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Life is choice.  作者: 小野田ラコ
第3章 長い冬
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6.女らしさとか自分らしさとか

生ビールを半分ほど一気に飲んで

あたしはようやく一息ついた。

「おいし」

ジョッキを置きながら笑いかけると、

カオルさんは、ドキリとするほど

魅力的に目を細めたので

あたしはなんとなく恥ずかしくなって

自分の髪を手でなでつけた。


店内には静かにボサノバが流れていて

その中に静かにざわめく人々の声。

やんわりとした薄灯りの中に

向かい合って座っている、あたしたち2人。


しまったなぁと、思った。

だってこれは紛れもなく、デート、なのだ。

いつもと変わらないあたし、ではなくて

もう少しオシャレな感じにすればよかったかと

気合いを入れなさ過ぎた自分を

ちょっと悔やんだ。


ニットにデニムの

この上なくシンプルな格好。


昼間は祖母の付き添いだった事もあるけれど

スカートくらい履いたらよかったかな、とか

せめて髪は下ろしといた方が良かったかな、とか

くだらないことを考えていた。


でも、そもそもなのだけれど

正直なところ、

気合の入れどころがよく分からなくて

あたしは度々、困るのだ。

だって相手は同じ、女性。


たとえ髪を巻いてみても、

マスカラを盛ってみても

少しばかり足や胸元を露出したとしても

なんだかそういう小手先のワザは

女性には、通用しない気がする。


今思えば、相手が男性なら色々と簡単だった。

自分は普通に 『女』 でいれば

それだけで許された。

けれど、同性の場合は?


女らしさとか、自分らしさとか

最近はそういうことについて特に疑問に思う。


自分の魅力って、一体なんなんだろう。

女であるあたしって、どうあるべきなんだろう。

カオルさんの前だと、なんだか自分を見失いそうで

時々不安になる。



「カオルさんは過去に、

 どんな人と付き合ってたの?」

3杯目のビールを頼んだところで

あたしは聞いた。


カオルさんはテーブルに肘をついて

ニヤリと笑った。

「どんな、って?」


「年下ですか? それとも、年上?」

「んー。年上も、年下もかな」


少し想像をしてみた。

カオルさんなら、そのどちらでも合いそうだった。


「どんな感じが、タイプなんですか?」

「どんなって、言ってもなぁ」


「可愛い系とか、美人系とかあるじゃないですか」

「なんで知りたいの、そんなこと」

「なんで……って、なんか、だって

 女の人が好きになる女の人って

 どんな感じなのかなと思って」

「ふうん? そんなこと思う?」

「そりゃ、思いますよ。

 どんな人がモテるのかなぁとか」


「普通だよ。普通に、女の子」

「普通、かぁ」


「じゃあ、シノの好みの男は?」

「え」

いきなり矛先を向けられて、あたしはドキンとした。

「そういえばさ、シノの元彼。

 わりといい男だったよね」

あたしは驚いて目を丸くした。

元彼とは、マナブのことだ。


前に、カオルさんはあたしとマナブの姿を

海で見かけたことはあると言っていたけれど。

「まさか、彼を知ってるんですか?」

「いや。シノと一緒にいるのを見て

 なんとなく覚えてるだけだよ」

「驚いた……よく、覚えてますね」

「まあね。

 せっかく可愛い子がいると思ったのに

 男がいたから、ちくしょうと思って」

と、悪戯っぽくカオルさんが笑うので

あたしも一緒になって笑って、ごまかした。


その時、男性の店員が飲み物を運んできたので

あたしたちはなんとなく沈黙した。


ふと思った。

あたしとカオルさんは他人の目には

どう映るんだろう。

やはり女友達にしか見えないんだろうか。

カップル、には見えないんだろうか。

だとしたら、なんだか少し寂しい気がした。


「そういえば、カオルさんはすごくモテるって」

あたしは3杯目の生ビールを口にしながら言った。

「カオルさんがモテるから

 ユッキーが悔しがってた」

「ユッキーが?」

カオルさんはクっと喉の奥で笑った。

「バカユッキー。

 そんなこと、ないって」

「最近は、その、バーとか。行ってないんですか?」

「ビアンバー? うん、行ってない」


カオルさんは、ノンアルコールビールを飲んでいる。

「元々、私はそんなに行かないよ。

 ユッキーはよく行ってるみたいだけど」

あたしはビールジョッキから滴る水滴を

なんとなく見つめていた。


「あれ……何。もしかして、心配?」

「え?」

「私がモテたら、心配?」

あたしはカオルさんの顔を見あげた。

「え?」


カオルさんは頬杖をついて、首を傾げて

ニヤリと笑みを浮かべる。

「心配?」

「えー……っと……?」


そう言われてみて

間抜けにも、あたしはようやく気が付いた。

あたしの発言は、つまりそういう事だった。


じわじわと顔が熱くなった。

「そーいう、わけじゃ、ないんですけど」

「そっか。心配してくれるんだ」

カオルさんは嬉しそうな顔をした。

「だから……違いますってば」

ふふ、と笑うカオルさん。


「シノだよ」

「?」

「私の好みのタイプは、シノ」

さらりと恥ずかしげもなくカオルさんは言う。

「シノみたいな、自然体な子が好きだよ。

 裏表がなくて、飾らない子が」


「で、でもあたし、あんまり、女らしくないけど」

「そうかな」

「飾りっ気がないのは……確かですけど」

メイクは5分で済ますような女で

香水も付けなければ、ネイルもしない。


「そこがいいんだよ。

 ゴテゴテ飾る女は好きじゃない」

「そう、なんですか」

「うん。

 ま、そう言っといて、なんなんだけど――」

「?」

言いながらカオルさんは自分の鞄を引き寄せると

おもむろに、その中から何かを取り出した。

「これさ、シノに」


テーブルの上に、トンと置かれたそれは

リボンがかけられた小さな箱だった。

「カオルさん、なに――?」

「過ぎちゃったけど一応、クリスマスプレゼント」

「そんな!」

「大したものじゃないけど」

「そんな。だってあたし、何も……!」


そうだったのだ。

クリスマスは過ぎてしまっていた。

けれどあたしはこのところの忙しさのおかげで

何も用意することが出来ないままでいた。


「気にしないで。私があげたかっただけだし」

「でも」

「いいから」

「でも」

「いいって言ってるでしょ」

あたしはシュンとなった。

申し訳ないやら、けれど、嬉しいやら。


あたしは小さな箱をそおっと手にした。

「あけてみて」

「え、今ですか?」

「うん」


あたしはドキドキしながら

その箱を開けた。



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