11.決まっている答え
久しぶりに会った祖母は
また一回り、小さくなっているような気がした。
病院の4階、4人部屋。
廊下側の薄暗いカーテンの中で
ベッドの上の祖母は、あたしを見ると
にっこりと笑った。
「よう来たな」
痛み止めが効いているのか
思ったよりも元気そうに見えて
あたしはホッと胸をなでおろした。
病棟の隅にある面談室は
うちの身内で溢れかえっていた。
祖母には、父を含め5人の子供がいる。
みな近くに住んでいたから
それぞれの家族も連れだって
ほぼ一族全員が、そこに集結していた。
何人かは直接、医師からの説明を聞いたようで
すでに家族会議が始まっている。
あたしがひょっこり顔を出すと
叔父や叔母たちの視線が集まった。
「シノちゃん! 久しぶりだねぇ」
「あらまぁ。見ないうちにべっぴんさんになって」
「今日は仕事は大丈夫だったの?」
勢いよく四方八方から声をかけられて
相変わらずだな、とあたしは内心で笑った。
あたしの父は、叔母たちの勢いを避けるように
面談室の隅の方でウロウロとしていた。
母はというと、要領よく笑みを浮かべ、座っている。
その向こうから、姉が近づいてきて
困ったように微笑みながら言った。
「大変なことになっちゃったよ」
「うん……そうだね」
姉は結婚していて、実家からは
少し離れたところで暮らしている。
父と母と、祖母。
あの家には、今は3人しかいない。
「シノはどう思う? 手術。
お父さんたちも、叔母さんたちも
治してあげたいとは、思ってるみたいけど」
あたしは淡々と言った。
「手術自体は 大丈夫と思うよ。
ただ、その後が、ね」
「そんなに厳しい?」
「分からない。術後の合併症とか
何もなくスムーズにいくこともあるけど
いかないこともあるから」
「でも、ここままじゃ、寝たきりだよね」
「うん。それいに近いと思う」
姉は唇をかみしめた。
「そんなの、おばあちゃんが可哀そうだ」
「なぁシノちゃん。手術させたっても、いいよなぁ?」
叔母たちがゆっくりと近寄ってくる。
「あの歳になって、寝たきりで
あと何年か生きるよりは
頑張ってみた方が、いいと思うんよ」
その言葉に、皆が頷く。
「どっちにしても、大変かもしれんけど
皆で交代で、面倒見るし」
「おばあさんなら大丈夫やわ。丈夫な人だで」
「そうそう。去年、手術した時だって――」
去年。そうなのだ。祖母は去年、
大腸の腫瘍が見つかり、手術した。
皆の心配をよそに、驚くほど順調に回復した。
腫瘍を全て取り去る事はできなかったけれど。
「リハビリだって、またあたしら頑張って手伝うし」
「そうそう。それでまた、家に帰れれば、な」
「な」
すると父が、どこからともなく輪に入り
「手術する方向で、ええかな」
と、穏やかな口調で言った。
あたしは父を見た。
「おばあちゃんは、手術したいってさ。
寝たきりは、やだって」
父は微笑み、あたしも微笑んだ。
「そんなら、な」
そうして、話し合いは丸くおさまった。
手術をする事が決まり、一族は活気づいた。
不安は捨てきれないものの
誰もが治ると信じて疑わず
何より、皆が協力的だった。
愛されている祖母、
情の深い家族たち。
あたしは誇りにも思った。




