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Life is choice.  作者: 小野田ラコ
第1章 はじまりのはじまり
18/85

18.思わぬ展開に

カオルさんの部屋は海の匂いがする、と思った。

ボードワックスの香りと、ウェットスーツの匂い。

それに潮風の匂い。

素敵だな、とあたしは思った。


部屋自体は古く、昭和の雰囲気がした。

低い天井に、やや軋むつるつるとした板張りの床。

どこか懐かしい感じがする。


築年数の古い、その時代には一般的だった

間取りは3DKかな、とあたしは思った。

親が内装業をしているので、ついそういう目で見てしまう。

でも古いけれどよく手入れされた、いい建物だった。


カオルさんは帰宅したばかりだったようで

散らばった本や雑誌を適当に片付けていた。

「よく来たね、シノ。散らかってるけど適当にやってて。

 ユッキー! 私ちょっとシャワー浴びるから、任せるよ」

「ハイよー」


ユッキーは勝手知ったると言う感じで

キッチンで準備を始める。

あたしはさっさと浴室に向かったカオルさんを

呆然と見送りながら、ひとまずそれを手伝い始めた。


「カオちゃんちはね、よく友達が来るから慣れてんの」

「そうなの?」

「海が近いでしょ。だから遠い仲間とかもね、泊まりに」

「あーなるほど」

友達を招くのは特別な事ではないと知って

ホッとしたような残念のような、複雑な気持ちだった。


「んで、カオちゃんは飲むだけ飲むと寝ちゃうから

 だからいっつも先にシャワー済ませちゃうの」

「お酒弱いの? カオルさん」

「まさかまさか。めちゃ強いよ。でもあの人、朝早いじゃん?

 海行くために、どんなに盛り上がってても先に寝ちゃう」

「あは。カオルさんらしい」


「サーフィンバカだからねぇ、カオちゃんは。

 あんなんだから、彼女もできないんだよねぇ」

「でもカオルさん、モテそうだよね」

「あーもう、ほんと、めっちゃモテるよ。

 けどさ、毎日海で、週末も海だよ?

 ロクにデートもしてあげないの。

 それでたいていカオちゃんが、フラれんの」


あたしは笑った。

「そりゃ仕方ないよ。サーファーなんだから」

「って言ってもさぁ。それでフラれて

 落ち込むんだよカオちゃん。不毛すぎるし」

だったら相手もサーファーならいいのにね、と

つい言いそうになって、やめた。


あたしは買ってきたお惣菜を皿に移し替えると

それを隣のリビングに運んだ。


木製のローテブル。

壁面には大きなラタンのソファがある。

何も敷かれていない床には

おそらく海からついてきた砂が、少しザラついていた。

「でも、いいよね。海中心の生活。あたしは憧れるな」


ユッキーはコップと箸を持ってきて並べた。

「シノちゃんも、こっちに引っ越して来たらいいのに。

 看護師さんだったら、いいよね。どこでも働ける」

「うん……まぁ、そうなんだけどね」

「って言っても、海以外なんもない田舎だけど」


「ユッキーもサーフィンのために、こっちに?」

「んー、あたしの場合はストーカーかなー」

「ストーカー⁉」

「うそだよ、うそ。でも似たようなもん。

 惚れた人が住んでたの。フラれちゃったけどね」

「女の人?」

「そ、女。……あたしの初めての、オンナ」

ふと、ユッキーの明るい顔に影が落ちたと思った。

「……どんな人だったの?」


聞こうと思った時、カオルさんが浴室から出てきた。

「何、ユッキーの元カノのハナシ?」

湯上りのカオルさんは、スエット姿だった。

首にかけたタオルで無造作に髪を拭いている。


濡れた姿はいつも見ている筈なのに、

なんだか新鮮だなと思った。


「あの女の話はもうやめなよユッキー」

「分かってるってば」


カオルさんは真っ直ぐに冷蔵庫へ向かうと

缶ビールを取り出した。

「ユッキー何飲む?」

「ウーロン茶よろしくー」


「シノは?」

「あ、あたしも、ウーロン茶で」

カオルさんに準備させては悪いと思い

慌ててキッチンに向かった。


カオルさんからウーロン茶のボトルを受け取ると

もう片方の手に、缶ビールが差し出された。

「飲みなよ」

「え? でもあたし、車で」

「泊まってけばいいよ」


カオルさんはさらりと言い

あたしの心臓はドクンと鳴り

視界の端ではユッキーが

ニヤリと笑った気がした。



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