第四十話 ライムからの提案
もう1月も終わる勢いですが、新年一発目ということで。
明けましておめでとうございます。
稚拙ではありますが、今年もよろしくお願いします。
「クロウ。大事な話があるんだ」
食事を終えた後、ライムが最初に発した言葉はそんなものだった。
その真剣な表情に、俺も気持ちをしっかりと切り替える。
「何だ?」
「私はこれまで、ソロで塔に挑んできた。一時的に誰かと組む事はあっても、基本的にはソロ。そしてそれは、これから先も変わらないと思っていた。しかし、クロウと出会って考え方を改めたよ」
「俺と出会って? 俺だって基本的にはソロだし、パーティを組んだのだってあの一度だけじゃないか」
「何と言えば良いか……そう、だな。強者と共にいるというのは、それだけで私にとって勉強になると感じたんだ。クロウは、私よりも強い。その底が分からない程に。だから、寄生と思われても仕方ないと思う。それでも、もし良かったら……私と、パーティを組んでくれないか?」
まさか、ライムの方からお誘いがあるとは思わなかった。だから、その提案を聞いた俺は素直に驚いた。
「だめ、か?」
いつもの凛々しい雰囲気ではなく、どことなく弱々しい表情と口調で聞いてくるライム。
その姿はまさにギャップ萌え! と、ここに来る前の俺なら悶えていただろう。
ライムをパーティに加える事自体は悪くない。俺から誘おうかと思っていたくらいだ。だが、問題がない訳じゃない。
まずは、ジェシカ達にも話を通す必要がある。それに、ライムにも他にメンバーがいる事を話さないといけない。
お互いがパーティを組む事に納得してくれたとして、次はレベルや技量の問題が出てくる。まあ、そこを加味しないとパーティを組む事自体納得してくれないだろうが……ただ、俺達が目指すのは最終的には塔のクリアだ。ライムだって当然そうだろうが、塔攻略に対しての認識がそもそも違う。おそらくライムは、心のどこかで塔をクリアするのは無理だと思っているだろう。だとすると、その辺りのすり合わせも必要になってくる。
「クロウ?」
「ああ、すまない」
黙っている俺を見て不安に思ったのか、やはり弱々しい口調で俺の名前を呼ぶライムに言葉を返す。
「先に結論を言わせて貰えば、俺としてはライムとパーティを組むのは歓迎だ」
色々考えないといけない事はある。解決していかないといけない問題があるのも確かだ。だけど、結局は俺がどうしたいか。それが答えになる。
「本当か!?」
打って変わって、今度は嬉しそうに言葉をあげるライム。それだけど、応えた甲斐があると言うものだ。
「そんな嘘は言わないさ。ただ、問題があるんだ」
「問題?」
「ああ。実は、既にパーティを組む話があるんだよ。だから、悪いけど俺の一存では決められないんだ」
「そうなのか……クロウが仲間にすると決めた相手なら、さぞかし強者なんだろうな……そうなると、私程度でははやり足手まといにしかならないか……」
「そう悲観する程、ライムは弱くないだろ。それにさっきも言ったけど、俺自身はライムをパーティに加えるのは歓迎なんだ。だから当然、他のメンバーの説得だってするさ。ただ、確実に説得出来るとは限らないからな。その辺は了承して欲しい」
一応、俺の中ではあの二人の説得は難しくないと思ってはいる。こっちの世界に対して疎い面がある俺達プレイヤーだけでいるより、こっちの世界の住人がパーティにいた方が何かあった時に安心出来るからだ。こっちの世界の住人の有無はどちらにしてメリットもデメリットもあるだろう。戦闘面で言えばデメリットの方が大きい。ただ、ライムくらいの強さがあれば上層でだって通用するはずだ。ソロでは無理でも、俺達と一緒にいれば。と言う条件が付くが。
「分かった。私が受け入れられない時は、諦めるとしよう」
そう言って頷くライムだったが、その表情は少しだけ悲しげだ。
「そんなに不安になる事はないさ。そうだな……いきなり顔を合わせるより、一度話は通しておいた方が良いか」
「その辺りはクロウに任せよう」
「了解。それじゃあ、明後日の午後1時に、塔の1階に来てくれるか? 一応、そのまま塔に上るつもりで来て欲しい」
ジェシカとの待ち合わせは正午だから、一時間もあれば十分だろう。
「分かった。なら、午前中は休んでおいた方が良さそうだな」
「そうだな。多分、それなりに上まで行く事になるだろうしその方が良いと思うぞ」
「クロウのそれなりと言う言葉は、なかなかどうして不安を掻き立てられるな」
俺の言葉にそう苦笑するライム。その反応はあまり納得がいかないが、まあ良いさ。
「それじゃあ、今日のところは部屋に戻るとしよう」
「そうだな。それじゃあ、お休みライム」
「おやすみ、クロウ」
まあ、まだ直ぐに寝る訳じゃないが……そこは形式的な会話って奴だな。
俺達は食堂を出てお互いの部屋に戻った。
部屋に戻っても特にする事はないんだが……
いや、待てよ。今の内にスキルを新しく創っておくか。基本的にはソロ使用のスキルばかりだからな。パーティ用のスキルだってあるにはあるが、有用なスキルは多いに越した事はない。
そう考えて、俺は天地創造を発動してスキル編成画面を開く。その辺はゲームと同じ仕様だ。これなら、きちんとカスタマイズ出来そうだな。
久々にすら感じるスキル作成時の謎の昂揚感を覚えつつ、俺はスキル作成に勤しむ事にした。