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第三話 野菜農家の悩み

 以前の話を纏めました。以前の話と話の間を繋ぐために会話を差込みましたが、基本的には変更点はありません。

 ゲームのタワーオブバベルにおいて、最も簡単にお金を稼ぐ方法は塔に入る事だ。

 各階に設定された乱数に基づいて、定期的に宝箱が出現するってのもあるし、何よりもモンスターを倒せばそれだけでお金が手に入るからだ。狩りゲーとは違うのだよ。

 とまあそれは良いとして。

 それが簡単な方法と言うだけで、他にもお金を稼ぐ方法はある。と言うか、塔を攻略する以外のプレイスタイルとして色々なシステムがあると言った方が正しいかもしれない。

 と言ってもその殆どが商売関連だ。専用のスキルが必要になる事が多く、生産に重きを置いて商品を卸したり、逆に生産スキルを持つ者から商品を買い取って販売を行なったりする者が多かった。勿論その両方を行なう者もいた。

 そして、俺が塔攻略の他に唯一手を着けていたシステムが農場運営。

 その農場システムの有無を――と言うより、俺が資金を注ぎ込んだ農場の存在を確かめるべく、それがあるはずの場所へと向かった。

 が。

 目的地に辿り着いた俺は絶望する他なかった。


「新地かよ……」


 いや待て。もしかしたらちょっと違う所にあるかもしれない。

 見渡せば畑とかはちゃんとあるし、この場所は農村街だ。


「すいませーん」


 俺は近くを歩いていた男の人に声をかけた。

 クロウ農場(安易なネーミングでスミマセンね)があるかどうかを聞いたが、知らないと答えられた。その後何人かに聞いてみたが、やはり知らないと言う。

 農場について特に関心がないだけかとも思ったけど、どうやらそう言う訳ではないらしい。

 そもそも、農場の前にはきちんと看板が立てられている。


「一からやり直しか……? いや、いっその事農場から手を引くべきか……」


 だとすると、燕尾荘に泊まっているのは不便だ。とは言え、二ヶ月は宿泊が決まってる。

 まあ、新しく農場を始めるとなるとそれなりに資金が必要になる訳だしな。二ヶ月の間に資金を増やしながらこの先どうするか考えるとするか。


「あのぅ」


 一応、農場以外の事を始める事も視野に入れておくとしよう。


「すみません」


 他にどんなシステムがあったかなぁ……


「ちょっと良いですか?」


 道具屋とかあったな。と言うか商売系か。他には……


「すみません!」

「うわ! え? あ、はい?」


 後ろの方で小さくなんか聞こえると思ってたけど、急に大きな声がしてびっくりした。

 振り返ると、そこには女の子が一人立っていた。

 はっきり言って小さい。しかし出る所がこれでもかってくらい出てる。

 これは童顔なんちゃらと言う娘っ子ではないか! 顔も可愛らしいし、早熟な子供じゃなければ直ぐにでも手を出したいくらいだ。

 ……あれ? 俺ってこんなナンパなキャラだったっけ?

 少なくとも、日本にいた頃はナンパなんてした事ないし、どちらかと言えば女の子は苦手だったはずだけど……

 まあいいか。


「農場に、興味があるんですか?」


 聞こえない事はないくらいの小さな声で、目の前の少女はそう聞いてきた。


「何で?」

「農場、探してるみたいだったから……」


 弱々しい声音で答える少女。何か俺がいじめてるみたいに思えてきた。

 いやいや。そんな訳ないし。


「あると言えばあるかな」


 状況によっては諦める事も考えていたとは言え、何となく性に合ってるとは思っている。


「もし良かったら、ウチの農場を助けて貰えませんか?」

「は?」


 今までで一番はっきりとした口調で、その少女の口から信じられない言葉が出て来た。


「詳しい話、聞かせてくれる?」


 俺のそんな言葉に、少女はしっかりと首を縦に振った。


「ここじゃ何ですから、うちに来て下さい」

「良いの?」

「はい」


 少女の厚意? を受ける事にして、詳しい話は少女の家で聞く事にした。その道すがらお互いに自己紹介を終え、少女の名前がミルクだと分かった。

 そう言えば、女の子は食べ物とか系の名前の方が多かったなと思い出す。

 案内されたのは農村街では珍しくない木製の一軒家。とは言っても小さめの家で、一階建てだ。しかし奥には畑が見える。


「誰もいないみたいだね」


 迎えられるままに家の中に入ると、中からは人の気配がしなかった。


「……はい」


 と頷く様子は、本当に子供みたいに見える。まあ、どちらにせよ年下である事に変わりはないんだけどさ。

 いやいやそう言う事じゃなく。頷くミルクちゃんの様子はやけにしんみりとしたものだった。これは地雷踏んだか?


