13.寒空の下で
月曜日は、とても寒い日だった。
12月。
いよいよ本格的に、寒い。
どんよりグレー色の雲は
雪を孕んでいそう見えた。
あたしは夜勤明けで仮眠をとったあと
車でカオルさんのアパートに向かった。
節約のため高速を使わずに、国道を行く。
師走のせいか、あちらこちらで工事をしていて
着くまでに3時間近くかかった。
遠いと思った。せめてもう少し、
あと1時間でも近ければと思う。
そうすれば、もっと会いに行けるのに。
カオルさんのアパートに着いた時には
辺りはすっかり暗くなっていた。
けれど駐車場には
カオルさんの車はまだなかった。
仕事から、帰ってきていない。
これでも来るのが少し早かったかなと
あたしはひとまず車の中で
カオルさんを待つ事にした。
エンジンを切ると
車内はすぐに肌寒くなってくる。
あたしは助手席に置いてあった
ダウンジャケットを着込んだ。
薄暗い駐車場を、オレンジ色の街灯が
ぼんやりと照らしている。
ここへ、もうすぐカオルさんが帰ってくる。
カオルさんに会えるのだと思うと
毎回のことながら、心臓がドキドキした。
この心臓はいつになったら
ドキドキしなくなるのだろう。
そんな事を考えながら髪を整えていると
ふと駐車場の片隅に
車の停まっていない、輪留めのところに
誰かが座り込んでいるのに気が付いた。
どうしてそんなところに、と思った。
寒空の下で、寒そうに膝を抱えて
背中を丸めている。
白いコートが
薄闇に浮き上がっている。
そこにかかる、茶色く長い、豊かな髪。
あたしは眉をひそめた。
「……ユッキー……?」
そうだと気が付いたあたしは
慌てて車を降りていた。
「ユッキー!」
ユッキーは膝から顔をあげた。
「シノちゃーん」
「どうしたの、こんなトコで。寒いのに」
「うん、今日めっちゃ寒いねー」
すぐ横に停まっているのは
よく見ればユッキーの車だった。
「早く着きすぎちゃってさー。
カオちゃんね、ちょっとだけ残業だって」
「そうなの?」
「ちょっとだけ、って言ってたけどね。
シノちゃんに遅れるからゴメンて、伝言」
「そっか」
そんなことよりも
ユッキーの鼻が赤いのが気になる。
寒いから車の中に……
と思ったけれど
ユッキーは膝を抱えたまま
動こうとしない。
あたしはとりあえず
ユッキーの隣に腰を下ろした。
おもむろにユッキーが言った。
「さっきまでさ、元カノに会ってたんだ」
あたしは目を丸くした。
「そ……だったんだ。 会ってたんだ」
「うん」
「そっか。
カオルさんから、聞いてはいたんだけど。
ユッキーが元カノさんと何かあるって」
「うん。だから、ゴメンねー。
お邪魔しちゃうことになっちゃってー」
ユッキーはエヘヘ、と笑った。
「いいよそんなの。
それで……どうだったの? 元カノさん」
「うーん。それがさー」
ユッキーは抱えた膝に
顎を乗せた。
「なんか久しぶりにお茶でもーって
誘われたから、行ったんだけどー」
「うん」
「やっぱすごく、イイ女だった」
「は?」
あたしの声にユッキーはケラケラと笑った。
「だってもうホント。可愛くて、色っぽくてさー。
やっぱめちゃタイプなんだよねー」
「……」
「あーもう、やんなっちゃう。
やっぱ好きだって思い知らされてきちゃった」
「……復縁、するの?」
「ううん、しない」
ユッキーはきっぱりと言った。
「終わりにしてきた」
ユッキーの横顔は
街灯が逆光になってしまい
その表情がよく分からなかった。
「ねぇ、シノちゃん。
カオちゃんが帰ってくるまで
愚痴聞いてくれる?」
「もちろん」
「よかった。カオちゃんは元カノのこと
あんまし、いい顔しないからさ」
「なんで?」
「元カノ、既婚者だから。子供もいるし。
要は不倫ってやつだったからさー」




