第三十五話 反射スキル
26階の攻略は、最初の戦闘が一番大変だったと言える。
あの戦いで危険度を再認識した為、より安全マージンを取った戦い方をする事にしたからだ。
ロイヤルウルフやナイトウルフとの戦闘もあったし、他には猛毒を持つジャイアントスパイダーや、ストーンゴーレムと言ったモンスターとの戦闘もあった。
下層と比べたらどれも手強いモンスターだが、きちんと対処すれば苦戦する様な相手ではない。まあ、罠の解除やらで不意を突かれた時は少しひやっとしたけど……
そんな訳で27階へと上がり、慎重に攻略を進めて行った。
中層の――と言うか、このダンジョンエリアに配置されている罠は俺の知る限りでは五種類。実際にここまでで発見したのは三種類だ。何があるのかと言うと、まずは毒矢。地面にあるスイッチを踏むと、対応した壁から毒矢が飛んでくる単純な罠。おそらく毒自体はそこまで強くないはずだ。仮に当たってしまうとしたら、気を付けないといけないのは当たり所だな。ダメージ的には大した事はないはずだが、眼球に当たれば目はやられるだろうし、首なんかは単純に危険だ。ステータスと物理法則との境界線が曖昧な以上、この辺りは常に注意しておかなければならない。
二つ目の罠は落とし穴。わざと動かして確認してみたところ、このエリアは本当にただの落とし穴だった。落ちた先に針山があったりもしなかったし、当然某ゲームみたいに下の階に落ちる事もない。
三つ目は回転床。戦闘中じゃなければ特に危険はない罠と言える。
この三つが実際に発見した罠で、ゲームと同じならあと二種類。一つは魔集煙の発生。魔集煙とはその名の通り魔を集める煙の事で、この魔とはモンスターの事だ。煙はモンスターの好む臭いをしているらしく、近くにるモンスターを引き寄せる。と言うのが説明文にあったはずだ。
そして最後。爆発床。踏むと爆発してダメージを負う罠。いわゆる地雷的なもの。このエリアならそのダメージ値は低いはずだが、一度踏んでしまえば回避不能な為厄介な罠の一つである。ゲーム的に言えば、この爆発ダメージが固定だったのも厄介な要因の一つだった。
まあ、俺には罠を見つけるパッシブスキルである見極める者がある為、ただ歩いているだけなら罠にかかる事はない。むしろ、罠のスイッチをモンスターに踏ませる事で戦闘を有利にするなんて芸当もこなせる。因みに、見極める者。罠の設置場所が分かるだけでなく、その種類まで判別可能なスキルだ。ただし、視界に映る範囲限定だが。盗賊系のジョブならその限りじゃないが、そこは適正の差だから仕方ない。十分使えるスキルだしな。
そうして罠を避けつつ進む事十数分。27階に上がってから最初のモンスターと遭遇した。それも、中層では最も出会いたくないモンスター。マッド・ワーカーと。
マッド・ワーカー。泥状の身体を持つ不定形モンスター。物理攻撃に対し高い耐性を持ち、魔法系スキルを反射するスキルを持つ。体力は決して高くない為、仲間と連携を取れば倒すのは難しくないと言われている。つまり、ソロにとっては最悪の相手である。
反射がスキルである以上、フェイントも交えれば有効打を与える事は出来るし、倒す事も十分可能だ。とは言え、厄介な相手である事に変わりはない。
まあ、多様な手を持つ《俺|クリエイター》ならソロにしてもまだ相手にしやすい訳だが。
何にしても、他のモンスターが釣られてくる前に倒しておきたい相手だ。
「だから、早々に片付けさせて貰うぞ」
俺がそう言葉を発すると同時に、マッド・ワーカーは身体の一部を飛ばしてきた。これはマッド・ワーカーの通常攻撃の一つだ。
俺はその攻撃を避けつつ、マッド・ワーカーに対し有効であるスキルを発動させる。
「マジックスフィア」
20発フルでマジックスフィアを発動。その内の7発に炎属性をエンチャントする。炎属性をエンチャントしたのは、マッド・ワーカーの弱点が炎属性だからだ。
俺がマジックスフィアを展開し終えると、マッド・ワーカーも次の動作に移っていた。どうやら距離を詰めようとしているらしい。遠距離攻撃をされ続けるよりは好都合だ。