「父さんは、今中心街に行ってるから」


 母さんは……とは続かない。やっぱり地雷だったみたいだ。

 これ以上こっちから振るのは止めておこう。


「それで、助けて欲しいって話だけど?」


 リビングと思しき部屋へ通され、促されるままにイスに座った俺は、早速本題に入る事にした。


「はい。ウチは野菜を作っているんですけど、ある日それが全然売れなくなって……」


 まあ、当然暗い話だよねー。


「味も品質も落としてなんていないのに……それで、父さんが色々調べたんです。そしたら、中心街ですごく安く野菜が売られてて……」

「そのせいで売れなくなったと。その安い野菜の味とかはどうなの?」


 そこ大事よ。


「不味くはなかったです。でも、ウチの野菜の方が絶対に美味しいです」


 ちょっとだけ熱く語るミルクちゃん。よっぽど自分の所の野菜に自信があるのか、ただの愛着か……


「それって、最近の話?」

「はい。先月の頭から売れなくなって、一週間くらいでおかしいなって思い始めたんです」

「それで調べてみた訳だ」

「はい」


 なるほどね。まあ、どこの世界でも基本的に安い物は人気があるって訳だ。


「それで、お父さんは今日も原因を調べに行ってるのかい?」

「えっと、そうじゃないんです」

「どう言う事?」

「今は市場の人と揉めてる状況なんです。出来る限り今までの値段で買い取って貰える様に、交渉に行ってるんです」

「それで今日も交渉って訳だ」

「はい」


 市場側にしたって、利益を出せないんじゃあ意味がない訳で……そうそう上手く行くとは思えないな。


「それで、具体的に俺に何をして欲しいのかな?」


 それを聞かない事には、ミルクちゃんの事情を聞いた所でどうしようもない。


「父さんを手伝って欲しいんです。父さん、野菜作りしか興味のない人だから、中心街の人と交渉なんて上手く行くはずないんです」


 何だ。ミルクちゃんも意外と現実を理解してるじゃないか。


「可愛い子の頼みだし、手伝ってあげても良いけど……」


 俺の可愛い発言に、ミルクちゃんは頬を紅く染める。初々しいねぇ。


「俺は善人って訳じゃないから、報酬は貰うよ? 労働には対価を。これ世の中の基本だからね」

「分かって、ます」


 まあ、商売をしてる家の娘だ。それくらい理解はしてるだろう。


「それで、俺は何を貰えるのかな?」

「畑の一部を、無料で貸します」


 なるほど。それで興味があるか聞いたのか。


「お父さんの許可、貰ってないよね?」

「大丈夫です。わたしが、自分で買った土地があるんです」


 ほー。まだ若いのに大したもんだ。って、これじゃあ俺が年寄りみたいだな……


「小さいですけど、一応畑をやろうと思って買った土地なので……」

「分かった」


 語尾が小さくなったミルクちゃんの言葉に繋ぎ、俺ははっきりとそう答えた。


「報酬はそれで良いよ」


 普通なら失敗したとしても何らかの補償はして貰うものだが、それを口に出すのは野暮ってもんだろう。


「ただ、俺は俺で動かさせて貰うよ」

「え?」

「君のお父さんと一緒には行動しない。多分、その方が上手く行くと思うし」


 俺の言葉が信じられなかったのか、きょとんとしているミルクちゃんにそう告げる。

 少し考えた様子だったミルクちゃんだったが、納得したのかしっかりと頷いた。


「分かりました。方法はお任せします」

「よし。それじゃあ契約成立だ。悪いけど、行動に移すのは明日からで良いかな?」

「はい。でも、出来るだけ速くお願いします」

「分かってるよ」


 ミルクちゃんからすれば生活がかかってるもんな。


「それじゃあ、良い結果を期待してて」

「はい! ありがとうございます!」


 嬉しそうに頷き、ミルクちゃんは深々と頭を下げた。

