第三十一話 再び塔へ
ジェシカと遭遇した翌日。この世界に来てから五日目。俺はある事を思い出しミルクちゃんの家に向かっていた。
アイテムとして農場で育てる種系を手に入れた訳じゃないが、エルダートレントの実を手に入れていた事を思い出したのだ。ゲームなら実はあくまでも使用アイテムだったが、現実ならば実の中には種があるはず。まさかこの種から育ててトレントになったりはしないだろうし、ミルクちゃんに育てて貰おうと思い至った次第だ。
「と言う訳で、これがその実なんだけど……育てられそうかな?」
ミルクちゃんの家に辿り着いた俺は、お茶を御馳走になりながらエルダートレントの実について説明し実際にその実をミルクちゃんに手渡した。
「はい! 任せて下さい!」
ミルクちゃんが言うには、モンスターから入手した種を育てていきなりモンスターになったなんて話はないらしい。ゲームの時はそれは当たり前の事だったけど、何せ知らないアイテムだしな。俺としては不安はあったけど、ミルクちゃんの様子を見る限り大丈夫そうな気もする。
「それじゃあ、よろしくね」
エルダートレントの実にある種を育ててエルダートレントの実がなるのかどうかは分からないけど、何かしらのアイテムにはなるだろうと期待をしつつ、俺はミルクちゃんの家を後にした。
次は塔だ。第一の目的はエトルアン。モモの話では、21階でも目撃された事があるらしいから、おそらく24階までは出るんだろう。20階に転移陣で行って、21階から探索してみるとしよう。今回は鉱石を掘るのも良いかもしれないな。
そんな事を考えながら塔に向かう。
そう言えば、ジェシカとの遭遇で娯楽品を見繕うのを忘れてたと今更ながら気が付いた。まあ、今は良いか。
ああ、鉱石を掘るならピッケルとかも必要だな。アイテムボックス内にピッケルはあまりなかったはずだし、どこかで手に入れないとな。いや、塔の1階で売ってそうだな。なかったら他に探しに行けば良いか。
などと、色々考えながら歩いている内に塔に到着した。
ピッケルが売ってないかと歩き回っていると、効き覚えのある声に呼び止められた。
「何か探し物かい?」
「ホーンか」
振り返ると、そこにはホーンがいた。俺に近付いてきた訳じゃなく、ちょうどホーンが陣取っている場所があった。どうやら商品にしか目が行ってなかったらしい。
「ちょっとピッケルを探してるんだが……」
「ピッケル? まさか、もう21階まで行ったのか?」
ピッケルを探してると言って21階だと判断する辺り、流石は塔で商売をしている身だと言ったところか。
俺が21階まで行ったと知って驚いているが、ミスリルナイトを倒したって言ったらどれくらい驚くんだろうな。いや、この反応を見る限りこの期間で21階まで行ったのもかなり異色みたいだし、そこまでは言わない方が良いかもしれないな。
「まあな」
「いやはや……クロウには驚かされるぜ。ワルツ連合が改心したのも、あんたが何かしたんだろう?」
ホーンは既にワルツ連合の事は情報を得ているらしい。実際に俺が何をしたかは分かってないだろうが、ホーンから情報を貰って直ぐにあの結果だ。俺が何かしたと判断するには十分だったんだろう。
「さてな。それより、ホーンはピッケルも取り扱ってるか?」
ホーンの問いを曖昧に濁す。見た感じ、ホーンの商品にピッケルはない。しかし並べてある物だけが取り扱っている品とは限らない。
「ああ。いくつかあるぞ」
それ以上の言及はしてこなかった。その辺、ホーンはきちんと弁えている。
「まずは鉄製の普通のピッケルだな。それと、鋼鉄製のピッケル。後は大鋼鉄製のピッケルだな」
俺の知る限り、ピッケルの種類としてはそれで全種だ。いくつか、と言った以上他にもあるのかもしれない。
鉱山洞窟で採れる鉱石は鉄、鋼鉄、大鋼鉄に加えて銅、銀、そして集魔石と言う特殊な鉱石のはずだ。どれも鉄のピッケルがあれば採掘は可能だが、硬度の差がある為耐久性を考えるなら当然良質の鉱石で作ったピッケルの方が良い。
俺が今持っているのは鋼鉄のピッケルが5本だったはず。これである程度は採れるだろうが、採掘目的とするなら大鋼鉄のピッケルも持っておきたいところではある。
「大鋼鉄のピッケルはいくつある?」
「2本だな。大鋼鉄は武器や防具に使われる事の方が多いからな」
2本か……値段次第だが、出来れば2本とも買っておきたいな。
「いくらだ?」
「1本銅貨50枚だ。鉄なら1本銅貨5枚。鋼鉄なら15枚だな」
大鋼鉄だけやけに高いな……
いや、希少性や耐久性を考えるならそのくらいはしそうでもある。大鋼鉄を採れれば元は取れるだろうし。
「2本とも買うから、少し安くしないか?」
一応値切ってみる。
「おいおい。これでも原価ギリギリなんだぜ。クロウにはこれからも儲けさせて貰うつもりだしな」
「なら、採った鉱石はホーンに売りに来る。ってのでどうだ? 何なら、少し安めに買い取ってくれても良い」
「それは嬉しい申し出だが、買取価格は商業ギルドで適正額が決められてるんだよ。まあ、オレに売りに来てくれるだけでもありがたくはあるが」
それでも抜け道はいくらでもあるだろうが……案外真面目な性格だったらしいな。
「そうだな……おまけとして鉄のピッケルを2本付ける。ってのはどうだ?」
さてどうしたものかと悩んでいると、ホーンがそう言葉を続けてきた。それなら銅貨10枚分まけてくれと言いたいところだが、きっとその方がホーンにとっての利益が高いんだろう。
「分かった。それで手を打とうじゃないか」
「毎度あり」
まだ金を払った訳でもないのに、ホーンがにこやかな笑みを浮かべて答えた。まあいいけどな。
俺はホーンに銀貨1枚を渡し、大鋼鉄のピッケル2本と鉄のピッケル2本を受け取った。ピッケルを全てマジックボックスにしまい、ホーンと別れる。
転移の魔法陣を使い20階へ移動する。
昨日はライム任せに進んだからな。今日はマッピングしながら進むとしよう。
そう決めて、21階への階段を昇った。