第三十九話 ライムとの夕食
俺とヴァランの二人にかかれば、中層のモンスター程度全く苦にはならかった。
いや、分かってたけどな。
俺もそうだが、ヴァランも全力は出していないだろう。お互いがお互いの実力を把握したいはずだが、お互いに底までは知られたくないという思いがあるのだろう。それは仕方ないし、割り切る事にしよう。
20階の転移陣を使って1階に戻った俺達は、詳しい話はジェシカとの待ち合わせ日時である二日後の正午、塔の1階で待ち合わせる事にして別れた。
今からもう一度塔を登ろうという気にはならず、俺は塔を後にする。
今の時間は17時少し前。夕食にはまだ早いし、どうするか少し悩む。
「あ」
そこで俺はある事に気が付いた。いや、思い出したと言うべきか。
前回手に入れた鉱石をホーンに売りに行こうと思っていたんだった。
さして大事な事ではないが、口約束とは言えまだしばらくホーンの世話にはなるはずだし、簡単に約束を反故にするのは良くない。
俺はホーンを探すべく再び塔の中に入る。
周囲を見回してみても、ホーンの姿は見当たらない。いつでもいる様な気がしてたが、良く考えてみたらそんな訳はない。ここがゲームではなく、ホーンは一人の人間だ。なら、いつも同じ場所にいる訳がない。きちんとして店を構えてるならまた別だが。
ともあれ、ホーンがいないんじゃ仕方ない。改めてどうするか考える。
「うーん……」
結論。何も思い浮かばない。
今すぐに何かしないといけないって事はないし、今日のところは大人しく宿に帰るとするか。
改めて踵を返し、再び塔から出る。
真っ直ぐに燕尾荘へと向かう。
道中特に事件に巻き込まれたりする事もなく、無事に燕尾荘へと辿り着いた。
一度自分の部屋に戻って荷物を整理――なんかが普通の冒険者の行動だろう。マジックボックスを持っていても同じだろう。だが、アイテムボックスという便利機能を持つ俺は、そこに入れてしまえば整理なんて必要ない。とは言え、それじゃあマジックボックスを買った意味がなくなってしまう。回復アイテムやスクロール、それと鉱石類はマジックボックスにしまい、他の手に入れた素材やらアイテムはアイテムボックスにしまう。
それから1階に降りて浴場へ。
汗を流した後には食堂。まだ少し早いが、夕食を摂る事にした。
「今日は何を食べるかな……」
食券機の前で悩んでいると、背後から足音が近付いてきた。
「クロウじゃないか。今日はもう上がりか?」
声をかけてきたのは、振り返るまでもなくライムだと分かった。
何を食べるのか悩むのを中断し、俺は振り返る。
「ああ。最初の目標よりは進まなかったが、色々収穫もあったからな」
「あの先はお前でも苦労するのだな……私も心しておくとしよう」
「そうだなぁ……ソロで進むにはどんどん辛くなってく辺りかもしれないな」
罠の類いなんかは余計にそうだろう。仲間がいれば回避出来る物もあれば、例え罠にかかっても救助して貰える可能性もある。
「そう言えば、ライムは今日は塔攻略は休むって言ってたな。何かしてたのか?」
「ああ。いや、そうだな……せっかくだし、一緒に夕食でも食べながら話さないか?」
昼はタイミングが合わなかった事だし。と続けるライム。
デレ期キター! とか言いたいところだが、もしかしたら塔の事で何か話でもあるのかもしれないな。過剰な期待はしないでおこう。
「構わないぜ。ちょっと待ってくれよ。今何を食べるか決めるから」
「何だ。決まってなかったのか?」
と、軽く苦笑を浮かべるライム。
「決まってるなら先に買ってくれて良いぞ」
「なら、そうさせて貰おうかな」
そう言ってライムが食券機の前に出る。後ろから何を買うのか覗いていると、ライムが選んだのは俺がここに来て最初の夜に食べた牛ステーキ定食だった。あれは美味かった。よし。俺もまた牛ステーキ定食を食べよう。
ライム同様に牛ステーキ定食の食券を買い、カウンターで食券を渡す。番号札を受け取り、二人で空いている席を陣取る。
料理が出来るまでは簡単な雑談をし、番号を呼ばれたら料理を取りに行きいざ食事。食べている最中は大した会話もなく、二人共が食事を終えた後、少ししてライムの様子がどことなく堅いものになった。
さてさて、これからが本題って訳だ。どんな話が出てくるものやら。
俺は、ライムが口を開くのを待つ事にした。
大晦日です。何とか今月中に書く事が出来ました。
読んで下さってくれている皆様、今年も一年ありがとうございました。遅筆で稚拙な作品ですが、来年もよろしくお願いします。
それでは、良いお年を。