第十章 アシルと母
10 アシルと母
翌朝、アシルはアルバの金切り声で目を覚ました。
「アシル! 起きなさい、アシル!」
「母様…、何事ですか? こんなに朝早く」
アシルが目を開けると、ラティオを抱いたアルバが寝台のわきに立っていた。
「どうしたもこうしたもありません! あなた、監獄に通っているというのはまことですか?」
「ああ、それは…」
アシルは口を開いたが、起き抜けの頭は、彼に上手い言い訳を与えてはくれなかった。
言葉に詰まったアシルを見て、アルバはさらに語気を強めた。
「事実なのですね? なんて嘆かわしい! あなた、自分の立場が分かっているのですか? 第二とはいえ、王子なのですよ?」
「それは十分理解しています。でも、僕は騎士として…」
「あなたの隊は監獄の警備とは無関係のはずです!」
「でも僕は後学のために」
「後学のためですって? あなた、後学のために魔女と恋仲になったというのですか?!」
「こ、恋仲?」
「民が何と噂しているか知らないのですか? アシル王子は魔女に恋をしているらしい。毎日監獄に通っているのはそのせいだ、と。アシル聞いているのですか?」
「はい、聞いています」
口では返事をしたが、実際の所、アシルはアルバの言葉をほとんど聞いてはいなかった。
(恋…。そうか。僕はヒラコニアのことが好きなんだ)
一人心の中で呟くと、ここ数日感じていた胸のざわつきが収まった。
「聞いているの? アシル」
「あ、はい、聞いてますよ、母様」
ぼうっと返事をするアシルに、アルバは首を左右に振りながら、
「魔女に恋慕するなど王家の恥です。まったく、ギルバート殿が忠告してくださらなかったら、どうなっていたことか」
「兄様が? 母様、その話は兄様からお聞きになったのですか?」
「ええ、ひどく心配しておられましたよ。やはり、母親は違うとはいえ、弟の身が心配なのでしょう。式の準備や魔女の取調べで忙しいはずですのに、出来たお方です」
「そうですか、兄様が…」
アシルの脳裏に昨日の監獄でのギルバートが思い浮かんだ。
うっすらと微笑むギルバートは、アシルの知らない男のようだった。
「アシル」
「聞いていますよ、母様」
「そうではなくて、ああ、もう、ラティオが起きてしまったじゃない!」
アルバは胸の中で眠っていたラティオに視線を落とした。部屋の中に乳児の泣き声が響き渡る。
「分かったわ、ラティオ。お乳にしましょう。とにかく―、アシル、あなたは二度と監獄に近づかないように!」
アルバはやってきた勢いそのままに、アシルの部屋から出て行った。
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