まずは1発。マジックスフィアをマッド・ワーカーに向けて放つ。この1発は炎属性をエンチャントしたものだ。そのままなら直撃コースだが、マッド・ワーカーはお得意の反射スキルを発動する。奴は魔法系スキルを必ず反射しようとする訳ではないが、自身に向かう炎属性のスキルに対しては優先的に反射を使う習性がある。スキルの発動と同時にマッド・ワーカーの前方に光の盾の様なものが現れた。それを視認した俺は、無属性のマジックスフィアをマッド・ワーカーに向けて放ちつつ、マッド・ワーカーの両脇と頭上を越える様に3発の炎属性のマジックスフィアを移動させる。
反射された炎属性のマジックスフィアと無属性のマジックスフィアが衝突し、相殺されそのまま消滅する。マジックスフィアに属性をエンチャントしても、基本的な威力は変わらない為しっかりと相殺可能なのだ。
反射時に受けた衝撃で動きを止めたマッド・ワーカーに対し、再び正面からもう1発炎属性マジックスフィアを放つ。その追撃も、そして先に奴の背後に配置した三つも本命ではない。
マッド・ワーカーの反射スキルだが、スキルである以上当然ウェイトタイムは存在しているはずだ。しかし、意図的に使わない事もありその辺りははっきりとしていない。それでもここぞと言う場面で反射を使わなかった事がない為、ウェイトタイムが極端に短いか、いくつかストックがあるか……もしくは、その両方か。などと言われている。何にしても、奴の反射スキルを掻い潜るのは普通なら難しい訳だ。
「まあ、マジックスフィアがあればその限りじゃないんだけどな」
さっきの説明は、ゲームにおけるマッド・ワーカーの噂話だ。だが、それはほぼ真実だ。そして俺はそれ以上に奴の能力を理解している。おそらく、ソロプレイヤーなら気付いている人間はいただろうが、そもそもソロプレイヤー自体少なかっただろうし、俺みたいに公開する気はなかったんだろうな。
正面から放ったマジックスフィアは、奴が新たに張った反射スキルで防がれるだろう。そしてそれに合わす様に三方向から飛ばしたマジックスフィア。四方向からの同時攻撃。だが、マッド・ワーカーはその全てに対し反射スキルを発動させた。つまり、ただのストックだけでなくそれらの同時発動も可能なのだ。パーティならそこまで発動させる前に倒せるからあまり知られていない事実だ。だが、俺はそれを知っている。この四方向同時攻撃に合わせて、俺は相殺用の1発を除き全ての無属性マジックスフィアをマッド・ワーカーの頭上へと配置していた。
マッド・ワーカーの反射は飛んできた方向にしか跳ね返せない。前方から放った一撃に対し相殺用のマジックスフィアを放っておき、残りの操作に意識を向ける。
残りのマジックスフィアは炎属性2発。無属性11発。その内1発を頭上から落とす。これは同時攻撃のほぼ直後というタイミング。直後と言っても、奴が回避行動を取るには十分な時間がある。更に正面には炎属性のマジックスフィアを配置しておく事は忘れない。奴は眼前の炎属性を警戒し、ほぼ確実に回避行動を取る。それも、背後へと避ける確率が高い。俺の誘導は成功し、予想通りに動くマッド・ワーカー。そして、その場所に10発のマジックスフィアが降り注ぐ。
おそらくしっかりと気付いている者は殆どいないであろう事実。マッド・ワーカーは、回避行動中には反射スキルを使えない。単純な移動中や攻撃モーションをキャンセルしてまで使用する反射スキルだが、何故か回避と同時には使用してこない。そしてここからは皆が知るところだが、ダメージを受けている最中にも反射スキルは使えない。10発のマジックスフィアの直撃を受けるマッド・ワーカーに、俺は残った2発の炎属性マジックスフィアを放つ。
多少の変化はあるものの、これが俺のマッド・ワーカーに対する常套手段だ。マジックスフィアが全て使えない時には、まあ他の手で何とかするけどな。
そして、ゲームの時と同様に俺の常套手段できっちりとマッド・ワーカーを倒す事は出来ていた。
さて。
このままさくさく進みますかね。




