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Life is choice.  作者: 小野田ラコ
第2章 彼女のカノジョ
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14.恋は業だと誰かが言ったような

ユッキーが元カノさんに出会ったのは

ビアンバーだったという。

それが、約5年前。

バーで知り合い、2人は恋人同士になった。


「結婚してるのも、子供がいるのも

 最初から知ってたけどね。

 けどそんなの、どうでもいいと思ってた」


初めのうちは軽い気持ちで

けれどそれが少しづつユッキーにとって

特別なものになっていったという。


「あんな風に人を好きになった事、なかったんだ。

 あたし本当に、彼女の事、好きで好きで。

 だんだん、どうしようもなくなっちゃったの」


元カノさんには家庭があって

会う時間が限られている。


それならばと、少しでも会う時間をと

驚く事にユッキーはそのためだけに

彼女の近くへ引っ越したのだ。

それが今の住み家になっている。


それまでは、遠距離とはいかないまでも

今のあたしとカオルさんくらいの距離は

あったらしい。


近くに住むようになったおかげで

2人はお互いに、金銭的にも時間的にも

負担が少なく会えるようになり

ユッキーはその時の事を

とても幸せだったと語った。


ユッキーにとっても

元カノさんにとっても

同性の恋人は互いが初めてであり

ようやく自分の魂の居場所を

見つけられたと思った、と言った。


けれど、幸せな時間は

それほど長くは続かなかった。


1年、2年……時を重ねていけば

どんな恋も、落ち着いていく。

まわりのものが、先が、

見えてくるようになる。


「けどあたしは彼女を家族から奪おうだなんて

 そんなコトは考えなかった。

 ただ近くにいれれば、それで良かったのに」


しかしユッキーの想いとは裏腹に、彼女の方は

自分の家族と、ユッキーへの愛情とで

一人苦悩するようになった。


家族への罪悪感。

ユッキーへの、罪悪感。


どちらも愛そうとすればするほど

それは逆に彼女の苦しみとなって

重く降り積もっていった。


「結果的に、あたしが元カノを

 追い詰めちゃったんだよね」

悔やんでも悔やみきれないと

ユッキーは悲しそうに言った。


ユッキーの純粋で真っ直ぐな愛情は

家庭のある彼女にとってはむしろ

残酷だったのかもしれない。


両方を愛するがゆえに

心のバランスを崩していく彼女。


「もう見ていられなかった」

ユッキーがそう言うほど

彼女は心身ともに

ボロボロになっていった。


彼女をそこから救い出すために

ユッキーはとうとう

別れることを選択した。


その決定的な衝撃で、彼女は入院し

以来、2人が会う事はなかった。


その時、お酒に溺れるユッキーを

面倒見てくれていたのが

カオルさんだったという。


それが、2年近く前の話。


それから初めて、今日

2人は再会したんだった。


元カノさんは以前のように

すっかり元気になっていたと

ユッキーはとても嬉しそうに語った。


「ずっと心配してたんだけど

 こっちから連絡する訳にもいかなくてさ」


淡々と語るユッキーの声。

あたしは、何かを言う事も出来ず

ただ頷きながら、聞いていた。


なんて、ヘビーな話。

ショックだった。

これほどヘビーな過去だったとは

思いもしなかった。


あたしには、ない。

そんな身を切られるような恋愛は。

それほど人を愛したことは

多分、ない。


ユッキーにかける言葉が

あたしには見つからなかった。


どんなに辛かっただろう。

どんなに、苦しかったんだろう。


「良かったね……また、会えて」

ウマイ言葉は言えないけれど

あたしはなんとかそう言って

ユッキーを見た。


ユッキーは微笑んだ。

「うん。ほんと。また会えて、

 ほんとに、嬉しかった」


風でユッキーの髪が揺れて

冷たい空気の中に

花の香りが飛んで行った。



「……それで?」

少しの沈黙の後、

あたしはもう一度、聞いた。

「それでもやり直す、とかは、ないの?」


「うーん。実はそれっぽいコト、

 言われたんだけど、さー」


「そのつもりだったとか。元カノさん」

「違うよ。

 元気になった姿を見せたかったって。

 それにお礼と、お詫びと――

 ついでに、そんな話にもなったけど」

「ふうん?」


「でも同じコトの繰り返しになるしね、きっと」

「……うん」

「だからお互いに、次に進もうって話で。

 そんで、終わり」

「そっか」

「うん」


はぁーっと、息で

両手を温めているユッキーの横顔を見る。

ユッキーの目元が腫れているのは

冷たい北風のせいだけじゃないだろうと思った。


「すごく、大好きだったんだね」

あたしはボソリと呟いた。


きっと、今も好きなんだろうと思った。

どうにも消えない想いが

いつか薄れてくれるまで、ユッキーは……


「シノちゃん」

「え? わっ!」


横から急にガバッと、

ユッキーに抱きつかれた。

「シノちゃんサンキュー!」


「ちょ、ユッキー」

「ありがと。聞いてくれて」

ユッキーの腕に力が入る。

「話せてよかった」


「ちょっと、苦しいってば」

「だって嬉しくて」

「分かったから」


「いいねシノちゃんて」

「は?」

「ほんと、癒し系」

「はぁ?」


「大好き」

「はいはい。もー。分かった、分かったからー」


あたしはユッキーの冷たい背中を

ポンポンと叩いた。


その時ちょうど、車のヘッドライトが

あたしたち2人を照らしながら

駐車場に入ってきた。


あたしたちは同時に声を上げた。

「カオルさん」

「あ、カオちゃんだ」


車はまっすぐ所定の位置に入って

停まった。


あたしたちが駆け寄ると

車から降りたカオルさんが

呆れたような声で言った。

「何してんの、こんなトコで。二人して」


あたしもユッキーも

すっかりかじかんだ顔で

ニヘラと笑った。



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