりには

あたしは、だんだん

たじろいできた。


カオルさんのキスは相変わらず

……ヤバイ。


身を引こうとした。けれど

片手で後頭部を押さえられ

キスはさらに深さを増した。


あたしはカオルさんにしがみついた。

こうなるともう敵わない。

カオルさんが離してくれるまで

あたしは絶対に、逃げられない。


苦しいほど攻められ翻弄され

トロトロに溶かされてから

あたしはようやく解放された。


ヘニョヘニョになったあたしを

カオルさんが抱きすくめる。

「シノだめだよ。可愛いすぎる」

細かいキスの雨が降る。

「離したくない。

 このまま連れて帰りたい」

カオルさんは切なそうに言い

力の限りあたしを抱きしめた。


あたしも出来るだけの力をこめて

(ほとんど力は入らなかったけれど)

カオルさんを抱きしめた。

二つの身体が溶けてくっ付いて

一つになってしまえばいいと願うように。

「あたしも、カオルさんといたい」

心からそう呟いた。


一緒にいたい、と

これほど思ったのは、もしかしたら

カオルさんが初めてかもしれない。


それまで付き合った、どの人とも

デートの終わりには、

一人になれることに安堵するような

どこか冷静な自分がいたりもした。

それが、今はなかった。

カオルさんはあたしにとって

特別な人なのかもしれない。


そんな感情に浸っている矢先、

あたしの左耳に

カオルさんが噛みついた。

「――っ!!!?」


あたしの耳は、弱い。

強烈な刺激に背中がしなる。

「カ……オルさん……っ」


離れようとしたけれど

がっちりとホールドされていて

無理だった。


耳元で何か音が鳴った。

ピアスだった。貰ったピアス。

それにカオルさんが歯をあてた。

カチリ、と音が鳴る。

「や……ダメ、カオルさん」

ぬるりと舌の感触まで。

「あっ、待っ……んっ」

痺れが腰を直撃した。


キスの上に、そんな事までされたら

あたしは歩いて部屋まで帰れない。

けれど抗う力もなかった。


その時、不意にカオルさんが離れた。

「シノ――」

「……?」

「そんな色っぽい声、出しちゃダメ。

 我慢できなくなる」

「な――――」

言葉を失うあたしに

カオルさんは見たことがないくらい

楽しそうな顔をして笑った。


カオルさんはあたしを抱き寄せた。

「好きだよ、シノ」

「……」

「大好きだから」

あたしは仕方なく、コクンと頷いた。


それからしばらくの間、

あたしたちは無言のまま抱き合った。


言葉は何もいらなかった。

ただただ、時間の限界が来るまで

抱きしめ合っていた。



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