第三十七話 観戦
その場所に辿り着いた俺は、我が目を疑った。
正確に言えば、辿り着く前からそれは視界に入っていた訳だが……
俺の視界に映っているのは、サンドワームの群れだ。数は……今見えるだけでも10匹はいる。そして更にはヴェノムワームが2匹。どの個体も、無傷じゃないどころかかなり疲弊している様だ。
ワーム達の数にも驚きはしたが、目を疑ったのはそれだけじゃない。12匹のワームと戦っているのが、たった一人の男と言う事だ。
俺だって一人で十分戦えるが、この世界の普通の住人には難しいだろう。つまりそれは、あの男がプレイヤーである可能性が高いと言う事だ。
接触するべきか否か。かなりの考えものだ。ここまで一人で来てると言う事は、かなりの高レベルプレイヤーだろうし、俺と同じ様にソロ思考なのかもしれない。まあ、それに関しては仕方無くかもしれないが。
俺がどうするか考えている内に、サンドワームの1匹が倒れ込んだ。起き上がる気配もない。そして一匹のサンドワームが逃げ出す。
なるほど。さっきのヴェノムワームはあいつから逃げだしてきた個体なのかもしれないな。だとしたら迷惑な話だ。
それはともかく。サンドワームがその巨体で動き回っているせいもあるだろうが、戦闘範囲が広い。迂回出来ない訳じゃないが、進行方向の把握が難しくなりそうだ。だとすると、この戦闘が終わるのを待つか、それとも引き返すか……
そうだな。あの男がプレイヤーかどうかはまだ分からないし、今後敵対しないとも限らない。念の為戦闘スタイルを見ておくのも良いかもしれない。
そう結論付けて、俺はしばらくこの場に残り戦闘の様子を窺う事にした。
男の右手には剣が一振り握られている。そして左手には……杖だな、あれは。魔法戦士的なスタイルの様だ。それにしても、剣と杖で二刀流とか滅多に見ないが……
それでもあの数のワームと渡り合ってるって事は、前衛職として優秀なのは間違いない。
装備品を見てそんな風に考えていると、男が杖を掲げる動作をした。杖の先端にある宝石らしきものが淡く赤い光を放つ。その刹那、1匹のサンドワームの全身が燃え上がる。サンドワームは砂漠に住んでるだけあって熱に強い。炎にも耐性はあるはずだ。それなのにサンドワームは苦しそうに暴れ回りながら雄叫びをあげている。それだけ、あの炎魔法系のスキルが強力だったと言う事か……
だが、それで戦闘が終わる訳じゃない。別の個体が男の背後から襲いかかろうとしている。男はその動きを視界に捉えてはいなかったが、何かしらのスキルなのかしっかりと把握している様だ。サンドワームの突進をすんなりと避けつつ、右腕の剣を振るう。それは直接斬る為の動作ではない。スキルを発動させる為の動作だ。
男に突進したサンドワームは、今や男に背後を取られた形になっている。そして男が使用したスキルには覚えがあった。
忍び寄る死への一撃。相手の背後から攻撃しなければ発動出来ないが、背後からの攻撃モーションさえ行えばその攻撃が当たらなくても良いと言う都合の良い発動条件を持つスキル。そのエフェクトは一般的に見るドクロ頭で鎌を持つ死神が現れ、その鎌を攻撃対象に振るうというもの。そしてその鎌が触れた相手は、五割の確率で死に至る。五割を高いと取るか低いと取るかは人次第だろうが、この鎌の一撃も回避可能な為、そこまで有用なスキルとは認識されていない。もっとも、ソロプレイヤーにとっては十分に使えるスキルだが。
忍び寄る死への一撃の効果がしっかりと発動したらしく、死神の鎌に命を刈られその巨体を倒すサンドワーム。これで、残りのワームは9匹。内2匹がヴェノムワームだ。
炎に包まれたサンドワームは炎を消すつもりか地中に潜っていった。
さて、あの男がここからどうやって切り抜けていくつもりなのか気になるところだ。忍び寄る死への一撃は、一度発動したら12時間は使用出来ない。魔法系のスキルか、それても戦士系のスキルか……
お。どうやら今度は戦士系のスキルで攻める様だ。
上手い具合にサンドワームやヴェノムワームの攻撃を避けつつ、物理攻撃らしき剣のスキルを使用している。一撃でワーム達を倒すには至っていないが、自身の隙が最小限になる様に動き回っている様に見える。さっきから一度も敵の攻撃をくらっていないのがその証拠だろう。
おお! 今度は氷の魔法系スキルか。巨大なつららが現れ、1匹のサンドワームを貫いた。そのサンドワームは地面に倒れ込む。これで残りは8匹か。
ヴェノムワーム1匹とサンドワーム2匹が、男を囲う様に陣取って同時に攻撃をする。それと同時男の足元が盛り上がる。男は後方に跳躍して足元からの攻撃を避ける。地面から出てきたのは皮膚に火傷を負った個体だ。
やはり男は探知系のスキルを持っているんだろう。しかし、跳んでしまったせいで3匹の攻撃を避けるのは難しくなったはずだ。俺がそう思ったのも仕方ないだろう。だが、この世界にはスキルがある。物理法則を無視した動きも可能な世界なのだ。
おそらく、男が使用したスキルは飛翔疾駆。一定時間空中を自在に走り回れる様になるスキルだ。空中移動を可能にするスキルの中では上位スキルだ。
男は迫り来るワーム達の攻撃を全て避ける。その先は更なる上空。計4匹のワームを眼下に収め、男は右手の剣を振るう。
それは、この世界にやってきてから二度見たスキルに酷似していた。
男の剣から放たれた赤い衝撃波がワーム達を襲う。その一撃は、4匹のワームを肉片も残さない程に引き飛ばした。
今のスキルは、まず間違いなく崩天剣だ。ライムの使った破の太刀とはまた別のスキルの様だが、あのエフェクトと威力は間違いない。
これで残すは4匹。そう思った次の瞬間には、残りのワーム達は四方に散って行った。流石にあの威力の攻撃を見せられたら、戦闘を継続する気はなくなった様だ。奴らにそこまでの知能はないだろうから、本能的な部分で。
ともあれ、これで戦闘は終了だろう。
さてさて、奴との接触をどうするべきか。決めないといけないな……