18.それも友情
ユッキーがお風呂から出たあとの
カオルさんのお酒のペースは
いつになく、速くなった。
あたしも、おさまらない顔の火照りを
お酒で上塗りするためハイペースで飲み
ユッキーは、元々の速さで飲み
いつしか3人ともが
かなりの酔っ払いになっていった。
ユッキーは終始、笑顔だった。
「カオちゃんとシノちゃんがいて
あたし幸せー!」
と、同じような事を
何度も繰り返し言っていた。
あたしも幸せだった。
カオルさんがいて
ユッキーがいて。
30も過ぎれば
親しかった友人たちは
様々な事情で疎遠になり
かと言って今となっては
学生の頃のような
何かを分かち合える程の友情は
もう二度と得られないものだと
思っていた。
セクシャルマイノリティ、
ただそれだけのことが
あたしたちに深い繋がりを
もたらしてくれたような気がする。
それに、この恋。
多分あたしは今、
初めて、恋というものを
しているんじゃないのかな。
そう思えるほど、
鼓動の一つ一つまで新鮮に聞こえ
些細な出来事ですら
キラキラした宝物のように
あたしの中に今、
蓄積されていっている。
こんな風に人を好きになることができて
大切な友人を得ることが出来て
あたしは、とても幸せだと思った。
「そろそろ布団、敷こうか」
珍しく頬の赤いカオルさんが
のっそりと立ち上がった。
ユッキーはサッとコタツに潜り込んだ。
「いいよカオちゃん。
あたしこのまま、コタツで寝る」
「ダメ。風邪ひくから」
「ひかないもーん」
「肌がカサカサになるよ」
「……」
カオルさんは無造作にユッキーをどけると
コタツを部屋の隅へやり
手際よく、布団を敷いた。
ユッキーは敷かれたばかりの
その布団に潜り込んだ。
「冷たーい! お布団冷たい!」
「当たり前でしょ」
「さむ。ね、シノちゃんおいでー?
寒いから、一緒に寝よー」
手招きされて、酔っ払いのあたしは
ケラケラと笑っていたけれど
カオルさんはユッキーの頭を
ペシンと叩いていた。
「あは。怒られちゃった」
「シノの布団も敷くから、
もっとそっち行って」
するとユッキーが嬉しそうに笑った。
「やった。お隣ラッキー!」
「……」
「ん? カオちゃん寂しい?」
「バカ」
「あたしったら、寝相悪いからなー。
シノちゃんに抱きついても
カオちゃん怒っちゃヤダからねー」
「……」
ニヤニヤしているユッキーと
眉間にシワを寄せたカオルさん。
あたしは酔いでフワフワしながら
面白い二人のやりとりを見ていた。
「そういえば昔カオちゃんに
あたし抱きついたコトあったなー」
「ああ……嫌なこと思い出した」
カオルさんは天井を仰ぎ
ユッキーはニシシ、と笑った。
「聞いて、シノちゃん。昔さ
あたしが失恋ショックで荒れてた時、
あたし酔って、カオちゃんに
襲いかかろうとした事あるんだよね」
「ホント?」
「うん。けどカオちゃんに
ベッドから突き落とされた」
ユッキーはゲラゲラと笑った。
「カオちゃん襲うなんて
あたしもよっぽどだったわー!」
カオルさんは、げんなりとした。
「あれは最悪だった。マジで」
「だから、ねーカオちゃん。
シノちゃんが心配ならさー
今のあたしの隣はマズイよ?
あたしは嬉しいけどさ」
カオルさんは少し考えてから
振り返って、あたしを見た。
「シノ……このユッキーの隣で
大丈夫?」
大丈夫って、何がどう大丈夫なのか
いまいちピンとこなかった。
あたしはニコニコしながら
首をかしげた。
「それとも……」
カオルさんは一呼吸おいた。
「私と一緒に、寝る?」
そう聞かれた酔っ払いのシノは
明るく返事をしていた。
「うん!」
(翌日、あたしはこの時のことを
よく覚えていなかった)
ユッキーが小さく言った。
「やったねーカオちゃん」
カオルさんも小さく呟いた。
「……悪魔か」
かくして、ユッキーはリビングに、
あたしとカオルさんは
襖を開け放した隣の寝室のベッドで
一緒に寝る事になった。
二日酔い確定の酔っ払いシノは
足取り怪しくも、なんとか
ベッドに潜り込んでいた。
リビングの布団から
頭だけを起こして
ユッキーが小さく声を掛ける。
「カオちゃん、悪さしちゃダメだよ」
「できる訳ないでしょ」
「だよね。おやすみー」
電気を消すと
いくらもしないうちに
ユッキーの寝息が聞こえ始めた。
カオルさんはゆっくりと
ベッドに体を横たえた。
セミダブルのベッドは
二人の間にわずかな隙間を作り
体温だけを柔らかく伝える。
カオルさんの匂い。
甘いぬくもり。
あたしは酔いの渦に吸い込まれ
ほぼ気を失うように
眠りに落ちていった。




