7.一難去ってまた一難
「シノは海の匂いがする」
カオルさんがあたしの髪に
顔をうずめながら言った。
そういえば午前中は、海に入っていた。
海から上がったあとは、いつものように
ポリタンクで水を浴びただけだった。
「い……磯臭い、って、ことですか?」
カオルさんはククッと肩を震わせた。
「違うよ。潮風と、太陽の匂い」
それでも決していい匂いでは
ないだろうに、と思う。
「いいね、シノは」
「は?」
「いい」
カオルさんの腕に力が入る。
「……苦しい、カオルさん」
「うん」
きつく抱きしめられながら
どうして、いつの間に、こんなにも
好きになってもらえたんだろうと思った。
あたしも手に力を込めて
カオルさんの背中を抱きしめる。
好きの気持ちが、とろーりと
身体から溶け出していくような気がした。
カオルさんが少し体を離して
あたしの顔を覗き込んだ。
今度は、ゆっくりとキスを交わした。
さっきのような荒々しさはなく
優しい、けれど深いキスを、ゆっくりと。
文字通り、溶けるような甘いキスだった。
カオルさんは……たぶんキスが上手いんだと思う。
唇が離れてもあたしの瞼は閉じたままで
そこにも温かいキスが降りた。
瞼、それから額にも、頬にも。顔中に。
それからまた唇へと戻り
あたしは再び幸せな甘さで満たされた。
カオルさんはやっぱり甘い、と思う。
この唇と、舌の感触。
なめらかな感触のせいなのか
はたまた、唾液の成分が違うのか
男性のそれとは違ってとろけるように甘くて
すればするほど、もっとほしくなる気がする。
キスでそんな風に思った事は、今までになかった。
相手が女性だから、なのだろうか。
長いキスを終えたあたしは
マタタビを与えられたネコのように
カオルさんに抱きついた。
何を怖がっていたんだろうと思った。
カオルさんは、こんなにも優しい。
「可愛いな……シノは。本当に」
カオルさんはあたしの髪をかき分け
首筋に鼻をこすりつけた。
「!」
首筋に温かい息がかかり
甘い酔いは一気に覚めた。
あたしの首筋は尋常じゃなく弱い。
例えば美容院で、少し手やハサミが触れたり
ドライヤーの風が当たるだけでも、駄目だった。
そのせいで美容院へ行くのが、億劫になるほど。
あたしはそおっと首を捩じって
せめて髪で、首が隠れるようにしようと、
したけれど、ダメだった。
カオルさんはあたしの髪をよけて
そこにキスをした。
唇の間から、生暖かい感触が伝わる。
「――っ」
首から腰へ、一直線に強い刺激が走った。
背中がしなりそうになるのを、
なんとか力でこらえる。
「か……オルさん、ちょっと、待って?」
「……なに?」
その口調には、明らかに
何かが含まれていた。




