表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

第十二章

12 超人たちの戦闘

 馬から飛び降りたアシルは、ヒラコニアの独房へと走った。

 すぐに戻ってきたアシルを不審に思い、看守が彼に尋ねる。

「アシル王子、どうされました?」

「君がヒラコニアを拷問したのか?」

「拷問? 一体何のことでしょう?」

「いや、いい。ヒラコニアに訊けば分かることだ」

 アシルは通路へと進む。

 ただならぬアシルの様子に、看守達は彼の行く手を遮ろうと立ちふさがった。

「アシル王子、お待ち下さい」

「どいてくれ」

 看守達の脇をすり抜け、アシルは廊下を駆けた。

 独房の前に立つ。

「お前という奴は…」

 再び現れたアシルを見て、ヒラコニアは呆れ顔を作った。「ついさっき、来ないでくれと言ったばかりのはずだが?」

「拷問されたの?」

 問いかけを無視して、アシルはヒラコニアに尋ねた。

「拷問? ああ、この槍のことか?」

「そうじゃなくて…、いや、それもあるのか…」

「お下がり下さい、アシル王子!」

 アシルを追ってきた看守が、彼の肩に手をかける。

 しかし、アシルはそれに構うことなく、

「逃げよう、ヒラコニア。僕と一緒に」

「逃げる? 一体どうやって。見ての通り私は」

「もういい。僕がやるから」

 アシルは看守の手を払いのけると、腰の剣を抜いた。躊躇することなく、それを独房の鉄格子に向けて振り下ろす。

 数回、耳障りな金属音が独房に響いた。

 渾身の力を込めて振り下ろしたが、鉄格子には小さな傷ができただけだった。

「アシル王子、おやめください!」

「うるさい!」

 アシルは振り返り、看守達と対峙するよう剣を構えた。

 傷一つ無かった刀身には、大きなほころびが出来ていた。

「気は確かですか?」

「当然だよ」

 アシルは奥歯を噛みしめて言った。

 彼の返事を聞いて看守達が剣を抜く。十八本の剣がアシルを取り囲む。

「アシル!」

 ヒラコニアの声が戦闘開始の合図となった。

 看守の一人がアシルに向かって、剣を振り下ろす。

 迫り来る刃をアシルは剣の腹で受け止めた。

「くっ!」

 剣を伝って、腕に痺れが走る。

 鍛錬時には感じられなかった鈍い痛みに、アシルは顔を歪ませた。

 別の看守がアシルの腹に向かって拳を放つ。

 防ぐことも出来ず、アシルはその場に崩れ落ちた。手の平から剣が落下する。力無い剣は、アシルそのものだった。

(僕は無力だ)