 俺は「じゃあね」とだけ言葉を残し、ミルクちゃんの家を後にした。



 さてさて。これが初クエストと言う事になるのかな。

 クエストとは、冒険者が依頼を受けて報酬を貰う為のシステムだ。

 内容を考えれば交渉系のクエストだろう。けど、どうにもきな臭い。荒事になりそうな予感がする。となると、今の俺がどの程度戦えるのか知っておく必要がある。

 レベルは高いが、ステータスは不明。装備はしっかりとあるものの、それを使いこなせるかどうかは別問題。

 今更だけど言っておくと、身体は間違いなく俺――水原 悠人の物だ。自慢じゃないが運動は決して得意ではない。苦手でもないけど。

 いざって時の為にスキルの確認も踏まえて、身体を動かせる場所があると良いんだけど……

 どこか良い所はないかなー。と考えながら歩いていると、前から見覚えのある人物が歩いてきた。


「あ」


 と声を上げたのは相手の方だ。どうやら向こうも気が付いたらしい。

 トタトタと小走りで俺に近寄って来たのは、今朝方俺を介抱してくれたモナカだ。


「クロウさん……でしたよね? 燕尾荘の場所、分かりました?」

「ああ。表に出たら直ぐに見えたしね。でも、ありがとう。助かったよ」

「どういたしまして」


 俺の言葉に、笑顔を浮かべるモナカ。

 うん。和む。


「それで、こんな所でどうしたの?」


 自分の事は棚に上げて、特に何をしている訳でもなさそうなモナカにそう尋ねた。するとモナカは苦笑を浮かべ、ゆっくりと口を開く。


「うち、農場を経営してるんです。でも、最近ちょっと上手くいってなくて……」


 はいイベント来た!

 と言うか、そんな事簡単に他人に教えても良いのかね。しかも会って間もない様な相手に。と思わないでもない。


「もしかして、野菜が売れなくなってるとかそう言う話?」

「何か知ってるんですか!?」


 俺の言葉に、モナカは異様なまでに食いついてきた。

 どうやら、モナカの家も野菜関係の農家みたいだな。


「知ってるって言う程じゃないよ。ただ、さっき他の農場から依頼を受けてね」


 と、ここは正直に話しておく。だって、モナカの様子がちょっと怖いんだもの。いや、見た目は相変わらず可愛いけどさ。


「そうですか……やっぱり、どこも打撃を受けてるんですね。でも、依頼を受けたった言う事はもしかして……」


 モナカがそう言いながら、期待を込めた視線を向けてきた。


「一応、解決に向けて動くつもりではいるよ。どこまで出来るかは分からないけど」

「そうなんですか……でも、ありがとうございます!」

「まだお礼を言われる様な事はしてないよ。出来るとも限らないし」

「いいえ。例え結果が出なかったとしても、私達農家の為に動いてくれたって言う事が、私達にとってはありがたい事ですから」


 真摯な表情で、モナカはそんな風に語る。

 まあ、可愛い子に良く思われるのは悪い気がしない。


「そう? まあ、全力は尽くすよ」

「お願いします」


 そう言って頭を下げるモナカ。彼女に依頼された訳でもないのに……

 よっぽど困ってるんだろうな。


「ところでさ、この辺に身体を動かせる場所ってないかな? 出来ればあんまり目立ちたくないんだけど」

「それなら、うちの畑なんかどうですか?」

「え? 良いの?」

「はい。収穫後で今は何も植えてない畑がありますから」

「それはありがたいけど、もしかしたら結構荒れるかもしれないよ?」

「大丈夫ですよ。新しく種植えする時は一度均しますから」

「そっか。なら、ちょっと場所を借りようかな」

「はい。うちはこっちです」


 モナカのそんな厚意で、俺は案内されるままにモナカの家に向かう事になった。 

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