17.本物のオッサン女子
「えーっ、カオちゃんちに?」
昼になってユッキーが来たので
あたしはさっそくその旨を伝えた。
「ユッキーは仕事、何時からだっけ?」
「夜9時までに行けばいいから大丈夫なんだけどー。
そっかカオちゃんがねー。カオちゃんちにねー。
そっかー……カオちゃんめー」
「? 何か予定あった?」
「あ、ううん。ないない。 じゃあとりあえずランチして
そっからお買い物に行こっか」
「うん」
ユッキーが来たら一緒に波乗りをするつもりだったけれど
やはり午後からの風が強く波は無くなってしまったので
サーフィンは中止にした。
あたしはユッキーに連れられるままランチに行き、
その後、海から少し離れた街まで車を走らせ
大型のショッピングモールに向かった。
時間潰しに2人でウィンドーショッピングを楽しむ。
ユッキーは服やバッグ、雑貨など、カワイイものを見つけては
キャアキャアとはしゃいだ。
こうしているとユッキーはごく普通の女の子にしか見えない。
どこにその 『男脳』 を隠し持っているのかと不思議に思う。
服装も、とても女の子らしい。
けれどどうして、やっぱり、だった。
ユッキーはすれ違った女性を横目で見ながら
「さっきの子見たー? エロかったねー」
と言った。
「エ……?」
「さっきの。ほら、胸の谷間がいい感じでー」
「ちょ、どこ見てんの!」
「ドコって、そういうトコー」
言われてみてあたしはようやく気が付いた。
ユッキーの視線の先にはカワイイものと
カワイイ女の子がいる。
あたしはその様子が可愛くておかしくて、笑ってしまった。
まさかこんな女の子に、エロい目で見られてるとは
ほとんどの人が気が付かないに違いない。
ユッキーはその後も時折、エロネタを振ってきた。
あたしをからかっているのか、いつもそうなのか
それともあたしに免疫をつけさせてくれているのか。
雑貨屋に入った時などは、マッサージ器を手にして
ニヤリと笑った。その姿はもう男脳を通り越して
オッサンだねと言って笑い合った。
あちこと歩き回った後、カフェで一休みしてから
買い出しに向かった。
ユッキーが言うには、カオルさんは料理が上手だから
本当なら何か作ってもらいたいらしい。
でも今回は時間がないからと、お惣菜を買う事にした。
「カオルさん、料理得意なんだ。すごいね」
「うん、カオちゃんはすごいよ。なんでも作っちゃう」
「あたし料理苦手」
「そなの?」
「料理と裁縫が苦手」
「あ、分かるー。あたしもそれダメ」
「それと算数。この30%引きとか、やめてほしい」
「あ、超分かるー!」
ユッキーとは意外なところで気が合うみたいだった。
カオルさんの住んでいるアパートは
本当に海の近くにあった。
とは言っても、防風林と道路を隔てているので
海が見える訳ではないけれど。
ユッキーの案内でアパートの階段を登る。
決して新しいとは言えない2階建ての建物。
稲刈りのすんだ田んぼの匂いが
どこからともなく漂ってきていた。
「カオちゃんお邪魔ー」
インターホンも鳴らさずにユッキーがドアを開けると
奥からカオルさんの声がした。
「入ってー」
「お邪魔しまーす」
玄関に入ると、ココナッツのような甘い香りがした。