 アシルの視界が涙でにじむ。

 看守がアシルの身体にふれる寸前、耳をつんざくような音が響き渡った。振動で監獄が揺れる。

 それは、ヒラコニアが光の槍を体外へと爆砕させた音だった。

 砕け散った光の欠片がアシルの上に降り注ぐ。

 彼女の身体を拘束していた革のベルトは裂け、独房の床に落ちていた。

 光の中に立つヒラコニアは、まさに神の化身だった。

 彼女は独房の鉄格子をひしゃげさせ、出来た隙間から檻の外へ出た。

 まずい、と看守達が青ざめる。彼らは標的をアシルからヒラコニアに移さざるをえなかった。

「大人しく檻の中に戻れ! 魔女よ」

「アシル、大丈夫か?」

 ヒラコニアは看守の言葉を黙殺すると、アシルに駆け寄った。

 看守達は一斉にアシルから―と言うより、彼に近づいたヒラコニアから―距離を取った。

「…やっぱり魔法が使えたんだね」

「すまない。私のせいで痛い思いをさせたな」

「大丈夫だよ」

 アシルは、ヒラコニアの手を借り立ち上がると、「それよりも僕と一緒に逃げよう、ヒラコニア」

「何を言う。お前はこの国の王子だろう」

「いいんだ。この国は、僕の敬愛する騎士の国ではなかったから」

「一体どういう―…」

「あれ? 封印が解けてる」

 石の壁にギルバートの声が反響する。

「兄様…」

「やっぱりここに来てたんだな、アシル」

 通路からギルバートが姿を現す。その背後にはクリフの姿もあった。

「兄様、来ないでください。僕はあなたと戦いたくない」

「そりゃあ俺もそうだが、魔女を逃がすわけにもいかないし」

 ギルバートがヒラコニアを見据える。

「あの封印を破るとは、さすが超越、というところか」

「ごちゃごちゃ言っていないで、さっさと剣を抜け」

「そうさせてもらうよ」

 ギルバートは背中の長剣を抜いた。

 鍛え抜かれた剣身が煌めく。

「アシル」

 ギルバートを、その剣を見据えたままヒラコニアがアシルを呼ぶ。

「ありがとう。友人になると言ってくれて。おかげで、もう少し、自由に生きてみようという気になった」

「ヒラコニア…」

「始めていいかな?」

 剣をぶらぶらと振りながら、ギルバートが言う。

「ああ、どうぞ。騎士団長殿」

「じゃあ、始めるかー」

 ギルバートの言葉を受けて、看守達とクリフが監獄の外へと退避した。監獄に三人が取り残される。

「アシル、お前も下がっていろ」

「そんなわけにはいかないよ」

「そうだぞー、危ないぞー」

 ギルバートはそう言った後、剣の柄を両手で握った。

 祝詞の詠唱が始まる。

「マレフィコスの長子、フィンビーネの光は宣く

 天帝の意、我が光より生まれたり

 我が意、天帝の意により生まれたり―…、うっわ!」

 炸裂音が辺りに響き、ギルバートの詠唱が中断する。

 ヒラコニアがギルバートの頭上の壁に向けて衝撃波を放ったのだ。

「何すんの? 俺、今、詠唱中」

「そんなこと見れば分かる」

「ほら、見たか、アシル。魔女はこれだからやっかいなんだ。騙しでもしないと捕まえられないんだって」

 ギルバートはため息を吐き、そして―、

 一気にヒラコニアへと駆けた。その速度たるや、普段の気だるげなギルバートの様子からは想像もできないほどだった。

 虚をつかれた形のヒラコニアは対応しきれない。

 彼女は未完成なイメージを、そのまま現実へと昇華せざるを得なかった。

 弱々しい雷光が、ギルバートへと放たれる。ギルバートはそれを避けると、ヒラコニアへと迫った。

「!」

 眼前に迫ったギルバートに、ヒラコニアはたまらず自分の身体を後方へと跳ばした。着地に失敗し、膝から血が流れる。

 獲物が遠のいたにもかかわらず、ギルバートは冷静だった。それどころか彼は、ヒラコニアの行動を予期していたかのように、先ほどの祝詞を再度詠唱し始める。

「マレフィコスの長女、フィンビーネの光は宣く

 天帝の意、我が光より生まれたり

 我が意、天帝の意により生まれたり―」

「させるか!」

 ヒラコニアがギルバートの頭上の壁を落とす。

 しかし、ギルバートは長剣を振るって、それを防ぐと、

「天帝の心、我が意により生まれたり

 我の心、天帝の心により生まれたり

 故に

 意に諸々の不浄を思わず

 心に諸々の不浄を想わず―」

 ギルバートの詠唱が完了したとき、彼の頭の上には、光の輪が浮かんでいた。

「あー、やれやれ、やっぱり祝詞が長いと苦労するなあ」

「何だ、それは?」

 頭上の輪を見て、ヒラコニアが尋ねる。

 ギルバートは得意顔を作って、

