24.スキ、なのに
ドレホド、カオルサンガ、スキカ――?
急に黙りこくってしまったあたしの顔を
カオルさんが心配そうに覗き込んだ。
「シノ……?」
テレビの音が小さくなり
鼓動の音が大きくなった気がした。
喉元に言葉がつかえる。
準備していた言葉が、出てこない。
カオルさんは、あたしの憧れです。
今は誰よりカオルさんが好きです。
でもできればこのまま変わらず、
友達でいてください、と。
でも、そのどれもが出てこなかった。
言いたい事が、今は違う気がする。
沈黙するあたしに、カオルさんが
申し訳なさそうに言った。
「ごめん。そんなに困らせるつもりじゃなかった。
……ただ……」
言いかけて、カオルさんは肩を落とした。
「ごめん。迷惑だったよね」
カオルさんの落ち込む姿にあたしはハッとした。
「違う、違います。迷惑なんかじゃ」
カオルさんは表情を引き締めた。
「迷惑なのは分かってた。でも伝えたかった。
私のわがままで困らせて、ほんと、ごめん」
「だから迷惑だなんて……」
そうじゃないのに、と思う。
「ちゃんと考えてくれて、ありがとう。
でも、もう忘れて」
「え?」
「シノとは仲間として上手くやっていきたい。
だからあれはもう、忘れてくれていいから」
「そんな――」
忘れて。
その言葉に、あたしの中の何かが、
ぶつりと切れた気がした。
「無理です」
自分でも驚くほどきっぱりと言葉が出た。
「無理です、忘れるなんて。嫌です」
「シノ……?」
「だって好きなのに」
「え――――え?」
今度はカオルさんが目を丸くした。
あたしの目頭はなんだか熱くなっていた。
悲しみよりも、なんだか怒りたいような
変な感情だった。
「そんなに簡単に忘れないでください」
「ちょっと待ってシノ。今なんて?」
「……」
「もっかい、言って」
「そ……れは無理です。恥ずかしくて」
「シノ」
「でも、あたしじゃ駄目なんです」
「駄目? どうして」
「だって……自信ないもん」
あたしは力なくうな垂れた。
「どうしたらいいのか
あたし、分かんない……」
カオルさんはソファにもたれかかると
大きく息を吸い、
静かに長く長く吐いた。
あたしは俯いて、床ばかりを見ている。
しばらくして、優しい声が響いた。
「ちょっとこっちにおいで、シノ」
カオルさんの手が
ポンポンと、その横のソファを叩く。
「……」
「いいから。おいで」
あたしは情けない顔をあげると
のそのそと立ち上がった。
かろうじて涙は出なかった。
ソファの端っこに腰を下ろすと
カオルさんの手が伸びてきて
あたしの頭を撫でる。
「シノ」
あたしは目を瞑った。
カオルさんが近づいてきて
そおっと引き寄せられた時も
身動きできないままでいた。
あたしはまるで傾いた地蔵のようになって
カオルさんの腕の中におさまる。
「シノ。……シノ」
何度もあたしの名前が呼ばれる。
鼻先にカオルさんの匂いがして
ムズムズと幸せに包まれていくのが分かった。
嬉しかった。
ようやく、近づけたのだと思った。
けれどいくら嬉しくても、相手は同性で
女性に抱きしめられているという現実は
自分にとって衝撃的な出来事であるのに変わりはなく
あたしの身体は強張ったままだった。
しばらくそのまま沈黙が続いた。
その時、ふとカオルさんから、
自分と同じくらいの鼓動を感じた。
ほんの少しだけ触れ合っている肩から、首から
その拍動が伝わってくる。
あたしの鼓動と変わらないくらい。
違う、それよりも早くて大きな鼓動――
カオルさん。
あたしは宙ぶらりんになっていた両手を
おそるおそる上げて
カオルさんのスウェットの端を掴んだ。




