8.待って
相手がいくら女性でも
カオルさんの力には敵わなかった。
「や……駄目、です……って」
「ん? 何もしてないよ」
笑いを含んだ声で、カオルさんが言う。
確かに、大したことはされていなかった。
ただ、首元から耳にかけて。唇が触れ
温かい息が、かかるだけで。
けれどそれだけでも、十分だった。
ゾワゾワと全身の毛が逆立ち
腰のあたりの一点に、痺れが集中していく。
身体がヘンな動きをしてしまわないように
あたしは必死で耐えるしかなかった。
「弱いね」
カオルさんは意地悪く囁いた。
さらには、あたしの耳たぶを、噛んだ。
「ん――っ」
思わず鼻から声が漏れてしまった。
必死に耐えていた身体がしなる。
「可愛い、シノ」
声が、直接耳に入り込む。
「や、駄目。やめて、カオルさん」
「……無理だよ」
さらに湿った舌が、首を這い
柔らかな唇が吸い付いた。
あたしは力の入らなくなった手で
カオルさんの背中をパシパシと叩く。
「待ってカオルさん。ね、待って」
抗いがたい快感は、さておき
あたしにはそれ以前に問題があった。
髪に海の匂いがするのなら、あたしの首は
……しょっぱいかもしれない。
不味そうだった。
せめてキレイな身体ならと
妙な乙女心が先に立つ。
「駄目。カオルさんお願い。待って」
唇は執拗に耳元を攻めてくる。
「だ……め、だって、ば……」
あたしはなんとか身体をよじって
逃れようとした。
けれど、それがいけなかった。
バランスを崩したあたしの身体は
カオルさんの重みと共に、ソファへ倒れ込んでしまう。
あえなく押し倒されたような格好で
あたしはカオルさんを見上げた。
「ま、待って。カオルさん」
――ギシリ。
ソファの軋む音と共に
カオルさんが片方の足をソファに上げた。
カオルさんの手は、あたしの肩にかかった。
両肩が抑えられ、足にはカオルさんの体重が乗り
あたしは完全に身動きがとれなくなる。
「カ、カオルさん?」
あたしは笑ってみたけれど
カオルさんは、何故か無表情だった。
「カオルさん? ね、ちょっと、待っ――」




