第十三章 目覚め
13 目覚め
アシルが目を覚ましたのは、それから二日後の昼のことだった。
ぼやけた視界に映るのは、自室の天井とアルバの不安げな顔だった。
「アシル! ああ、良かった。目を覚ましたのですね?」
「母様…? 僕は一体…」
身体を起こそうと腹に力を入れれば、痛みが走る。アシルは反射的に身体を縮めた。
「そうか…、僕は監獄で…」
そこまで呟いて、アシルは飛び起きた。
「ヒラコニア!? 兄様!? 二人はどうなったのです?」
「しんじゃったよ」
アシルの問いに答えたのは、マリーベルだった。彼女はアルバに寄り添い、アシルを見上げていた。その両目は赤く腫れている。
「死んだ? ヒラコニアと兄様が?」
「うん。かんごく、ばーんって、なくなっちゃったの。あそこにギル兄様とまじょがいたんでしょう?」
「ばーんって言うのは?」
アシルはアルバに尋ねる。
「跡形もなく吹き飛んだのです。調査団の話では、一帯の地形が変わっていたとか…。遺体も見つからなかったようです」
「そんな!」
アシルは寝台から飛び降り、部屋の入口へと急ぐ。しかし、一刻も早く監獄へと願う彼の思いに反して、足は言うことを聞いてくれなかった。
倒れ込んだアシルにアルバが駆け寄る。
「アシル、駄目です。まだ安静にしていないと」
「そうだよ。大人しく寝てなよ、アシル」
「クリフ…。いたのか」
クリフは部屋の隅に立っていた。尊敬するギルバートを失った彼の表情は暗い。
「クリフ、一体何があったんだ? 兄様が、ヒラコニアが死んだって」
「何があったかなんて僕にも分からないよ。君こそ、あの二人と一緒にいたんだろう? 何が起きたのか見てないのか?」
「分からない。途中で気を失ったから」
アシルは声を絞り出す。うつむくと手の平が、皮膚の下にある血管が見える。
「どうして僕だけ生き残ったんだろう…」
「守ってくださったんだよ。ギルバート様と…魔女が」
クリフは目を閉じた。
「そんな…」
アシルは言葉に詰まった。
目を閉じると、まぶたの裏にギルバートとヒラコニアの姿が映った。
「僕は信じないぞ」
「アシル」
「だっておかしいじゃないか。遺体も見つかってないのに死んだなんて」
「君は現場を見てないから、そんなことが言えるんだ」
「でも」
「辛いのは分かる。僕だって辛い。でも、そう考えるのが一番自然だろう? まさか、二人で逃げたわけでもあるまいし」
「逃げた…? 二人で?」
「例えだよ。魔女はともかく、ギルバート様がオルセンを去る理由なんてないだろう?」
「…」
アシルは監獄での二人の様子を思い出す。
命のやりとりをしていたはずの二人だったが、一方で、ただのじゃれあいのようにも見えた。
「まさか…。でも、そう考えれば、ここ数日の兄様の変な行動にも説明がつく…」
胸騒ぎが始まる。
鼓動が一際大きく脈打ったとき、アシルは苦々しく唇を噛みしめていた。
「やられた…!」
読んでくださり、ありがとうございます。
ポイントをつけてくださった方、お気に入りに登録してくださった方、
どうもありがとうございました。
次で最後です。




