消えた思い出と『好き』の感情
「記憶喪失………?」
私は芝山さんの言葉を繰り返した
謙人が記憶喪失…?
「信じられないですか?」
「ちょっと…でも謙人が記憶喪失ってどういうことですか?」
「昔………私は謙人と付き合っていました」
そうして芝山さんはその時のことを話してくれた。
~~~~~~~~~~~
『俺と付き合って下さい!!』
『は、はい…』
私は中2の頃、隣のクラスにいた謙人に急に告白された
私は謙人の勢いに押されて、思わずOKしてしまったけど最初は別れる気だった。
そもそもあまり知らない相手だったし、中学生カップルなんて学校にはいなくて、周りの目が気になっていたから
でも…
『茜、今日も一緒に帰ろうか』
『わ、分かった』
でも…謙人のことを知ってくると、とても優しくて、それでいて映画研究会での真剣で一途に映画に向き合っていた姿がとてもかっこよかった。
中1の時は、クラスの男子とはケンカばかりしていた
だから恋愛なんて出来っこないと思っていた。なのに謙人と付き合ってみて、男子ってこんなにいいんだ…と思いました
しかし…謙人が記憶喪失になったのは突然のことでした。
それは学校での大掃除のとき
『謙人、謙人』
『ん?どうした』
『あのね。一緒に窓拭こうよ』
『おぉ、いいぞ』
謙人と一緒に窓を拭いていた。
『反対側も拭くか?』
『うん、気をつけてね』
ゴシゴシ…
すると
『おい!やめろって~ww』
『アハハ、喰らえ!ww』
ドンッ!!
『きゃっ!』
私はふざけていた男子とぶつかって、そのまま窓を拭いていた謙人に
ドンッ!!
グラッ………
ドサッ…
『謙人!!!!!』
謙人はそのまま病院に運ばれました。でも、幸いにも2階から落ちたので軽傷ですみました
でも…
『謙人!!大丈夫!?』
『…………………………はい』
『良かった…本当にごめんなさい…私がぶつかったから…』
『……………』
『謙人?』
『ごめんなさい…あなたは誰ですか?』
『え……………』
その時、記憶喪失だと分かったんです
どうやら打ちどころが悪かったらしく、一部の記憶がなくなってしまった…
~~~~~~~~~~~
「だから、謙人は私のことを忘れてしまったんです。」
「え…でも、謙人は映画祭で乾さんの事は覚えてましたよ?」
「………謙人は私の記憶だけ忘れたんです」
芝山さんの記憶だけ?
「記憶というのは…思い出が深いほど、忘れやすいものなんですよ」
「……………」
「私にとって、そして謙人にとってかは分からないですけど…この思い出は、忘れられないような思い出…」
「でも、謙人は忘れてしまったんです。私も思い出も…」
「……………」
つまり、芝山さんだけを忘れてしまったということ
「………本当にそんなことがあるんですね」
「私も最初疑ったんです。もしかして冗談じゃないかと思ったんですが、現実だと知るとさらにショックでした。」
確かに…好きな人に忘れられるのは誰だってツラいはずだ
そして、好きという感情も……………
あれ?
「あのっ、芝山さんちょっと待ってください。謙人は芝山さんと付き合っていたんですよね?」
「は、はい」
「でも、謙人は女の子に興味ないんですよ?」
「それは…どういう意味ですか?」
「私が初めて会った時から、謙人は女の子に興味がない人だということです。」
「え?お、おかしいじゃないですか。だって私と謙人は付き合ってたんですよ…?」
それはそうなんだけど…現に謙人は会った時から他の男子と違って、女の子に興味がない。それは誰もが知っている事実…
それなのに女の子と付き合っていた…
これでは矛盾している
これはどういうこと…?
