ドッペルゲンガー
世界には、自分と似た人が3人いると聞いたことはあるけれど。
「今朝この道通ったでしょ。イヤホンつけてスマホ持ってたから、音楽聞いてたのかな。確か8時前だったと思う」
8時前にこの道をスマホを持って通ったのは事実だけど、イヤホンはつけてなかった。
「いや、でも本当だよ。シルバーのイヤホンが光って見えたから間違いない」
「土曜日の夕方、酔っ払いのお客さんにからまれてたでしょ。あーいうの大変だよね」
酔っ払いのお客さんに絡まれたのは事実だけど、それは金曜日。
「いや、確かに土曜日だよ。だって土曜日は俺が仕事休みだから、あの店の前を通らないし」
「この間、子供連れて隣町のショッピングモールへ入っていったでしょ。黒いロングコートひるがえして、かっこよかったよ」
子連れでロングコート着てショッピングモールへ行ったのは事実だけど、着ていたのは淡い茶色。
「いや、黒だったよ。茶色い髪が映えて綺麗だったもん」
「あれ、先輩、今日は珍しく禁煙席なんですね。悩み事でもあるんですか」
あなたの先輩は悩み事を抱えていますが、嫌煙者です。
「だって先月、彼氏と同じ煙草に変えたんだーって自慢してたじゃないですか」
「久しぶりだね。先月髪をバッサリ肩まで切ってたけど、もう背中まで伸びたの?」
そんなわけねーだろ。
6つ子だったらあり得なくもないよねって。