10.嫉妬と妬み
風が冷たく、肌寒くなってきている。
日曜の海はそれでも多くのサーファーたちで賑わっていた。
あたしはいつも通りにカオルさんと
それから他の仲間たちと、海に入っていた。
今日はコータもいる。
あの一件を聞かされてから少し身構えてしまったけれども
コータもそれとなく感じ取っていたのか
今は普通に、仲間として気さくに接してくれている。
ありがたいと思った。
男女の微妙な問題は、いつなんどき
仲間の間に亀裂を産みだすか分からない。
それは友達同士でも、同じかもしれないけど。
その日のあたしは、面白くなかった。というのも
今日はカオルさんの近くに、見たことのない、
あたしの知らない女の子がいたからだ。
カオルさんとはとても親しげな様子で、
あたしは近寄りがたくて、なんとなく距離をとった。
キレイな子だった。
キレイと言うか、可愛いというか
コロコロと喋っては、明るい笑い声を立てた。
その子を見て、カオルさんが笑っている。
あたしの見た事のないような顔で
彼女をからかったりしている。
黒いものがモヤモヤした。
嫉妬。……そして妬み。
あたしは自分に呆れた。
なんて身勝手で、幼稚なんだろう。
こんな自分は、大嫌いだ。
あたしは決めた。
今日は海から上がったら、さっさと帰ろう。
帰ったら好きなお菓子とお酒を、手の届くところに並べて
ゴロゴロとひたすらDVDでも観て過ごそう。
出来れば思い切り泣ける映画がいい。
お昼を過ぎる頃、あたしは誰より最後に海からあがった。
みんながランチに行くのを、着替えながら見送るつもりだった。
今日は用事があるから帰ると、カオルさんにも言うつもりで。
「え……帰るの?」
あたしが言うと、カオルさんは意外にも
あからさまに残念そうな顔をした。
「なんか、用事? 急ぐ?」
「急ぐ……ってほどでも、ないけど……」
決心が鈍ってしまいそうだった。
「ゴハン行こーよー! 一緒にぃ」
その時ひょっこり車の陰から顔を出したのは
さっきの女の子だった。
「あ、あたしユッキー。カオちゃんの友達。よろしくー」
あたし、その勢いにちょっと気圧されてしまった。
人見知りする自分とは雲泥の差の
……馴れ馴れしさ。
「こら、ユッキー。あんたより年上!」
カオルさんがユッキーの頭をペンと叩いた。
「ごめんごめーん。でもさ、ま、いいじゃんね?」
ウィンクしてニッコリと笑ったユッキーは
悔しいけれど、ものすごくキュートだった。
男ならこれでイチコロに違いない。
「で、ゴハン。行こ? 3人で」
「え……」
3人? この3人?
正直、イヤだと思ってしまった。
なんて心の狭いあたし。
「でも……あたしは、いいよ。お邪魔になっちゃうし」
「お邪魔だなんて、そんなー……って、え?
違うよ? 誤解しちゃダメだよ?
あたしとカオちゃん、そーゆーんじゃないからぁー」
「……?」
「ちょ、ユッキー!!!」
カオルさんが隣で、思いがけず大きな声を出したので
あたしはビックリした。
「あ、ゴメン」
「誤解って?」
あたしがキョトンとしていると
ユッキーは気まずそうな顔をした。
「えーっとー……なんでもない」
なんでもないって、そんなバカな。
あたしは問うようにカオルさんを見上げた。
「いや、シノには、関係ないコトだから」
「え……」
関係ないって。
そんな。
多分その時のあたし、ものすごく
情けない顔をしたんじゃないかと思う。
「ちょ、ダメだよカオちゃん! そんな言い方したら!
大丈夫、ごめん、ちゃんと説明するから、ね」
ユッキーが慌ててあたしにそう言った。