「謙人が本当にそうなんですか?」
「少なくとも私が初めて会ったときはそうでした」
「なんでそんなことに…やっぱり私の…」
「そんなに自分を責めないでください。必ずなにか理由があるはずです」
とは言ったものの、どうすればいいんだろう
誰か謙人のことをよく知る身近な人がいれば…
あ………
「あのっ、乾さんと連絡取れますか?」
「い、乾くんと?どうしてですか?」
「同じ映画研究会にいた乾さんなら、何か分かるかもしれないと思うんです」
「あ、なるほど…それじゃあ掛けてみます!」
~~~~~~~~~~~
「ふむ、美少女2人に呼ばれるなんて。私の魅力にメロメロになってしまったのかね?」
放課後、私達は近くの喫茶店に乾さんを呼び出した
「それで?君達は私に何か用かね?」
「実は謙人について聞きたいことがあるんです」
「東崎謙人のことか?」
「はい。3年前、謙人が記憶喪失になったことを覚えていますか?」
「……………」
するといきなり乾さんは真剣な目つきをした
「覚えている。東崎謙人が2階から落下した日のことだね」
「その時、謙人は記憶を失ったんですよね?」
「そうだな、芝山茜の記憶だけ忘れてしまった」
やっぱりそうなんだ…
「しかしおかしいと思わないかね?」
「え?」
「芝山茜の記憶だけを忘れてしまって、私だけ覚えているというのはあまりにも都合が良すぎると思わないかね?」
「どういうこと?」
「一番関係が深かった芝山茜だけ忘れるのはありえないということだ」
「それじゃあ乾くんは謙人が嘘をついているというの?」
「東崎謙人は嘘をつくような男ではない。しかし、倉見桜。君は知っているはずだ」
「知っている?」
「東崎謙人は女性に興味ないというのは君がよく見ているんじゃないかね?」
確かに謙人は女性に興味はないけど…
「それがこの話となんの関係があるんですか?」
「実は東崎謙人が退院をしたあと、クラスメイトの女性と全く話さなかった時期があったのだ。」
「あ………そういえば…」
芝山さんは思い出したように言った
「私はそれが不思議だと感じたのだ。あの事故が起きる前は普通に女性と話していた東崎謙人がなぜと」
「だから私は聞いてみた。貴様は芝山茜が好きか…と」
「それで…なんて言ったの?」
「東崎謙人は『そもそも好きという感情が分からない』…と」
「それで分かったのだよ。東崎謙人が失ったのは芝山茜の事ではなく、『好き』という感情をなくしてしまったということを」
「!?」
そうか…そういうことなのか…
「芝山茜と東崎謙人は好きあっていた。だが、東崎謙人が好きという感情をなくしてしまい、芝山茜との思い出がリセットされてしまったんだろう。」
「それで私を忘れてしまった…」
「正確にいうと、芝山茜の記憶は東崎謙人の片隅に残っている状態ということだ」
「そういうことなんだ…そ、それじゃあ謙人の記憶は呼び戻せるってことなの!?」
「いや…その可能性は薄いと思われる。芝山茜本人に会ってるのに何も思い出せないのに呼び戻せるのは難しいだろう」
「そんな…」
芝山さんはがっくりと肩を落とした。
「しかし、東崎謙人の人間らしさが戻っているのも事実だ」
「人間らしさ?」
「あの事故以来、東崎謙人はまるでロボットのように感情をあまり表さない人間だった。」
「だが、この間の映画大賞では感情を露わにしたりしていた。それはつまり倉見桜のおかげかもしれないな」
「にゃっ!?わ、私は特になにも…」
「いいや、東崎謙人は確かに変わっている。あの映画部のおかげでな」
「そうなんですか…」
~~~~~~~~~~~
テクテク…
「あの…芝山さん」
「なんですか?」
「芝山さんは謙人と付き合ってた時、謙人はどんな人でした?」
「………とっても優しくて頼りがいがある人でした。」
スッ
すると芝山さんはポケットから『恋愛成就』のお守りを出してきた
「これは?」
「謙人と夏休みに謙人の叔母さんがやっている旅館に行ったときに貰ったんです」
「あ…それって、これですか?」
私は同じお守りを取り出した
「あれ、倉見さんも持ってるんですね」
「これは合宿で叔母さんの旅館に行ったときに貰ったんです」
「そうなんですか?」
「こんなこと言うのもなんですけど、謙人の叔母さんが私と謙人が結ばれますようにって渡してくれたんです///」
「そう…なんですね」
「あ、ごめんなさい…芝山さんは謙人が好きなのに…(汗)」
「……………」
「芝山さん?」
「やっぱり倉見さんはスゴいですね」
「え…どうしたんですか?急に…」
突然、芝山さんはそう言った
「私が謙人と再会した時、今の謙人は昔の謙人のようでした。それは乾くんの言う通り、倉見さんと一緒にいたからだと思うんです。だから謙人をこんなにした倉見さんはスゴいと思います」
「そんなことないです…私はなにも…」
「………ねぇ、倉見さん。私からお願いがあるんです」
「お願い…?」
「謙人と付き合ってくれませんか?」
……………
……………
「にゃあ!!?/////」
え?な、なんなの急に!?…/////
「け、謙人と付き合うって…そ、そんななんで…///」
「だから言ったじゃないですか、謙人を変えられるのは倉見さんだけだと」
「だから私は特になにも…」
「でも現に謙人は変わっているんです。変えられるのはあなただけなんです」
「……………」
「謙人の好きという感情を呼び起こしてください」
「謙人の『好き』をあなたが教えてください」
帰り道、芝山さんは真剣な目でそう言った