「かっこいいだろー」

「ダサイ」

「あっそう」

「ダサイ」

「分かったよ」

「ダサイ」

「この!」

 ギルバートは再び、ヒラコニアに向かって駆け出した。一方のヒラコニアは、ギルバートを見据え、自らの力を解放した。

 監獄の壁が、床が、ギルバートに向かって隆起する。しかし、ギルバートは取り乱すことなく、祝詞を詠唱した。

「大地のランデル

 砂のデプシー

 天帝の根源へと帰さしめ給え」

 詠唱の完結により、ギルバート目がけて飛んでいた壁や床が、引力に負けて落下する。

「二つ同時に実践できるのだな」

「そう。俺、こうみえても高学歴なんだぜー」

「そうか。では、これはどうだ?」

 ヒラコニアが視線を鋭くする。

 彼女はギルバートの意識停止をイメージし、それを現実へと導いた。

 精神介入を受け、ギルバートが顔をしかめた。それを受けて、彼の頭上の輪が輝き、大きく回転し始めた。

「何だと!?」

「…」

 ヒラコニアが驚く。彼女が、精神介入に失敗したと気付いたとき、ギルバートはすでに、彼女の眼前にまで迫っていた。

「覚悟」

 ギルバートが下段から剣を振り抜く。

 ヒラコニアは、何とか空気の壁を作り、剣を受け止めた―が、バランスを崩し、その場に仰向けになった。

 彼女の喉元に、剣の切っ先が突きつけられる。

「その輪…、介入を邪魔するものだったのか」

「一番やっかいなのは、精神を乗っ取られることだからな。思考停止はお前の十八番のようだし…。まあ、いきなり脳みそを吹き飛ばされても困るが」

「そうか、では今から脳を破壊する」

「お前にはできんだろ」

「できるさ」

「無理だね」

「知ったような口を」

「知ってるさ。実際、天井を崩したり、壁を動かしたりばっかりじゃん、お前。間接的というかさ。…俺だったら、最初の攻撃で、頭を飛ばしてる」

「今からする」

「無理だって、天然な上に、根が優しいんだから。それに戦い慣れしてないし」

「馬鹿にするな!」

「褒めてんのー」

「ヒラコニア!」

 アシルが剣を拾いあげ、ギルバートに斬りかかる。

 しかし、ギルバートはヒラコニアの喉元に剣の切っ先を当てたまま、剣の腹でそれを受け止めた。

「ぐ、この!」

「お前もなあ、がんばってはいると思うが、剣の腕がなあ…」

「兄様には、僕の気持ちなんて分かりませんよ! 剣の才能にも、魔法の才能にも恵まれた兄様には!」

「お前、俺が才能だけでここまで来たと思ってんのか?」

 静かに、しかし、怒気をはらんだ声でギルバートが言う。

「だって、そうでしょう? 僕だって毎日鍛錬はしています。でも、なかなか上達しなくて、それで」

「それを才能のせいにするのか、お前は…」

 ギルバートはそう言って、ヒラコニアの喉元から剣を引いくと、絡め取るようにアシルの剣を落下させた。

「ギル…?」

 ギルバートの行動が理解できず、ヒラコニアは呆然と彼を見つめている。

 しかし、ギルバートは彼女の視線に構うことなく、アシルに向かって口を開いた。

「上達しないのは、才能がないからじゃなくて、鍛錬が足りないからだ。アルバ様のことにしたって、お前はいつまで母親の機嫌をうかがうつもりなんだ?」

「それは…」

 突然の説教に、アシルは言葉に詰まり、うつむく。

 監獄内に沈黙が訪れる。

 ヒラコニアはどうしてよいか分からず、ギルバートとアシルを交互に眺めた。

 沈黙を破ったのはギルバートだった。

 彼は小さく息を吐くと、アシルの頭に手をやり、「まあ、それでも最近は反抗しつつある、か」と言って撫でた。

「兄様…?」

「魔女はマレフィコスの化身、と言っていたな」

「え? あ、はい。そう考えればヒラコニアの話に説明がつくから…。でも、これは教義に反することで」

「何が正しくて何が間違っているか…。それだけは、これから一生、自分で考えろ。母親や周りの人間が何と言おうと」

 ギルバートは目を細めて微笑む。

 そして―

 唐突に、アシルの首根に手刀をたたき込んだ。

 ぐらり、とアシルの視界が揺れる。

「…兄様、どうして…? ヒラコニア…」

 呼びかけるが、二人の返事はアシルの耳には届かない。

 視界が暗くなり、やがて彼は意識を失った。




読んでくださり、ありがとうございます。

ポイントをつけてくださった方、お気に入りに登録してくださった方、

ありがとうございました。


あと二章で終了です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